438話 ライバー
リサヴィがセユウギルドを訪れると、ギルド職員達はすぐにリサヴィだと気づいた。
彼らに緊張が走ったのがサラにはわかった。
どうやら先のギルドでの一件がセユウギルドにも伝わっていたようであった。
そんなことなど知らない冒険者達はギルド職員の態度に首を傾げるのだった。
ギルド職員の一人が緊張した面持ちでやってきた。
「リ、リサヴィの皆さん、お待ちしておりました」
そう言って会議室へ案内する。
そこで今後の予定の説明があった。
ヴェインまで三日の行程で一日毎にライバーを乗り換えるとの事だった。
既にセユウのライバーの準備は出来ており、リサヴィさえよければすぐにでも出発できるとの事だったのでそのまま出発する事にした。
ライバーが保管されている場所へ向かう途中、案内するギルド職員は緊張した面持ちでサラに話しかけて来た。
「あの、」
「はい?」
「う、噂で耳にしたのですが、その、皆さんが遺跡探索ギルドに興味をお持ちとか……」
「はあ。興味はありますがそれだけです」
「そ、そうですかっ」
ギルド職員は心底ほっとした表情をする。
どうやらリオの不用意な発言は、リサヴィが遺跡探索ギルドに乗り変える気だというものに変わっていたようだった。
用意されていたライバーは馬車の姿をしていた。
馬車を引く馬は本物ではなくゴーレムだった。
近くで見ても意識して見ない限り作り物とはわからないだろう。
それくらいよく出来ていた。
これはライバーが高価で生産数が少なく、盗難対策でもあった。
ライバーの御者(というより運転手というのが正しいのだろうが)とその交代要員がリサヴィに挨拶をする。
彼らもリサヴィの遺跡探索ギルド移籍の噂を知っていたのだろう、余計な事を言って気分を害されてはまずいとでも思ったのか、必要な事しか話さなかった。
まるで腫れ物に触るかのように扱われた。
その姿を見てサラはため息をつく。
ちなみに他のメンバーは全く気にした様子はなかった。
サラ達が乗るライバーの乗客は定員四名だ。
これに御者二名を加えて六名となる。
車内にリムーバルバインダーを置くスペースがなかったので客車の上にある荷台に載せた。
ヴィヴィがリムーバルバインダーを載せるのを見てリオはリムーバルバインダーの修理がまだだったのを思い出す。
「ヴィヴィ、ヴェインならリムーバルバインダー修理できるよね」
「ぐふ、そうだな」
「ついでにベルフィ達に会いに行きましょう」
サラの言葉にリオが首を傾げる。
「何故?」
「え?何故って……リオは会いたくないのですか?」
「別に」
リオの冷めたい反応にサラは言葉を失う。
「ぐふ。サラ、忘れているかもしれんがお前の昔の男はもういないぞ」
「そんな者は最初からいません!」
「では出発します」
リサヴィを乗せたライバーがセユウの街を後にする。
しばらく街道を普通の馬車のように走っていたが、街から離れてから街道を外れた。
荒地を走るため揺れが激しくなったが、すぐに止んだ。
街道を進んでいるより揺れが少なくなった。
アリスが首を傾げる。
「あれっ?荒地を進んでるはずなのに揺れなくなりましたねっ?」
ヴィヴィが仮面を外して言った。
「うむ。浮いているのだろう」
ヴィヴィの言う通りだった。
ライバーは地上より三十センチほど浮いて飛行していた。
そのため、地面の凸凹を感じなくなったのだ。
「そうなんですねっ、って、ヴィヴィさんっ、どうしたんですっ?仮面を取ったりしてっ」
「確かにあなたが部屋でもないのに仮面を取るなんて珍しいですね」
「うむ。このライバーの魔道具が私の魔装具と干渉しているようだったのでな」
「そうなんだ」
御者席から声が聞こえた。
「リサヴィの皆さん、これから高速移動します。お立ちにならないようお願いします。あと急停止する事がありますのでいつでも手すりにつかまれるようにしていて下さい」
「わかりました」
「はいっ」
「うむ」
「そうなんだ」
ライバーは更に上昇し、地上から二メートルほど浮かんだ。
道なき荒地を苦もなく進む。
車窓から見える景色がすごいスピードで後ろに遠ざかる。
「すごい速いですっ!」
アリスが興奮気味に叫んだ。
「このスピードならっ、ヴェインまで三日もかからないんじゃないですかっ?」
「このスピードを維持できればな」
「ヴィヴィさん、それって」
「ライバーに使われている魔道具、魔道エンジンは連続使用時間制限があるのだ。無理すれば壊れる」
「そ、そうなんですねっ」
リオは首を傾げる。
「カルハンのサンドシップはそんな事なさそうだったけど」
「ぐふ。魔道具開発はカルハンが他国より一歩も二歩も進んでいるからな」
「あっ、それってサイファ・ヘイダインのおかげですかねっ?確かカルハンが故郷でしたよねっ?」
「そう言われてるな。その時はまだカルハン魔法王国はなかったはずだが」
「そうなんですかっ」
「まあ、故郷が今のカルハン領内あったのは本当のようだから嘘とも言えんがな」
「そうなんですねっ」
「うむ。それで魔導エンジンの話に戻るが、サンドシップは魔導エンジンを複数搭載しているものも珍しくない。それらを切り替えて使えばスピードを落とさず進む事も出来る。このライバーは大きさからしてもエンジンは一つしか積んでいないのだろう」
「なるほど」
「流石ヴィヴィさんっ、魔道具に詳しいですねっ」
「うむ。それほどでもある」
そう言ったヴィヴィはくいっと顎を上げ、なんか誇らしげだった。
一日目は予定した街に何事もなく到着した。




