435話 クズの判定方法 その1(タイトル変更)
同じタイトルがあったので変更しました。
あと少し修正しました。
翌朝。
宿屋の外で輸送隊の者が呼び来るのを待っているとイーダが嬉しそうな顔で話しかけてきた。
「ヴェイグ。あたい、クズの見分け方がわかっちゃったわ」
「言ってみな」
「まず、『ざけんな!』と叫ぶ」
「ほうほう。それで?」
「『Cランク冒険者だ』って喚く」
「まだお目にかかってないがBランクにもクズがいるって話だぞ」
「じゃあ、自分のランクを聞きもしないのに喚く」
「そっちのほうがいいな」
「それと自分達の力を自分達で保証する」
「ああ、確かに言うな」
「で、根拠のない自信に満ち溢れている。後は仁王立ちして腕組む、ってところね。これが全て当てはまったら間違いなくクズよ」
「やったなイーダ。世界の謎を一つ解いたぞ」
「ええ!」
イーダがヴェイグにVサインをした。
そんなことをしていると輸送隊の者が迎えにやって来た。
「お待たせしました。皆さんが揃っているのを確認してから駅へ向かいます」
ヴェイグとイーダが他の客達と共に駅へ向かう。
そこに停車していたのはヴェイグ達の輸送隊だけでなく、他の場所へ向かう商隊なども止まっていた。
それだけではなく、護衛でも、ましてや客でもなさそうな冒険者達もたくさん集まっていた。
その中の一組のパーティがヴェイグ達の輸送隊の隊長に詰め寄って何か話していた。
ヴェイグ達は護衛になった手前、客車には最後に乗り込むべきだろうと考えて他の者達が乗り込むのを待つことにした。
その間、彼らのやり取りを見学する事にした。
隊長は迷惑そうな顔を隠しもせずにその冒険者達に言った。
「ですから、私達は護衛を募集していません」
「おいおい冗談言ってんじゃねーよ。護衛の馬車に一組しか乗り込んでないだろ。嘘をついても無駄だぞ。俺たちゃ、朝からずっと見てたんだからな!」
「暇人か」
思わずヴェイグは突っ込むが、その声は小さく、イーダにしか聞こえない。
イーダは隣で苦笑いをするのみ。
冒険者達は護衛がしたくてたまらないようで隊長が何度断っても諦めない。
「あともう一組は雇えるはずだ!」
「「「だな!」」」
「ですからまだ来ていないだけです。そもそもあなた方には関係ないでしょう」
「「「「ざけんな!」」」」
一斉に怒鳴った後で猫なで声で話しかけてくる。
「俺達はな、お前達のことを心配して言ってやってんだぞ」
「最近物騒だからな!街道にだって昼間から平気で魔物が出没するんだぞ」
「それはお気遣いありがとうございます。でもご心配いりませんのでどうぞご安心を」
「安心できねえから言ってんだ」
「よしっ、決まったな!」
そう言って勝手に報酬の話を始める。
「……デジャヴか?」
「違うわよ。前にも見たわよ」
「やっぱ、そうだったか」
ヴェイグはため息をついてから首を傾げる。
「ていうかよ、隊長さん、さっき気になる発言してなかったか?」
「何か言ってたっけ?」
「『護衛は募集していない』って言わなかったか?」
「……確かに」
「まさかこのまま俺らにムルトまで護衛をやらせる気じゃねーだろうな」
「あはは……ありえるわ」
「いえ、ですから間に合ってます!」
隊長は声を張り上げて拒否するが彼らには通じない。
「お、もしかして俺らの腕を信用してないのか?」
「信用も何もあなた達のことは知りません!」
「安心しろ!俺らはみんなCランク冒険者だ。腕も大したもんだぜ!俺らが保証する!」
そう言ったリーダーをはじめ、メンバーは仁王立ちで腕を組む。
その顔は根拠のない自信に溢れていた。
「あ、全部揃った」
イーダが呟き、ヴェイグが続く。
