439話 援護射撃
翌朝。
リサヴィはその街のギルドで別のライバーに乗り換えてヴェインに向けて出発した。
ちなみに乗り換えたライバーだが最初のものと大差なかった。
あとこのギルドにはリサヴィの移籍話が伝わっていなかったらしく対応は普通だった。
高速移動していたライバーが加速を止め、荒地から街道に乗った。
ライバーに搭載している魔導エンジンには使用時間制限があり、再度使用するにはしばらく休ませる必要がある。
街道を走るライバーだが、馬形ゴーレムの動きはとても自然で普通の馬車にしか見えない。
「ここから先はしばらく街道を進みます。日中なので魔物は出現しないでしょう」
御者がそう言った矢先に「嘘だろっ!?」と彼の叫びが聞こえ、ライバーが急停止した。
「ど、どうしたんですかねっ?」
「うむ。魔物がいるようだな」
ヴィヴィが仮面をつける。
その後、御者から説明があった。
「ぜ、前方に魔物の群れがいますっ。でも安心してください!こちらには気づいていないようですっ。まわり道をしますがすぐに取り返しますのご安心を!」
「ちょっと待ってください。誰かが襲われているのではないですか?」
「そ、そのようですが……」
「では助けましょう」
御者は顔を真っ青にして反対する。
「そ、それはダメです!私達はあなた方を目的地まで届ける義務があります!それにライバーをそんな危険な場所に向かわせる事なんて出来ません!」
「では見捨てると言うことですか?」
「わ、私達はあなた方を無事に届ける事が任務ですので……」
御者は直接言葉にはしなかったが見捨てる気のようだった。
とはいえ、御者の意見も決して間違いではない。
誰ともわからぬ者のために命を張る理由はないし、高価なライバーを壊したりしたら彼らは責任を取らされるだろう。
サラが反論しようとした時だった。
リオが馬車のドアを開けて外に出た。
「ちょ、ちょっとリオさん!?」
御者は慌てるがリオは気にしない。
リオに続いて皆が馬車から降りた。
「こ、困りますって!!」
しかし、御者の言うことも誰も聞かなかった。
前方の戦いを見てヴィヴィが呟いた。
「ぐふ。なかなか腕の立つ奴が一人いるな」
「……そうだね」
ヴィヴィはリオの表情が少し変わったように思ったが、その事を指摘しなかった。
「ぐふ。だが、所詮は多勢に無勢だな。撃退に成功したとしても犠牲者は確実に出るだろう」
「リオ、助けましょう」
「そうだね」
「皆さん!本当に困りますって!!」
御者達が悲鳴をあげながらリサヴィの前に立ち塞がる。
「み、皆さんを危険な場所へ向かわせる事はできませんっ!」
「じゃあ、ここから援護射撃しよう」
「え?援護射撃?」
「ヴィヴィ、弓使うよ」
「ぐふ」
リオは馬車の上にひょいっと飛び乗ると、リムーバルバインダーを固定していた紐を解いて中から弓と矢筒を取りだした。
矢は魔法がかかっていないものを選んだ。
魔法がかかっているものは強力すぎて周囲にもダメージを与える可能性が高かったからだ。
サラも腰からスリングを外して援護の準備をする。
それを見て御者が首を傾げる。
「あの、本当にここから援護するだけですよね?」
「はい」
「でも、その、届きますか?それに命中しますか?」
御者達の疑問はもっともだった。
矢や弾が届くかといえば届くだろうが、とても命中させられる距離とは思えなかったのだ。
「大丈夫でしょう。武器に強化魔法をかけます」
「そ、そうですか」
サラが御者達と話している間もリオは淡々を準備を進めていた。
リオの使う弓はリムーバルバインダーの中で魔法強化されていたので、普通の矢を使っても飛距離が伸びており、威力も増している。
リオが弓を構えるのを見てサラが慌てて注意する。
混戦状態の中のガル・ウォルーを標的に選んだように見えたからだ。
「リオ、私達は混戦場所は避けて離れている敵を倒していきましょう」
「……」
「リオ?聞いていますか?」
リオはサラが話している途中で矢を放った。
それはまさにサラが注意したばかりの混戦の真っ只中だった。
「リオ!?」
リオはサラの注意を無視して更に矢を放つ。
「リオ、馬車の人達に当たります!混戦場所は避けなさい!」
サラがリオの無茶な行動を注意するがリオはやめなかった。
ヴィヴィは仮面の望遠機能でその状況を見ていた。
リムーバルバインダーの目ほど遠くは見えないが、裸眼よりは遥か先まで見ることが出来る。
リオは混戦状態の中のいるガル・ウォルーを確実に仕留めていた。
一つも誤射はない。
全てガル・ウォルーに命中していた。
それも急所にだ。
ヴィヴィはその正確さに驚いていたが、その顔は仮面で隠されて誰も気づかない。
(!!)
