442話 Bランク冒険者の勧誘
リサヴィとグラマス、ホスティとの会談だが、双方険悪な雰囲気となった。
とはいえ、予め報酬内容を知らせていなかったホスティに非があるのは明らかである。
万が一にも「気に入らないなら報酬はなしだ!」などとして、その情報が漏れたりしたら彼の信用は失墜し、グラマスの座を狙っている者達を喜ばすことだろう。
それにリサヴィが遺跡探索ギルドへの移籍を考えているという情報もあり、それだけはどうしても避けたいホスティは強気にでることができなかった。
結局、報酬についてはシージンがこうなることを予想して用意していた代案で決着がついた。
リサヴィがグラマスの部屋を出るとき、ホスティが不機嫌そうな顔でリサヴィの面々を睨んでいた。
サラが他のメンバーの様子を窺うと全く気にしていないようであった。
冒険者ギルドを追放されたら遺跡探索ギルドへ行けばいいと思っているのかもしれない。
普通の冒険者ならそれでもいいが、サラはジュアス教団の神官である。
これがもとで教団と冒険者ギルドの関係が悪くなったらと心配していた。
(アリスも教団の神官なのだからもうちょっとその辺りの事を考えて欲しいのだけれど)
のほほんとした顔で前を歩くアリスを見ながらサラはため息をついた。
ヴェインギルドにいる冒険者達の中にクズはいなかった。
その理由はクズ冒険者達が利用できる冒険者が他のギルドに比べて圧倒的に少ないからだ。
ヴェインは高ランク冒険者が集まっている。
クズ冒険者の多くはCランクであり、彼らの必殺呪文“Cランク”が通じないのである。
その代わりにというわけでもないがプライドの高い冒険者が多かった。
クズ達もプライドだけは異様に高かったが、彼らの腕はプライドの高さに全く追いついていなかった。
しかし、ヴェインではプライドの高さに見合った力を持った冒険者ばかりであった。
プライドの高さではギルド職員も負けてはいない。
彼らはDランク以下を一人前の冒険者と見ていなかった。
そんなギルド職員達の中に一人怯えた表情をした受付嬢がいた。
その受付嬢は二階のグラマスの部屋のある方を落ち着きなくチラチラと見ていた。
彼女こそFランク時代のリサヴィに見下した発言を連発した受付嬢であった。
彼女はリサヴィの名声が高くなるにつれ、自分が見下した態度をとっていた事を気にし始めた。
そして今日リサヴィが来た事を知り、あの時の事を根に持って仕返しに来るのではとビクビク震えていたのである。
二階から降りてきたリサヴィはそんな彼女の怯えなど全く気にする様子もなく、彼女の前を通り過ぎた。
通常、嫌がらせをされた方は相手を覚えているものであるが、リサヴィの誰も彼女を覚えていなかった。
いや、もちろん「ヴェインに態度の悪い受付嬢がいたな」くらいは覚えていたが名前や顔などは覚えていなかった。
リサヴィにちょっかいをかけて来る者が多すぎてその程度のことをいちいち覚えていてはきりがなかったからである。
リサヴィがそのままギルドを出て行くようだとわかり、その受付嬢がほっと胸を撫で下ろしていると彼らを呼び止める者達がいた。
「おい、待てよリサヴィ」
名を呼ばれてリサヴィの面々は立ち止まり、声をかけてきた相手を見た。
リサヴィに声をかけてきた彼らはBランクパーティでその顔は皆自信に溢れていた。
クズ達の根拠のない自信とは違い、これまでの実績に裏打ちされた自信であった。
「グラマスと何話してたんだ?」
「ぐふ。お前達に言う必要はないな」
ヴィヴィの素っ気ない態度にそのBランクパーティは怒り出す。
プライドの高い彼らはランクが下の、それもクラス最弱といわれる魔装士に軽くあしらわれたのが我慢ならなかったのだ。
「何だと!?」
「棺桶持ちがいい気になるな!」
「お前の事を“暴力の盾”なんて呼んでる奴がいるからってな、調子に乗ってんじゃねえぞ!」
「ぐふ」
サラは面倒くさそうな顔をしながら言った。
「気になるならグラマスに直接聞いてください」
サラを見て彼らはヴィヴィへの態度とはガラリと変えた。
「おう、お前がサラだな。お前は噂通りいい女だな」
その言葉でサラは自分がフードを脱いだままだったことに気づいたが、今更なのでフードを被ることはしなかった。
