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悪夢を振り払え〜あなたを魔王にはさせません!〜  作者: ねこおう
第4部 クズ達のレクイエム編(タイトル変更)
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437話 マルコは遠し

 リサヴィはレリティア王国の王都セユウにまで戻って来た。

 もう少しでマルコである。

 しかし、彼らの顔はリオを除いて冴えない。

 それもそのはずで彼らが目指すはマルコでなく、ヴェインに変更になったからだった。



 それは数日前に遡る。

 リサヴィはある街の冒険者ギルドに寄った。

 ギルドに入ると皆の注目を浴びた。

 戦士二人と女神官、そして魔装士。

 戦士の一人はフードを深く被り顔はよく見えない。

 パーティ構成から噂のリサヴィだと皆が思ったが、確信が持てなかった。

 その理由はリオだ。

 リオの容姿があまりにも整っていたからだ。

 リオが美形だと知っている者はこのギルドにはいなかった。

 そのため、リサヴィと同じパーティ構成の別パーティかもしれないと思ったのだ。

 皆が様子見を決め込む中、リオはそんなことなどお構いなしに依頼掲示板へ直行するとピッと依頼書を剥がした。

 そしてカウンターに向かい、依頼書を、リッキー退治の依頼書を置いた。

 受付嬢はリオの美しさに見惚れて頬を染める。


「あのっ」


 アリスの少し尖った催促の声で受付嬢は我に返ると慌てて依頼書に目を通す。

 みんなが毛嫌いするリッキー退治であることに違和感を覚えて改めてパーティ構成を確認してからパーティ名を尋ねてきた。


「あの、もしかしてリサヴィの皆さんですか?」

「そうだよ」


 リオが無表情で答える。

 リオの言葉を聞いてギルド内にいた冒険者達が騒然とした。

「やっぱりかよ!!」という声が聞こえた。


 冒険者達は本物のリサヴィだとわかり、話しかけようと依頼処理が終わるのを待っていたが、その機会は訪れなかった。


「リサヴィの皆さん、重要なお話がありますのでどうぞこちらへ」


 そう言って受付嬢が奥の会議室へ案内した。



 しばらくして、受付嬢の上司らしきギルド職員がやってきた。


「また何かありましたか?」


 サラが少しうんざりしたような表情で尋ねる。

 ギルド職員はリサヴィのメンバーが不機嫌であることに気づいた。

 彼は内心では自分達ギルド職員の方が冒険者達より上の立場だと思っており、最近何かと話題となっているリサヴィ相手でもそれは変わらなかった。

 リオ、アリス、そしてフードを脱いだサラ。

 三人の美しさは自分の容姿にコンプレックスを抱いていた彼にプラス補正がかかることはなく、逆にマイナス補正がかかった。

 それはともかく、ギルド職員はそのことを顔に出さずに用件を話し始めた。


「実は皆さんにはヴェインギルドへの出頭命令が下っております」


 その職員の話によると各地で騒ぎを起こしているリサヴィ派について冒険者ギルドの長であるグラマス、ホスティが直接話を聞きたいとのことだった。

 これには冒険者の誰も逆らうことはできない。


「勝手ながら皆さんの現在の依頼状況を確認させて頂きましたが、マルコで受けた依頼の完了報告のみですね。こちらは特に期限が設けられていませんので遅れても特に支障はないと考えていますが如何でしょう?」

