445話 三人の魔装士 その1
サラ達が中央広場へとやって来るとそこには既に魔装士がいた。
それも三人。
それを見てリオが首を傾げ、アリスが驚きの声を上げる。
「あれっ?ヴィヴィさんが三人もいますよっ」
「そんなわけないでしょう」
サラが呆れ顔でアリスの言葉を否定する。
三人の魔装士はサラ達の姿を認めるとほぼ同時に手を挙げた。
「ぐふ」
「ざっく」
「な……げ、げすっ」
口癖からわかるように一人はカルハン製第二世代魔装具を装備した魔装士だ。
もう一人も口癖からカルハン製第一世代魔装具を装備した魔装士だとわかる。
そして最後の一人だが、口癖がカルハン製のものではないことから明らかのようにフェラン製魔装具を装備した魔装士だった。
それも運搬用に特化した、あらゆる機能をオミットした廉価版であった。
フェラン製魔装具を装備した魔装士は仮面の下が開いて口元が見えており、髭面のオッサンらしいとわかる。
他のカルハン製魔装士達の声は仮面で声は低くなり、ゆったりした魔装具のせいで性別は不明である。
「ぐふ。遅かったな」
「ざっく。いつまで待たせるんだ。さっさと行くぞ」
「おう!さっさと行くぞ!じゃなかったっ。さっさと行くぞ、げす!」
「「「……」」」
どうやら偽者達はサラ達の話を盗み聞きしていたようだ。
ヴィヴィが別行動をとることを知り、成り代わろうと考えてサラ達を待っていたようであった。
サラは呆れる。
(よくこんな幼稚な作戦がうまく行くと考えるわね)
顔や冒険者カードを見ればすぐに偽者だとバレるのだ。
もしかしたら彼らはとりあえず一緒に行動さえすればなし崩しにパーティに入れると考えているのかもしれない。
だが、サラはすぐに確認しようとはしない。
サラはさっきの行為、リオとアリスを殴ったことを反省していたのだ。
(最近、私はちょっと手が出るのが早すぎる気がするわ。もちろん、リオ達にも問題があるけど)
そこでサラはこの者達を使って忍耐力を鍛えようと考えたのだった。
魔装士三人がお互いを見つめる。
実際は睨み合っているのだが、お互い仮面で表情が見えない。
「ぐふ。なんだお前らは。まさか私の真似をしているつもりか?」
「ざっく。それはこっちのセリフだ」
「だな!じゃなかった!げす、こっちのセリフだ!げす!」
サラが彼らに問いかける。
「それでバレないと思っているのですか?」
サラの言葉にカルハン製第二世代魔装具を装備した魔装士が勝ち誇った声で言った。
「ぐふ。サラの言う通りだ。さっさとどっか行け偽者ども!」
「ざっく。ふざけるな。私が本物だ。お前らこそどっか行け!」
「げす、俺こそ本物だ!お前らこそどっか行け!この偽者野郎どもが!げす!」
彼らは全員本人だと言い張った。
アリスが呆れ顔で言った。
「あのっ、これっ、誰が偽者かすぐわかりますよねっ?」
「そうですね。でもまあ、“まだ時間はあります”からしばらく様子を見ましょう」
「そうなんだ」
彼らは自分こそ本物だと言い張り、なかなか決着は着きそうになかった。
そんな時である。
「ちょっと待て!!」
そう言ってこちらにやって来る一組のパーティがあった。
「お前ら!」
そう言ったフェラン製魔装具を装備した魔装士はなんか嬉しそうだった。
「なんですか、あなた方は?」
「通りすがりの冒険者だ」
「はあ。その通りすがりの冒険者が何か?」
「いや何な、さっきから見てたんだがよ、あまりに見るに堪えない言い争いをしてっからよ、我慢出来なくなって手助けしてやろうと思ってな」
「は?手助けって何をですか?」
「お前ら、リサヴィだろ?で、お前らの本物の棺桶持ちが誰かわからなくて困ってんだろ?だからよ、俺らが助けてやるぜ!」
そう言った自称通りすがりのパーティのリーダーとメンバーの顔はなんか誇らしげだった。
「あのっ、わたし達のパーティでもないあなた達がなんでわかるんですっ?」
アリスの当然の疑問にリーダーが横柄に頷いた。
「俺らはお前らより冒険者生活が長いからな!」
そう言ったリーダーをはじめメンバーはまたもなんか誇らしげな顔をした。
ちなみにフェラン製魔装具を装備した魔装士も露わになっている口元から誇らしげな顔をしているのが容易に想像できる。
「いえ、全然説得力ありませんから」
サラの言葉を彼らはスルーして話を進める。
「さっきから見ていてハッキリわかったぜ。リサヴィの棺桶持ちは……お前だ!」
