431話 クズ護衛達の策略
「“そっちも”片付いたようだな」
しばらくしてクズ護衛達が逃げ出した負い目など微塵も感じさせぬ、堂々とした態度で戻ってきた。
皆の冷たい視線を浴びても全く動じない。
おそらく場慣れしているのだろう。
ヴェイグがクズ護衛達に見下した目を向けながら言った。
「お前らよく戻って来れたな」
「んだと!?」
「敵前逃亡した自覚がないのか?どういう頭してんだ?」
「ざけんな!これを見ろ!」
クズリーダーはそう言って手にしていた魔物の素材らしきものを掲げる。
「俺達はな!向こうに隠れていた魔物を退治していたんだ!」
もちろん、嘘である。
彼らクズ護衛達は先ほどの戦いをこっそり隠れて見ており、ヴェイグが想像以上に、圧倒的に強いとわかり、自分達がどう足掻いても太刀打ちできない事がハッキリした。
このままのこのこ戻ったらヴェイグにさっきの続きだと決闘に持ち込まれて全滅してしまう恐れがある。
そこで彼らは、「実は別の魔物と戦っていたんだぜ!」作戦で、敵前逃亡をなかったことにするだけでなく、自分達が役に立つ存在だと輸送隊にアピールして味方につけてヴェイグを退けようと考えたのである!
「ほれ、お前達も見せてやれ!」
クズリーダーの言葉に従い、クズ護衛達は各々リュックから魔物の素材らしきものを取り出して掲げる。
その顔はどこか誇らしげだった。
「わかったか!俺らのおかげでお前らは挟み撃ちにされずに済んだ……って、なんだてめえ!?」
ヴェイグが近づいて来たのでクズリーダーは掲げたモノを慌てて隠す。
それに続いて他のクズ達も隠す。
「いや、どんな魔物倒したのか興味あってな。隠さずに見せろよ」
「!!」
彼らは焦り出す。
それらは元々持っていた物やその辺に落ちていた何かの骨や石などを拾っただけであり、調べればすぐに偽物だとバレてしまうからだ。
いや、まあ、証拠の素材を隠した時点で皆は嘘だと確信したのだが。
「ま、魔物に決まってんだろ!」
「いや、だから何の魔物だって聞いてんだよ」
ヴェイグはクズ護衛への追及をやめない。
「ざけんな!」
「『ざけんな!』じゃなくてだな」
「俺らはCランク冒険者だぞ!」
「そんなこと聞いてねえよ。ほんとお前らクズには言葉が通じねえな。じゃあ、その倒したって魔物の名前を言ってみな」
「そ、そんなことてめえに言う必要はない!」
「「「だな!!」」」
「……」
クズリーダーはヴェイグの追求から逃れようと周囲を素早く見渡す。
その目がヴェイグとイーダ、もう一組の護衛達、そして名も告げずに去った者達が倒した魔物を集めた場所で止まった。
魔物を解体している者達の姿を見て現在の状況を忘れた。
欲望が上回ったのだ。
「おい!俺らの分は残してあるんだろうな!?」
「何言ってんだてめえ?」
クズリーダーはヴェイグを無視して、避けるように回り込んで魔物が集められた場所に走っていく。
それに続くクズ護衛達。
「……清々しいほどのクズだな」
「ヴェイグ、クズに清々しい奴なんていないわよ」
即、イーダがヴェイグの呟きに突っ込んだ。
もちろん、ヴェイグはこのまま有耶無耶にする気はない。
何せもう少しで大事な仲間であるイーダを失うところだったのだ。
「おいクズ、お前ら邪魔しかしねえから輸送隊から出て行け」
ヴェイグの言葉に素材漁りをしていたクズ護衛達が怒り出す。
「ざけんな!!俺らは護衛だぞ!!」
「お前こそ出て行け!!」
「「だな!!!」」
「こっちが『ざけんな』だ。悪臭を放って俺達客の気分を悪くさせるわ、敵前逃亡するわ。お前ら、一度でも護衛らしいことしたか!?ああ!?」
ヴェイグの威嚇にクズ護衛達が震え上がる。
「間接的に戦闘の邪魔もしたわ」
気分が悪くなり詠唱を失敗したイーダが不満顔で付け加える。
「ざ、ざけんな!」
「く、臭いのはコイツで俺らは関係ねえ!」