「まあ、確かに急ぎの依頼ではありませんが」

「他に何か急用がございましたら教えてください」

「特にはないですね」

「では皆さんにはヴェインに向かってもらいます」


 しかし、ヴィヴィはマルコまでもう少しだというのに行き先を強制的に変えられるのが気に入らなかった。


「ぐふ。ここからヴェインだと馬車を使っても一ヶ月くらいはかかるぞ。それも順調にいってだ。なら、マルコへ寄ってから向かっても構わないのではないのか?」

「その点は問題ありません。“ライバー”の使用許可がおりています」

「ライバー?」


 リオが首を傾げる。


「魔道具を使った乗り物です。同じようなものにサンドシップがあります」

「ああ」


 リオはカルハン魔法王国領内の砂漠で魔道具の力で浮遊して進む船を思い出した。


「ライバーにはピンからキリまでありますが、速いものならここからでもヴェインまで三日とかからないでしょう」

「そうなんだ」

「はい。サラさんの言う通りです。ライバーはセユウギルドで準備しますので皆さんはまずはセユウへ向かい、セユウギルドの指示に従ってください」

「ぐふ。肝心な事を聞いていないぞ。私達はセユウからヴェインまでの往復を拘束されるのだ。その分の報酬は出るのだろうな?」

「え?いえ、それはありません。これはグラマスの命令です。移動の手配はこちらで用意していますし」

「ぐふ。知ったことか」


 ギルド職員は冒険者ごときが目上の者であるギルド職員に、それも最高権力者であるグラマスの命令を軽く見ていることにカチンと来た。

 仮面で顔を隠しているヴィヴィに自分と同じコンプレックスを持っていると思い込んでいたギルド職員は裏切られた気持ちだった。

 逆恨みであるが、その怒りから本心が表に現れた。

 ギルド職員はムッとした表情で尋ねる。


「つまり、ヴィヴィさん。もし報酬が出なければ行かないと?」

「ぐふ。そこまでは言っていない。こちらのペースで行く」

「なっ……」

「ヴィヴィ、やめなさい」


 サラが注意するが、ヴィヴィは引き下がらない。

 今日のヴィヴィは虫のいどころが悪いようだった。

 ギルド職員もムキになった。


「ヴィヴィさん、グラマスの命令に逆らうと強制退会もありえますよ!そうなって困るのはあなた方ですよ!」

「ぐふぐふ」


 しかし、ヴィヴィに脅しは通じなかった。


「ヴィヴィ、ゴネても仕方ないでしょう」

「そうですよっ」


 サラとアリスが説得を試みるがヴィヴィの意思は固かった。

 そこでリオが口を開いた。


「ヴィヴィ」

「ぐふ?」


 ギルド職員はリオがサラやアリスと同じくヴィヴィを宥めるつもりだと思った。

 しかし、リオのは発言は斜め上を言っていた。


「遺跡探索ギルドってカルハンに行かないと入れないのかな?」

「「「「!?」」」」


 その発言にギルド職員だけでなく、サラ達も驚いた。

 ただ、サラ達とギルド職員では驚いた理由が異なっていた。

 ギルド職員はリオの言葉を脅しと捉えたのだ。


「じゃあ、冒険者ギルドを辞めて遺跡探索ギルドに入るか」


 と。

 一方、サラ達はリオがズレた発言をするのに慣れていたのでそこまで深く考えておらず、


「え?リオ、あなた、遺跡探索ギルド知ってたの?」


 と遺跡探索ギルドを知っていた事に驚いたのであった。

 ギルド職員は慌てた。

 これが他のCランク冒険者だったらギルド職員はまだ高圧的な態度でいられただろう。

 しかし、相手はただのCランク冒険者ではない。

 もし、リサヴィのメンバーが揃って冒険者ギルドを退会し、ライバル組織の遺跡探索ギルドへ移籍してしまったら大騒ぎとなるのは間違いない。

 メンバーには六英雄の一人、ナナルの弟子も含まれているのだ。

 迂闊に「退会」と口にして脅した彼は責任を取らされ、今まで築き上げて来たキャリアが一瞬で消えてしまうことだろう。


「ちょ、ちょっと確認しますので!報酬の件は至急確認しますので少しお待ちください!!」


 ギルド職員は血相を変えて部屋を出ていった。



 結局、今回の件はグラマスからの依頼という形をとり、報酬が支払われる事になった。

 どうやらリオの脅しが効いたようだった。

 本人にその意思があったのかは不明であるが……。

 リオの発した言葉の効果は絶大で目に見える効果も現れた。

 あのギルド職員が他の職員に何を言ったのかは知らないが、リサヴィが冒険者ギルドを出る時、職員全員に見送られたのだ。

 皆、いつもの営業スマイルはどこへ行ったのやら、その笑顔はぎこちなかった。

 その様子があまりに異様だったので、リサヴィに声をかけようとしていた冒険者達は言葉をかけることが出来なかった。



 街道を歩きながらサラはため息をついて言った。


「もうあのギルドは二度と行けないわ」

「ぐふ。これからは気をつけろよ」

「あなたが文句を言ったからでしょうが!」

「そうなんだ」

「あなたがトドメを刺したのよ!」


 サラがリオの頭をど突いた。


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