「クズ確定だな」
ヴェイグ達が乗り込む番になって隊長と目が合った。
「あっ、遅いですよ。ヴェイグさん!イーダさん!」
そう言って隊長は目をパチパチさせる。
彼らはリオと違い空気が読めたので、その合図が「話を合わせて」と言っているのだとわかった。
「さぁ、早く“護衛の馬車”に乗ってください」
「……しゃーないな」
ヴェイグはそう呟くとイーダと共に護衛の馬車に乗ろうとしたが、その前に冒険者達、イーダにクズと判断されたので以後、彼らをクズ冒険者と呼ぶ、が立ち塞がった。
「おいおい、ちょっと待ってよ。二人だと?」
「悪いかよ」
「お前らランクは何だ?」
「またかよ」
「早く言えよ!」
「Eだがそれがどうした?」
ヴェイグ達がEランクだとわかり、大げさに驚くクズ冒険者達。
彼らは周りに聞こえるように大声で叫ぶ。
「お前ら護衛をなめとんのか!?Eランクに務まる仕事じゃないぞ!」
「聞いたか隊長さんよ!こいつらEだって白状したぞ!」
彼らはまるでヴェイグ達が嘘をついており、自分達が自白させたかのような口振りだった。
彼らはヴェイグ達が自分達より下のランクとわかり、更に態度を大きくして隊長に迫る。
「こんな低ランクの奴に任せてたら終わりだぞ!」
「これはもう俺らに任せるしかないなぁ」
「よしっ決まったな!」
「さあ!お前らは用無しだ!さっさと出ていけ!!」
態度のデカいクズ冒険者達は言いたいことを言うと許可なく護衛の馬車に乗り込もうとする。
「ちょ、ちょっと!」
隊長が抗議するが彼らは笑って聞き流す。
「あー、面倒くせえなあ」
ヴェイグはそう呟くとステップに足をかけたクズ冒険者の首元を掴み引っ張った。
「ぐえっ、痛てっ!」
服で首を絞められた形になり、咳き込みながら尻餅をつくクズ冒険者。
残りのクズ冒険者達だが、先に乗り込んでいた護衛達が騒ぎに気づき、入口の前に立って塞いだため馬車に乗り込めなかった。
クズ冒険者達が怒りを露わにヴェイグを怒鳴りつける。
「てめえ何しやがる!?」
「そりゃこっちのセリフだ」
「こんな事をしてタダで済むと思ってんのか!?」
「だからそれはこっちのセリフだ」
「ざけんな!俺らはCランク冒険者だぞ!」
「またかよ。それがどうした。俺はこの輸送隊の護衛だ。無断乗車は許さねえ」
「ざけんな!俺らはさっき護衛になっただろうが!」
「おう!お前こそいつまで護衛気取りでいるんだ!?このEランクの雑魚が!!」
「いやいや、護衛気取りはお前らだろうが」
「「「「ざけんな!!」」」」
ヴェイグはため息をついて隊長を見た。
「どうする隊長さん?俺らは別に護衛をやめてもかまわないぜ」
即反応したのはクズ冒険者達である。
「よしっ、今すぐやめろ!」
「「「だな!!!」」」
その後、隊長が険しい表情をして叫んだ。
「冗談じゃありません!こんな言葉すらまともに通じない人達に護衛を任せられるわけないでしょう!」
ヴェイグは隊長の言葉に納得した。
「確かにな。ほれ、隊長さんはお前らに用はないとよ。お前達でも雇ってくれそうな頭のおかしい雇い主を探しに行け」
「「「「ざけんな!!」」」」
もちろん、クズ冒険者達は納得しなかった。
クズ冒険者達がヴェイグ達の輸送隊に拘るのにはもちろん理由がある。
それは行き先がムルトまでの長旅のためだ。
この護衛を引き受けることができれば、報酬以外にそれまでの食事、宿泊費諸々を出して貰えるし、ムルトでは神官を勧誘できる。(成功するかは別であるが)
そして肝心の護衛はもう一方に任せておけばいい、危なくなったらとんずらすればいい、というわけである。
こんな美味しい依頼をそう簡単に諦めるわけにはいかなかったのである。




