433話 クズ冒険者達、吠える!
隊長はクズ護衛達から解放されてほっと息をついてヴェイグに話しかける。
「冒険者の方は本当にいろんな方がいらっしゃいますね。謝礼を求めず助けてくださる方もいれば、あの人達のように迷惑かけて威張り散らすだけの者もいる」
「まあ、それは別段、冒険者に限ったことじゃないだろ」
「それもそうですね」
隊長がため息をついて呟いた。
「やっぱりウーミさんの言うことを聞いておけばよかった」
「ウーミ?そいつがどうしたんだ?」
隊長は独り言だったみたいだが、ヴェイグに尋ねられて答える。
「あ、はい。私の親友の話なのですが、直接護衛の交渉してくる者達はクズがほとんどだから信用できる相手でない限り雇わない方がいいと」
「へえ、護衛ってそういうものなのか」
「昔は違ったんですよ。でも今はクズの護衛希望者が増えているようなのです」
「ほう」
隊長の言う通り、今、護衛の依頼はクズ冒険者達に大人気であった。
護衛ならば流石にリサヴィ派も殺しに来る事はないだろう。
更にギルドの依頼で受けるのではなく、依頼主から直接依頼を受ければ、たとえ途中で依頼を放棄しようと記録には残らない。
そして依頼が成功すれば事後依頼として依頼主にギルドに申請させようとするのである。
どこまでもずるがしこいクズ達であった。
「とはいえ、今回は出発直前に護衛の依頼を受けたパーティがキャンセルしてしまったのでどうしようもなかったのです」
「そりゃ、大変だったな。まあ、頑張れ」
ヴェイグは他人事のように言ったが他人事では済まなかった。
「ではここからの護衛をお願いしますね、ヴェイグさん」
「は?」
ヴェイグが何か言う前に乗客達から拍手が起こった。
「お、おい……」
「期待してるぜ」
もう一組の護衛のリーダーがヴェイグの肩をぽんと叩いた。
「いや、俺は護衛なんてやったことねえし」
「お前は片っ端から魔物を倒してくれればいい」
「あのなあ……」
状況的に断るのは厳しそうだが、とりあえず抵抗してみる。
「そうだ、俺はEランクだぞ。普通、護衛ってのはCランク以上なんだろ?」
「大丈夫です。これはギルド経由の依頼ではありません。直接お願いしているのですから極論すれば冒険者でなくてもかまいません」
隊長はにっこり笑って答えた。
ヴェイグが何か言う前にイーダが口を開く。
「やればいいじゃん。あたいもやるよ。いいよね?あたいとヴェイグはパーティ組んでるようなもんだからさ」
イーダに隊長が笑顔で頷いた。
「是非お願いします。イーダさん」
ヴェイグはため息をついて最後の抵抗を試みる。
「ひとつ条件がある」
「なんでしょうか?」
「客車に乗る」
「座り心地がいいもんね」
「わかりました」
隊長はあっさりとOKした。
「あれ?いいのか?さっき護衛は客車に乗せないって言ってなかったか?」
「臨機応変です。あなた方が一緒のほうがお客様も安心でしょうし」
「そうか?」
「そうなのです」
「よかったねヴェイグ」
「……」
こうしてヴェイグとイーダは新しい護衛を雇うまで輸送隊の護衛をする事になった。
隊長のもとへ部下がやって来て何事か報告して戻っていた。
隊長が乗客に声をかける。
「みなさん!車内の消毒も終わりましたので馬車に乗ってください。忘れ物に気をつけてくださいね」
「おい、隊長さんよ、あっちはいいのか?」
ヴェイグが魔物の死体に目をやる。
「はい、価値のある素材は回収済みです。あ、もちろん、あなた方の取り分は護衛の報酬と一緒にお渡しします」
「そりゃどうも」
イーダは「この輸送隊は赤字かも」と言っていたがこのしたたかな隊長を見て「案外儲けを出すんじゃないか」とヴェイグは思った。
一方、クズ護衛達、いや、もう護衛ではないのでクズ冒険者達と呼ぶ、はまだ輸送隊とそんなに離れていなかった。
遠ざかりながらもチラチラと後ろを振り返る。
彼らはさっきのは脅しで自分達への報酬を下げるための演技だと信じ切っていた。
そのため、本当に去っていく彼らを見て隊長が血相を変えて呼び戻しに来るのを今か今かと待っていたのだ。
その時に言うセリフも準備済みだったし、報酬は下げるどころか最低でも五割増しを要求するつもりでいた。
護衛らしいことを何一つしていないにも拘らず、何故か彼らは自分達を輸送隊に必要な存在であると信じて疑わなかったのである!
しかし、輸送隊から声がかかる気配は全くない。
クズ冒険者達の歩くスピードは徐々に遅くなり、振り返る頻度が高くなる。
やがてそれは三歩進んで振り返る、三歩進んで振り返る、という動きを繰り返すようになった。
その姿は傍から見るととても滑稽であったが彼ら自身はその事に全く気付かない。
そして彼らはついに歩みを止めた。
これ以上離れると隊長が呼び戻すときに叫んでも自分達のところまで声が届かない可能性がある、と隊長への心遣いからである。
彼らは振り返ると、仁王立ちで腕を組みながら輸送隊からお呼びがかかるのをスタンバったのであった!
輸送隊が出発した。
それを見て、クズ冒険者達が慌てて輸送隊を追いかける。
「おいっ!こらっ!待ちやがれ!」
「俺らを護衛に戻すのを忘れてるぞ!」
もちろん、忘れているわけではないので輸送隊は止まらない。
「仕方ないなっ、そこまで反省してるならっ、また護衛をやってやる!」
「おうっ!そこまで言うならなっ!」
彼らには幻聴が聞こえているようであった。
「だがっ、報酬はっ、最低でもっ、五割増しでっ、って、話を聞けっー!!」
あくまでも上から目線での行動を止めぬ彼らであった。
もちろん、輸送隊は止まらない。
「「「「ざけんなー!!!」」」」
クズ冒険者達が輸送隊に向かって吠える。
が、やっぱり輸送隊は止まらなかった。
イーダがほっと息を吐く。
「悪臭がいなくなったから気持ち悪さが治ったわ。あのまま二十日間もあの悪臭と一緒だったらあたい、臭さで気が変になったかもしれないわ」
「ははは。あのクズクサ野郎、ほんと臭かったからな」
「でもまさか臭さで詠唱に失敗するとは思わなかったわ。あれで死んでたら死んでも死に切れなかったわよ」
「そうだな。これからはもう少しクズには気をつけないとな」
「少しじゃダメよ!」
「はははっ」




