432話 嬉しい別れ
クビになったショックから立ち直ったクズリーダーが叫ぶ。
「ざ、ざけんなー!!」
他のメンバーも続く。
「何で俺らがクビになるんだ!?」
「俺らはCランク冒険者だぞ!!」
「そのガキより二ランクも上なんだぞ!!」
「そんなことやっていいと思ってんのか!?あん!?」
「ギルドに訴えるぞ!いいのか!?」
「お前らの輸送隊は信用ガタ落ちだぞ!!」
クズ護衛の言葉に隊長はカチンと来てすぐさま言い返す。
「何を言ってるのですか!!あなた方を雇った事ですでに信用ガタ落ちです!!」
「「「「ざけんな!」」」」
隊長は心を落ち着かせるように深呼吸してから答える。
「そもそもギルドの依頼でもないのにギルドに言ったところでどうしようもないでしょう」
「「「「あ……」」」」
「今回のことであなた方が直接交渉に来たのは依頼失敗が記録されるのを恐れてギルドから依頼を受けなかったのだとハッキリわかりました」
「「「「ざ、ざけんな!」」」」
クズ護衛達は隊長にズバリ言い当てられて動揺する。
更に隊長は追撃する。
「それにですね、あなた方が私達に害を及ぼす行為をした場合はその場で解約出来、発生した損害を請求出来ると交わした契約書にもきちんと書いてあります」
「ざけんな!!そんなの形だけだろうが!」
「……は?」
「おう!そんなのまともに読む奴も守る奴もいるかよ!!」
「おう!俺らは認めねえぞ!」
「……」
とんでもない発言を堂々とするクズ護衛達にぽかん、とする隊長と一緒に聞いていた者達。
更にクズ護衛達はとんでもない発言をする。
「大体だな!俺は字がまともに読めねえんだ!」
「おう!俺なんかな!自分の名前くらいしか書けんぞ!」
「俺もだ!何書いてあるかわかんねーんだからそんなもん無効だ!無効!」
「「「だな!!」」」
流石に今のは聞き捨てならなかった。
ヴェイグが会話に割って入る。
「ちょっと待て。お前らギルド入会試験で筆記試験あっただろうが!なんで読めねえんだ!?そんなんで受かるわけねえだろうが!?お前らなんで受かってんだ!?」
「「「「!!!」」」」
もし、本当に字が読めなくても受かるギルドがあるならグルタに教えたいところだが、そんなギルドがあるはずがない。
冒険者を騙る偽者かとも思ったが流石にそれくらいは輸送隊が護衛に雇う前に確認しているはずだ。
ヴェイグの指摘でクズ護衛達も流石に今のは失言だったと気づいたようだ。
「「「「ざ、ざけんなー!!」」」」
怒鳴って必死に誤魔化そうとするが、もちろん誤魔化される者などいない。
イーダが一つの可能性を口にする。
「ヴェイグ、もしかしたらあれじゃない?」
「あれってなんだ?」
「なんか前にさ、マルコってところですごい不正が見つかって大騒ぎになったってウッドが話してたじゃない。このクズ達、ズルして合格した冒険者なんじゃない?」
「おお、そう言えばそうだったな。他のギルドのことだからすっかり忘れてたぜ」
「「「「ざ、ざけんな!!」」」」
クズ護衛達は顔を真っ赤にして怒鳴って失言を有耶無耶にしようとするがやはり効果はない。
「そうか。お前らマルコ所属の冒険者か」
「ざけんな!俺らがあんな腐ったクズギルド所属なわけねーだろ!!」
彼らは確かにマルコ所属ではなかった。
ただ補足すると今は違う、である。
モモのクズ一掃作戦に引っ掛かった元マルコ所属で今はリサヴィと同じく無所属だった。
いや、この言い方はリサヴィに失礼だったかもしれはい。
言い直そう。
彼らはリサヴィと違い、どのギルドからも断られて無所属であった。
ヴェイグが同情した目を隊長に向ける。
「隊長さん、あんたとんでもない外れクズ引いたな」
「はあ……」
「ヴェイグ、クズに当たり外れなんてないから。クズはクズだから」
すぐにイーダが突っ込んだ。
その後にクズ護衛達が絶叫する。
「「「「ざけんなっー!!!」」」」
この後もクズ護衛達は自分達にしか理解できない屁理屈で必死にクビを撤回させようとするが、隊長の決定を覆すことは出来なかった。
それどころか、話せば話すほど彼らが常人とはあまりにかけ離れた思考回路の持ち主とわかり更に隊長の決意は強固なものとなったのだった。
「……そうか。わかった」
クズリーダーは傲慢な態度で隊長を睨みながら言った。
何故この後に及んでまだこのように強気に出れるのか?
それは隊長の本当の企みに気づいた、と思ったからだった。
隊長は予想外の出費で苦しくなり、損失を少しでも減らすために自分達の報酬を減らして穴埋めしようとしているのだ、と思ったのだった。
まあ、本当にそうだったとしても出費がかさんだのは彼らクズ護衛達のせいなのだから文句は言えないはずであるが。
クズリーダーは隊長の浅はかな考え?を逆手に取ることにした。
「なら、ここからはお前達だけで旅を続けるがいい!できるものならな!行くぞお前ら!」
「「「おう!」」」
クズ護衛達は偉そうな態度で去って行った。
皆、ぽかん、とした顔で彼らを見送る。
あれだけ必死に護衛職にしがみつこうとしていた彼らが突然、態度を変えた理由がわかるものは一人もいなかった。