「他に用がなければこれで」
リサヴィの面々が出口に向かおうとするが、彼らが出口の前に立ち塞がる。
「邪魔です」
「まだ話は終わってねえんだよ」
「では手短にお願いします」
「ったく、気が短えなあ」
そう言ってBランクパーティのメンバーがキメ顔しながら名乗りを上げる。
サラは疲れた顔をしながら言った。
「……あの、私の話聞いていましたか?手短にと言ったの何故自己紹介など始めるのですか」
「何言ってんだ。もう俺らが誰かわかっただろう?」
どうやら彼らはそれなりに有名なパーティだったらしいが、サラはその名に聞き覚えはなかった。
「それで?」
彼らはサラの態度を見て、“知らないフリ”を続けるのだと思った。
リーダーはやれやれ、という顔をした後で再びキメ顔をして言った。
「サラ、俺らのパーティに入れてやる!」
「アリエッタも入れてやってもいいぞ!」
「「……」」
サラはため息をついて言った。
「お断ります」
「何だと!?何故だ!?」
リーダーをはじめ、メンバーは本当に断られるとは思わなかったようで心底驚いたような表情をする。
サラは面倒くさそうに理由を言った。
「何故だも何も私達は既にパーティに入っているのを知っているでしょう」
「じゃあ、アリエッタだけか」
「……頭大丈夫ですか?」
サラの問いは彼らに聞こえなかったようだ。
彼らがキメ顔をアリスに向ける。
「……」
「おい、アリエッタ!」
アリスは無言のままつつつ、とリオの後ろに隠れた。
「てめえ!」
アリスが行動により拒否を示すと彼らはまた怒り出した。
そんな彼らを見てリオが呟いた。
「……邪魔」
「うるせえ!お前こそ邪魔だ!」
Bランクパーティのリーダーがリオに殴りかかってきた。
しかし、リオはあっさりかわすと彼の膝の後ろ、ひかがみにローキックを放って膝かっくんをする。
「うおっ!?」
そしてちょうどいい位置にきた頭を蹴り飛ばした。
「が……」
リーダーは両手を広げ小躍りするかのようにクルクル回転しながら宙を舞い、壁に激突してあほ面晒して気絶した。
「ここにもいたんだクズ」
「ぐふ。クズはどこにでもいるぞ」
彼らの名誉のために言っておくと彼らはクズではない。
クズスキル?は使わないし、Bランクに相応しい実力を持っている。
ただ、性格に難があっただけである。
「な……」
「リ、リーダー!!」
「こ、こんなあっさりリーダーがやられるなんて……」
Bランクパーティのメンバーが驚愕の表情をリオに向ける。
「もう終わり?」
メンバーにリーダーの仇をとる気持ちは生まれなかった。
今の一瞬でリオの力を理解したのだ。
リオの視線を受け、残りのメンバーは首を横に振った。
「す、すまない!」
「悪かった許してくれ!」
メンバーが謝罪するが、リオは首を傾げたあと、右手を伸ばして「かかって来い」とばかりに手をくいっくいっ、と動かしてメンバーを挑発する。
リオがやる気であることに残りのメンバーは恐怖してリサヴィで唯一話が通じそうなサラに助けを求める。
「も、もうお前達には関わらないから許してくれ!頼む!」
彼らの言葉を受けてサラが仲裁に入る。
「リオ、時間が勿体無いですから行きましょう」
「どうってことないよ。一分もかからない」
「「「!!」」」
リオが残りのメンバーを一分以内に倒すと宣言したことで彼らはバカにされたとわかったが怒りは生まれなかった。
リオへの恐怖が勝ったのだ。
そこへ遅らばせながらギルド職員がやって来た。
「リ、リオさん、ギルドでの乱闘はおやめください!」
「……」
ほっとしている残りのメンバーに向けてリオが言った。
「邪魔」
その言葉で自分達が出口を塞いでいたことに気づき慌てて退いた。
リサヴィがギルドを去った後、ギルドにいた者達はそのやり取りの間、誰も喋っていなかったことに気づいた。
皆、リオの迫力に圧倒されて話すのを忘れていたのだった。
他にもサラ達を勧誘することを考えていた者達がいたが、リオの力を目の当たりにして断念した。
リオが数々のBランク冒険者を一蹴した噂が本当だったと確信したからだ。
誰かがぽつりと言った。
「……どこが“冷笑する狂気”だ。笑ってなくても狂気だぞあいつ」