「なっ!?」
臭護衛が心底驚いたという顔をした。
今までパーティからは面と向かって言われたことがなかったようだ。
クズ護衛達が仲間割れをしているところへ彼らと一緒に護衛用馬車に乗っていたもう一組の護衛が言った。
「確かにそいつの臭さは突出してるがお前らも相当臭い」
「「「ざけんな!」」」
ヴェイグが呆れた顔で言った。
「『ざけんな』はもういい。ほれ、人の獲物を漁ってないでさっさと出ていけクズども」
クズリーダーはヴェイグを睨みつけるのが精一杯に見えたが、
「クズ冒険者の力はこんなものではない!!」
と思ったかどうかはともかく、この窮地を脱する手はないかと周りを見回し、この様子をじっと見ていた輸送隊の隊長に気づく。
クズリーダーがニヤリと笑って隊長に言った。
「おい、隊長!選べ!」
「……選べとは?」
「俺達もここまでバカにされては我慢ならん!!俺達、有能な護衛にイチャモンをつけ続けるクレーマーの“Eランク!”冒険者を叩き出すか、それとも俺達、“Cランク!”冒険者の精鋭四人を取るかだ!」
CランクとEランクを強調して言ったクズリーダーは腕を組んで仁王立ちする。
それに彼のパーティも続いた。
彼らはヴェイグにはクズ最強呪文“Cランク”が通じなかったが、隊長には通じると信じて疑っていなかったのだ。
「まあ、考えるまでもないと思うがな!」
「なんせ俺らは“Cランク!”冒険者だからな!」
「「おう!!」」
そう言ったクズ護衛達の顔は皆誇らしげであった。
実質、一択の選択を迫るクズ護衛達にヴェイグが疲れた顔で言った。
「それ、選択の意味ないだろ」
「バカだから選択の出し方がわからないんじゃないの」
「なるほど」
隊長は彼らの根拠のない自信に満ち溢れた顔を見て困惑する。
「何であんなに自信があるのだろうか?」
と。
隊長が答える前に乗客達が動いた。
みんなヴェイグのそばにやってくる。
クズ護衛達が逃亡したことを確信しており、馬車の窓からこっそり外の様子を見ていた者達はヴェイグの活躍を見ていたのだ。
もう一組の護衛もヴェイグのそばにやって来た。
彼らはヴェイグとイーダに随分助けられた。
二人が参戦しなければおそらく全滅、少なくとも何人かは命を落としていたのは間違いなかった。
その様子を見て隊長が言った。
「私が答えるまでもないようですね」
「そのようだな」
クズリーダーが横柄な態度で答え、ヴェイグに顔を向ける。
「さっさと出て行けクズ野郎!!」
クズリーダーがヴェイグに向かって怒鳴りつけると他のクズ護衛達も続く。
「さっさと出て行きやがれ!クズ野郎!」
「そんで俺らに逆らった事を後悔しながらのたれ死ね!このクズ野郎が!」
「俺は臭くねえからな!このクズ野郎!」
「……」
このリーダーにしてこの仲間あり、と言うべきか、クズ護衛全員が全く状況を理解していなかった。
いや、そうではなかった。
彼らは、妄想を現実と思い込む能力、を習得しており、それが発動していたのだ。
そのため、彼らには乗客達やもう一方の護衛達の行動がヴェイグに「出て行け」と無言の圧力をかけているように見えたのだ。
そんな能力のことを知らないヴェイグは彼らの行動を見て怒りを通り越して呆れた顔で言った。
「いや、まあ、なんていうか、お前らがいつもみんなに『クズクズ』言われてるからたまには言い返したかったのはわかるが、この状況でそれは流石に無理があるだろ」
「「「「ざけんな!」」」」
隊長は頭痛で頭を押さえながら言った。
「どうやらきちんと答えないといけなかったようですね」
「おうっ!言ってやれ!!」
勝ち誇った顔をするクズ護衛達に向かって隊長が言った。
「あなた方がクビです」
ヴェイグを貶していたクズ護衛達は隊長の言葉を聞いて心底驚き、揃ってあほ面を晒す。
そんな彼らを見て乗客達も驚いた。