リーダーがキメ顔で指差した相手は大方の予想通り、フェラン製魔装具を装備した魔装士だった。
その言葉を受けてフェラン製魔装具を装備した魔装士がガッツポーズを決める。
それに他の魔装士達が怒り出す。
「ぐふ!ふざけるな!」
「ざっく!そのバカは一目で違うって誰だってわかるだろうが!」
「「「「ざけんな!!」」」」
自称通りすがりのパーティとフェラン製魔装具を装備した魔装士の怒鳴り声が見事にハモった。
自称通りすがりのパーティのリーダーはもう決着はついたとでも言うように呆れた顔をしているサラに今後の事について話し始める。
「よしっ、サラ!俺達が本物を当ててやったんだ。お礼に俺達の依頼を手伝ってくれ」
「そんくらいいいだろ?」
「いいよなサラ!……あ、げす!」
フェラン製魔装具を装備した魔装士は思い出したかのように“げす”を付け足した。
「よしっ、ギルドに行くぞ!」
「行くわけないでしょう」
歩き出した自称通りすがりのパーティは後についてこないサラ達を見て慌てて戻って来た。
「何故だ!?」
「俺達はお前らの恩人だぞ!」
「どこがですか」
「なんだと!?」
サラはため息をついてフェラン製魔装具を装備した魔装士を指差しながら言った。
「もういいですからそれを連れてどこかへ行ってください」
「「「「ざけんな!!」」」」
「『ざけんな』じゃありませんっ。その人は一目で偽者ってわかるほどヴィヴィさんに似てませんっ」
リーダーがアリスにいやらしい笑顔を向ける。
「ひっ……」
アリスはリオの後ろに隠れた。
「はははっ、アリエッタ。こいつは本物だ。間違いなくお前らの棺桶持ちだぜ。俺らが保証する!!」
そう言ったリーダーをはじめメンバー、そしてフェラン製魔装具を装備した魔装士がキメ顔をアリスに向ける。
その魔装士は顔の大半が仮面で見えなかったが。
どちらにしてもアリスはリオの背に隠れていたので効果はなかった。
いや、隠れていなくても効果はなかっただろう。
全員中年の冒険者であり、その容姿は今は言うまでもなく、若い頃もリオの足元にも及ばないだろう事がわかる。
そんな者達のキメ顔はとても滑稽であったが本人達だけ気づかない。
おそらく娼館で褒められたのを鵜呑みして信じたのだろう。
「なあ、サラ、お前からも言ってやってくれよ、げす」
ヴィヴィから一番遠いはずのフェラン製魔装具を装備した魔装士がサラに助けを求める。
サラは内心、いや、しっかり呆れ顔を見せながらも行動する事にした。
「そうですね。では、私から質問をします」
そう言ってサラがアリスに手を向ける。
「あなた方が私達の仲間だと言うのなら彼女の名前を言ってみなさい」
真っ先に答えたのはフェラン製魔装具を装備した魔装士だった。
「馬鹿にすんじゃねえ!なあ、アリエッタ!」
「……」
自信満々答えたフェラン製魔装具を装備した魔装士だったが、訪れた沈黙に不安を覚える。
サラはそんな彼の心情など気にする事なくカルハン製第一世代魔装具を装備した魔装士に顔を向けた。
「あなたは?」
カルハン第一世代魔装具を装備した魔装士は不満げに答えた。
「ざっく、仲間を馬鹿にするにも程がある」
そう言って回答を拒否した。
それを聞いてフェラン製魔装具を装備した魔装士が再び答える。
「そうだ!ざけんじゃねっー!」
さっきの発言をなかったことにしたいようだったが、サラは彼を無視して最後の一人、カルハン第二世代魔装具を装備した魔装士に尋ねる。
「あなたは?」
「ぐふ、何っているのだ。アリスだろうが」
カルハン第二世代魔装具を装備した魔装士が自信満々に答えたのを見て、すかさずフェラン製魔装具を装備した魔装士が会話に割って入る。
「てめえ!俺の真似すんじゃねー!!」
「ぐふ?お前はアリエッタと言っただろ」
「ざけんな!言ってねー!なあ!?」
彼が自称通りすがりのパーティに同意を求めると、彼らは期待に応えて「その通りだ!」と叫んだ。
「どうだ!?」
勝ち誇った顔をするフェラン製魔装具を装備した魔装士にリオが呟いた。
「口癖がなくなってる」
その言葉を聞き、彼はカッとなってリオに向かって叫んだ。
「げすげすげす!これで満足か!?ああ!?」
フェラン製魔装具を装備した魔装士はもうメチャクチャであった。
もはやヴィヴィに成り切るのを諦めたようにしか見えないのだがその場に居座り続けるのであった。
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