ヴィヴィは馬車の者達に当たる可能性があるにも拘らず矢を放ち続けるリオの行動に意味があることに気づいた。
(……リオはあの女魔術士を守っている、のか?)
確かにリオは女魔術士を攻撃する恐れのあるガル・ウォルーから仕留めていた。
「リオ!いい加減にしなさい!あなたは一体何を……」
「ぐふ。サラ、うるさいぞ。リオは考えて行動している」
「え!?」
「ぐふ。文句言う暇があるならお前もさっさと援護したらどうだ」
「……リオ、ヴィヴィ、あとで説明してもらいますよ!」
サラは馬車の者達がガル・ウォルーに集団で襲われないように足止めを第一に考えて魔法で強化したスリングの弾を放った。
「「お、お見事です!!」」
御者達は褒めたがお世辞である。
彼らにはリオとサラが放った矢や弾が実際に魔物に命中しているのかわからなかった。
リオ達の攻撃に気づき、ライバーへ向かってくるガル・ウォルーもいたが、残らずリオとサラが倒した。
リオ達に接近出来たものは一体もいなかった。
「さあ、教えてください。あんな無茶なことをした理由を!」
ヴェインへ向けて出発したライバーの中でサラがリオとヴィヴィに詰問口調で問う。
口を先に開いたのはヴィヴィだった。
「リオ、お前は女魔術士を守っていた。そうだな?」
「そうだね」
リオはヴィヴィに頷いた。
「えっとっ、その人はっリオさんの知り合いだったのですかっ?」
「どうだろう?」
「またそれですか」
サラはため息をつく。
「では何故助けようと思ったのですか?」
リオは珍しく?考えながら言葉を口にする。
「……“彼ら”を見たときに感じたんだ」
「うむ?彼らというと腕の立つ戦士もか?」
「そうだね」
「それで何を感じたのですか?」
サラの問いにリオは首を傾げる。
「よくわからない。懐かしい、という気持ちのような気がするけど自信はない。今までそんなこと思ったことないからね。ともかく、僕の心が急かしたんだ。「彼らを守れ」ってね。だからそれに従うことにした。拒否する理由もなかったし」
「心、ですか」
「ぐふ。それは失った記憶に関係してそうだな」
「そうかもね」
「彼らに会わなくてよかったのですか?失った記憶を取り戻すキッカケになったかもしれないんですよ」
「別に記憶がなくても困ってないし、どうしても会いたいとも思わなかった」
「……そうですか」
「えっとっ、初歩的な質問なんですけどっ、リオさんはその人達の見分けがついたんですかっ?わたしには遠すぎて顔どころか性別もわからなかったんですけどっ」
「そうだね」
「流石ですっ、リオさんっ!」
アリスの中でリオの好感度が上がった。
もう上限に達していたと思われていたが、限界突破したようだ。
サラはリオと違ってリオの過去に非常に興味があった。
リオが以前に話した身の上話が怪しくなって来たからだ。
だからと言ってリオが嘘をついているようには見えない。
そのため、リオの過去を知る者がいるなら話を聞いておきたかったのだが、既に彼らから遠ざかっており、「戻れ」と言っても御者は首を縦に振らないだろう。
(ヴェインでベルフィ達にリオの村の場所を聞くついでに彼らのことも聞いてみましょう)




