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悪夢を振り払え〜あなたを魔王にはさせません!〜  作者: ねこおう
第4部 クズ達のレクイエム編(タイトル変更)
430/868

430話 ガル・ウォルーの襲撃

 臭護衛は輸送隊の隊長に(やや離れた場所から)厳重注意を受け、護衛用馬車に強制送還されることになった。

 ヴェイグが不満顔のクズ護衛達の元に向かう。

 

「おい、クズ。納得いかねえなら相手してやるぞ。っていうか『納得いかねえ』って剣を抜けよ」

「「「「……」」」」


 クズ護衛達はヴェイグを睨むが沈黙したままだった。

 その時である。

 クズ護衛達とは違うもう一方の護衛パーティが突然警告を発した。


「魔物だ!」


 ヴェイグは森からこちらへ向かって来る魔物の群れに目を向ける。


「……ありゃウォルー、いや、ガル・ウォルーか?結構な数がいやがるな」


 クズ護衛達のリーダーも魔物の存在を確認した。


「てめえと遊んでいる暇はなくなったようだな」

「……」


 確かに魔物を撃退する方が先である。

 ちっ、とヴェイグは舌打ちする。

 クズ護衛達のリーダーは内心ほっとしながらメンバーに声をかける。


「行くぞてめえら!仕事の時間だ!!」

「「「おう!!」」」


 クズ護衛達が走り出す。


「……ん?」


 ヴェイグはクズ護衛達が走り去る方向を見て首を傾げる。

 クズ護衛達は魔物とは正反対の方向へ走り出したのだ。

 ヴェイグは念の為、そちらに魔物が隠れていないか気配を探るが何も感じない。

 ヴェイグが何も発見できないのにクズ護衛達に発見できるわけがない。

 そうなると結論は一つだった。


「逃げやがった」


 ヴェイグはクズ護衛達の期待を裏切らないクズっぷりに感心した。

 その間も隊長が大声で避難を呼びかけていた。


「お、お客様は馬車の中に退避してください!!」

「イーダ、お前も馬車に入ってろよ」

「嫌よ。まだ臭いでしょ」


 ヴェイグの言葉をイーダは即拒否した。


「そうは言ってもな……」

「すみません!お客様!」


 隊長がヴェイグ達のもとへ血相を変えてやって来た。

 

「あ?」


 ヴェイグの不機嫌そうな反応にビビったものの隊長は相談を持ちかける。

 

「お客様達も冒険者ですよね!?」

「だったらなんだ?」

「是非力をお貸しください!」


 ヴェイグはちっ、と舌打ちした。


「手伝うの?」

「まあ、今残っている護衛だけじゃあの数の相手は無理だろうし、断っても結局戦う事になりそうだしな」

「あたいもやるわ」

「お前気分悪いんだろ?無理すんな」

「そんなヤワじゃないわよ」

「じゃあ、やるか」


 こうして客であるはずのヴェイグとイーダも戦いに参戦することになった。



 イーダがガル・ウォルーの群れを見ながら言った。


「なんかやけに吠えてない?こっちのガル・ウォルーはみんなそうなのかな?」

「さあな……そういや、向こうは風下だよな。魔物は臭いに敏感だからクズクサ野郎の悪臭を攻撃されたとでも思ったんじゃねーのか」


 ヴェイグは冗談でも言うように笑いながら言った。


「何言ってんのよ」


 とイーダは言った後、すぐに付け加えた。


「でもそれ、当たりじゃないの?」

「……」



 護衛の盗賊が弓を放ち、護衛の魔術士とイーダが攻撃魔法でガル・ウォルーの数を減らすが、魔物達の突進は止まらない。

 そして接近戦も始まった。

 ヴェイグがガル・ウォルーを斬り伏せていく。

 冒険者ランクはEでありながらBランクに匹敵する力を持つのでこの程度の魔物達に負けることはない。


「きゃあ!!」


 近づくガル・ウォルーを見て馬が恐怖で暴れ出し、馬車が揺れて乗客が悲鳴を上げたのだ。

 御者が必死に馬を宥めるが、その顔には恐怖が浮かんでおり、それも馬に伝わっているようだ。

 

「ちっ」

「ヴェイグ、行ってあげて!」

「だが、」

「ここはあたい一人で十分さ。短剣だってそこそこ使えるの知ってるでしょ」

「わかった」


 だが、ヴェイグはすぐに後悔する事になる。



 ヴェイグが離れるのを狙っていたかのようにガル・ウォルーがイーダに迫る。

 

「あたいも舐められたものね」


 イーダもヴェイグと同様にBランクに匹敵する力を持つ。

 イーダが攻撃呪文を唱え始める。

 距離的に十分余裕はあるはずだった。

 だが、臭護衛の臭さで気分が悪くなっていたイーダは肝心なところで吐き気を催して呪文詠唱に失敗した。

 いくら呪文をメモライズで完全に記憶していても正しく詠唱できなければ魔法は発動しない。


「イーダ!!」


 イーダの詠唱が中断したのに気づき、慌ててヴェイグが助けに走る。

 間に合わないと分かっていたがそれでも必死に足を動かす。

 イーダをガル・ウォルーの一撃が襲う、

 かと思われた瞬間、ガル・ウォルーが突然軌道を変えて真横に跳んだ。

 いや、吹き飛んだのだ。

 イーダのもとへたどり着いたヴェイグがそのガル・ウォルーを見ると側頭部に矢が突き刺さっていた。

 即死である。

 ヴェイグはその矢が飛んできた方向へ目を向ける。

 街道をしばらく進むと二手に別れるが、そこに馬車が止まっており、冒険者らしき者達の姿があった。


(三人……いや四人か)


 更にあちこちでガル・ウォルーが悲鳴をあげて倒れる。

 援護は弓だけではなかった。

 スリングによる攻撃も含まれていた。

 こちらも大した腕で誤射で輸送隊が被弾することなくガル・ウォルーにのみ命中させていた。

 ガル・ウォルーの何体かが彼らに向かっていったが、たどり着いたものはいなかった。

 彼らは援護射撃以外する気がないようで輸送隊のところまでやって来ることはなかった。

 それでも彼らの参戦で戦いは優勢になった。


「もうお前は馬車に入ってろ」

「臭いから嫌!」

「おまえなあ……」

「大丈夫!もうヘマはしないわ!」

「ホントだな?次も奇跡が起こると思うなよ!」

「わかってるわよ!」


 イーダの言葉は強がりではなかったようだ。

 次の詠唱は成功し、ガル・ウォルーを一撃で葬った。

 


 結局、輸送隊は護衛に怪我人が出たものの、死者は一人も出さずにガル・ウォルーの群れを撃退した。

 気づけば助けてくれた者達の姿はなかった。


「ち、カッコつけやがって」


 ヴェイグは口ではそう言ったものの、本心はイーダを助けてくれた礼が言いたかったのだ。



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