436話 クズの判定方法 その2
周囲でざわめきが起きた。
ヴェイグがそちらに目をやるとギルド職員が数人やって来るのが見えた。
クズ冒険者達に絡まれていたのはヴェイグ達の輸送隊だけではない。
他の輸送隊や商隊もクズ冒険者達に絡まれており、そのどこかがもう手に負えないとギルドに助けを求めたようだった。
ギルド職員の登場で逃げて行ったクズ冒険者もいたが、ヴェイグ達に絡んでいたクズ冒険者達はその場に留まっていた。
その顔に焦りはなく、何故か勝ち誇った表情をしている。
そしてヴェイグ達のところへやって来たギルド職員にクズ冒険者達は堂々とした態度で言った。
「おう、ちょうどいいところに来たな!こいつらEランクの癖にCランクだって嘘ついて護衛をやろうとしてるぞ!」
「こりゃ、退会処分ものだな!」
「そうなりたくなければ俺らに護衛を譲れ!」
クズ冒険者がヴェイグを脅すが、ヴェイグは平然としていた。
隊長がギルド職員に説明する。
「彼らの言うことを信じないでください。彼らは少し、いえ、とても頭がおかしいのです」
「「「「ざけんな!!」」」」
ギルド職員はクズ冒険者達の抗議を無視して隊長に続きを促す。
「ヴェイグさんとイーダさんのランクの事は最初から知っていました。彼らにはその腕を見込んで私のほうから護衛を依頼したのです。ギルドからの依頼でもありません」
「そうですか。では全く問題ありませんね。私としてはギルド経由で依頼を受けて頂きたいところではありましたが」
「すみません。緊急の事でしたので」
ギルド職員はあっさり納得したが、クズ冒険者達は当然、納得がいかない。
「「「「ざけんな!」」」」
その叫びを聞いたイーダは、「さっきから息ぴったりね」とどうでもいいことに感心していた。
「ギルドの兄ちゃん」
ギルド職員は呼ばれてヴェイグを見た。
「はい?」
「このクズどもがここまで必死なのはCランクの依頼が少ないからか?」
「いえ、普通にあります」
「だってよ。ギルドで他の依頼探せ」
「ざけんな!俺らは護衛がやりたいんだ!」
「ギルドの兄ちゃん、護衛の依頼はないのか?」
「いえ、いくつかあります。ただし、お願いするかは今までの実績を見て判断する事になっています」
「だってよ。そんだけ護衛に自信があるんだから問題ないんじゃないか?」
「「「「ざけんな!」」」」
今度は理由を言わなかったので、ヴェイグが催促する。
「で、『ざけんな』の理由は?護衛の依頼ならギルドにあるって言ってるんだぞ」
「「「「ざけんな!」」」」
「いや、『ざけんな』はいいから理由を言えよ」
しかし、彼らは睨みつけるだけで答えない。
仕方がないので、代わりにヴェイグが答えてやることにした。
「つまり、お前らは拒否されるわけだ。だから直接来たってことだな?」
「「「「ざけんな!」」」」
「それはもういい。ギルドが拒否するクズなら尚更雇うわけないだろ。ほら、迷惑だからさっさとどっか行け」
「ざけんな!俺らは心配して受けてやるって言ってんだぞ!」
「人の親切は受けるもんだぜ!」
「「「だな!」」」
「何が親切だ。迷惑だって言ってんだろ。何度も言わせんな!」
「黙れ!このEランク風情が!俺らはCランクだぞ!」
「ランクなんか関係ないだろ。依頼主がいらねえって言ってんだ。それがすべてだ」
「「「「ざけんな!!」」」」
ギルド職員が厳しい表情で言った。
「あなた方がやっている事は冒険者ギルドの信頼を著しく損なう行為です。すぐにおやめ下さい」
「「「「ざけんな!!」」」」
クズ冒険者達はもはやムキになっていた。
どうやってでも護衛になる。
なってやると決意していた。
本当に迷惑な者達であった。
ヴェイグがため息をついて言った。
「ダメだこりゃ」
「ほんとね」
「困ったものです」
ギルド職員は再び説得にあたるが、やはり言葉が通じない。
ヴェイグの忍耐力も限界に来ていた。
それはギルド職員も同じで、ギルドから警備員を連れてきて彼らを強引に排除する事を考えていた。
その時である。
「リサヴィだ!」
誰かがそう叫んだ。
その名を耳にしたクズ冒険者達が顔を真っ青にしてキョロキョロ辺りを見回す。
そしてある冒険者達に目が止まった。
それは見た目で判断すると、戦士二人、魔装士一人、そして神官からなる四人構成のパーティだった。
サラはいつも戦士の姿をしており、このパーティも戦士の一人がフードを深く被って顔を隠していた。
クズ冒険者達の誰かが「ひいっ!」と叫び、その場から逃げ出すとそれに倣ってクズ冒険者達が一斉に逃げ出した。
あっという間に駅からクズ冒険者がいなくなった。
輸送隊に絡んでいたクズ冒険者達の姿も消えていた。
「おいおい、ギルド職員よりリサヴィが怖いってか……ん?」
ヴェイグはそのパーティを見て首を傾げる。
「……おい、あれ、本当にリサヴィか?」
「違うわね。だって、あの魔装士の魔装具はフェラン製だし、あの神官は男よ」
「ああ、確かに」
そのパーティはリサヴィと勘違いされて恥ずかしそうにしながら彼らが護衛する商隊へ向かう。
彼らがリサヴィではなくともクズ冒険者達を追い払ってくれたのは確かだ。
その感謝を込めて彼らに拍手が起きた。
彼らは更に顔を真っ赤にしてさっさと護衛の馬車に乗り込んだ。
にっこり笑顔で隊長がヴェイグに言った。
「大変助かりました」
ヴェイグはむっとした顔で言った。
「『助かりました』じゃねえよ。俺らにクズの相手させんなよ」
「いやいや、あなた方の方が上手くあしらっていただけると思いまして」
「俺らはクズ専門じゃねえ」
「それに結局、追い払ったのはあのリサヴィと同じ構成のパーティだしねっ」
「それでも大変助かりました」
ヴェイグは睨んでも笑顔を絶やさない隊長にため息をついて言った。
「……あんた、図太い神経してんな」
「よく言われます」
「……褒めてないから」
嬉しそうに返事した隊長にイーダが突っ込んだ。
ヴェイグが護衛の馬車に視線を向ける。
「お前らもだ!なんでお前ら出てこなかった!?俺らばっかにやらせんなよ!」
「いや、クズに慣れてそうだったから」
「ざけんな!!」
「ヴェイグ、クズ判定に引っかかるわよ」
「……」




