443話 武器屋へ
「リオ、ちょっとやりすぎですよ」
ギルドを出た後、サラがリオを注意する。
「そうなんだ」
「あっ、もしかしてっリオさんもギルドの事で腹を立てていたのですかっ?」
アリスの問いにリオは首を傾げた。
「どうだろう?」
「『どうだろう』って……」
サラが話している途中でヴィヴィが割り込んだ。
「ぐふ。リオはサラの影響を受け過ぎたな」
「……どういう意味ですか?」
「ぐふ。気が短くなった」
「そっくりそのままお返しします」
睨み合う二人をアリスが仲裁する。
「落ち着いてくださいっ。二人とも気の短さは五十歩百歩ですよっ」
にっこり笑顔のアリスに二人がお礼のげんこつを贈る。
「痛いですっ」
リオはそんなやり取りを無表情に見つめながら言った。
「もしかしたら僕は今日”あの日“だったのかもしれない」
「ええっ!?」
顔を赤くして驚いたのはアリスだけだった。
サラが呆れた顔をしながら言った。
「またナックですか?」
リオが頷く。
「意味もなく機嫌が悪い時はあの日の場合が多いんだって」
そう言ったリオは無表情のままだったが、なんか誇らしそうに見えた。
そんなリオをサラは冷めた目で見ながら確認する。
「……それは女性だけと言ってませんでしたか?」
「そうだった」
「ぐふ、つまりサラはいつもあの日というわけだな」
「ああ。ヴィヴィ、あなたはそうだったんですね」
「「……」」
再び睨み合う二人。
よせばいいのにまたアリスが仲裁に入る。
「落ち着いてくださいっ。大丈夫ですっ。二人共ともどっこいどっこいですよっ」
二人は再びアリスにお礼をした。
「痛いですっ!リオさーんっ!」
リオはアリスに抱きつかれて立ち止まった。
「武器屋でいいんだっけ?」
「ぐふ」
「ベルフィ達の所には行かないのですか」
「ぐふ。お前は痴呆症か?お前の昔の男はもういないと言っただろう」
「あなたこそ痴呆症ですか?そんな人はいないと言ってるでしょう」
「「……」」
「僕はどっちでもいいけど」
「ぐふ。ではサラ、ベルフィ達の家へ案内してもらおうか。できるものなら、だがな」
「な……」
ヴィヴィはサラが方向音痴であることを知って挑発しているのだ。
サラは当然理解しており怒り心頭であったが、残念ながらサラは迷わずベルフィ達ウィンドの家へいく自信は全くない。
「……まあいいでしょう。ではまずは武器屋に行きましょう」
サラは仕方ないという顔をしたが、ヴィヴィは「ぐふふ」と呟き勝ち誇った顔する。
その顔は仮面で見えなかったが、サラはその顔が想像できてしまい、怒り倍増であった。
サラとてやられっぱなしでいるつもりはなく、リオへ顔を向けた。
「では、リオ案内してください」
大人気ないサラは同じ方向音痴だと信じるリオで鬱憤を晴らそうとしたのである。
将来、勇者、そして魔王になるはずの相手にいい度胸であった。
「わかった」
リオはそういうと歩き出した。
リオは迷わず武器屋に到着した。
その武器屋は以前にリオが剣を購入し、ヴィヴィが予備の仮面を購入したところである。
一人敗北感を味わうサラをアリスが慰める。
「サラさんっ、誰にでも苦手なもののひと……ふたつやみっつありますよっ」
サラがアリスにジト目を向ける。
「アリス、普通、ひとつやふたつって言わない?なんでふたつから始まったの?」
アリスはすっと顔を背けた。
代わりにヴィヴィが答えた。
「ぐふ。方向音痴と料理下手の二つが既にあるからだろう」
「黙りなさい!私の料理はそこまで酷くありません!」
「ぐふ、断る」
「ですねっ」
「そうなんだ」
「まだなにも言ってないのに何を断ってるんですか!」
「じゃ、入ろう」
リオはそう言うと怒っているサラを放ってさっさと武器屋に入って行った。
それにアリスとヴィヴィが続き、最後に不満顔のサラが続いた。
カルハン製魔装具だが、以前より品揃えが悪くリムーバルバインダーはひとつもなかった。
逆にフェラン製の魔装具が増えていた。
店主に尋ねると済まなそうな顔で言った。
「実はカルハン製の魔装具の人気が出ておりまして」
「そうなんだ」
「はい。なんでも“暴力の盾”とかいう二つ名を持つリサヴィというパーティの魔装士に影響を受けたようなんです」
「「「「……」」」」
「それでフェラン製からカルハン製に乗り換える者達が増えたみたいなんですよ。私としては倉庫をずっと温めていた魔装具を処分、いえ、ともかく売ることができて暴力の盾様様だったのですが」
その後に「こんな事ならもっと値段を高くしておけばよかった」とぶつぶつ呟いていた。
サラが疑問を口にする。
「以前は教団の異端審問官を恐れていると聞いた気がしましたが?」
「あ、はい。しかし、リサヴィにはあの六英雄の一人ナナルの弟子の鉄拳制裁サラが一緒にいるということで恐れる心配はないと思ったようですね」
「「「「……」」」」
サラは何とも言い難い表情をするが、その顔はフードで隠れて見えなかった。
そこで店主ははっ、とした顔をしてリサヴィのメンバーを見回す。
「……そういえばあなた方はそのリサヴィと同じパーティ構成ですね」
「ぐふ。気のせいだ」
「そうですか」
ヴィヴィの言葉に店主は疑いを持たなかった。
何故なら、
「最近、あなた方のような若い冒険者達の間ではリサヴィと同じパーティ構成にするのが流行っているそうですね」
「「「……」」」
「そうなんだ」
店主はどうやらリオ達をその真似をしている者達だと思ったようだ。
そう思わせた理由の一つはリオがショタではなかったからだ。
サラのショタコン疑惑は根強く残っており、リオがショタではなく、更には美形である事が別のパーティだと思わせたのだった。
「ここでは修理できないんですかっ?」
「すみません。ただ、修理でしたらここから少し先に魔道具屋がありますのでそこで出来ると思いますよ」
「そうなんだ」
「あ、あと魔術士ギルドでも修理してくれるかもしれませんよ」
「魔術士ギルドですか?」
「はい。ヴェインの魔術士ギルドは魔道具開発に力を入れていますし、噂で聞いたのですが、フェランから協力依頼があってカルハンの魔道具解析を行なっているそうですよ」
「ぐふ……」
店を出てリオがヴィヴィに尋ねる。
「ヴィヴィ、どっちにする?」
「ぐふ。まずは魔道具屋だな」
「わかった」
リサヴィは魔道具屋へと向かった。




