426話 クズ冒険者の提案 その1
リサヴィがある街のギルドを訪れるとリサヴィだと気づいた冒険者達が集まってきた。
彼らの話題は今噂になりつつあるリサヴィ派についてだった。
サラは彼らとの関係を聞かれるとキッパリと否定した。
「私達は彼らとは関係ありませんし、彼らの行動に賛同もしてません」
彼らの表情を見る限りその言葉を信じたのは半分と言ったところだった。
ヴィヴィのリムーバルバインダーの目が隅っこのテーブルからこっちを見ているパーティに気づいた。
その姿はまるで迷子になっておびえて震える子犬のようであった。
……いや、そんなかわいいものではなかった。
大の大人が必死に同情を誘おうとしている、とても情けない姿であった。
今までの経験からか彼らがクズ冒険者であると一目で見抜いた。
リサヴィ派を名乗る者達の登場で身の危険を感じて隅っこで大人しくしているのだろう。
彼らはリサヴィに近づくためのキッカケを探しているように見えた。
(……うむ。考え方にまた変化が起きたか)
最初、クズ冒険者達はサラを仲間にしようと根拠のない自信を持ってしつこく強引に勧誘してきた。
それが無理とわかると今度はリサヴィの力を利用しようと考えた。
だが、リサヴィが気に入らない(自分達の事をクズだと思ってないためこう考える)冒険者を陰で殺しているという噂が流れて死神パーティと呼ばれるようになると身の危険を感じて近づかなくなった。
それで他のパーティを利用することに専念しようとしたがリサヴィ派が登場した事でそれも困難になった。
そこで原点回帰というべきか、またリサヴィを利用しようとの考えに戻ってきたようだ。
(奴らには真っ当に生きようという選択肢はないようだな)
ヴィヴィが呆れながら皆に警告する。
「ぐふ。クズがいるから目を合わせるなよ」
「えっ?……あっ」
アリスは反射的に周囲を見渡してしまい、そのクズ冒険者達を見てしまった。
そしてその一人と目が合ってしまった。
そのクズ冒険者はチャンス到来とばかりに満面の笑みを浮かべて立ち上がると彼のパーティも倣って立ち上がる。
そしてそのクズパーティはダッシュでリサヴィの元へやってくると冒険者達の輪を無理やり割って入ろうとする。
「お前らどけっ!」
「邪魔だ!」
当然、冒険者達はクズ冒険者の暴挙を許す気はない。
「お前らが邪魔だ!このクズどもが!」
しかし、クズ冒険者達の神経の図太さは尋常ではない。
クズの一人がさも本当の事かのように断言した。
「ざけんな!俺らはリサヴィに呼ばれたんだ!」
その言葉に冒険者達が一瞬躊躇したのをクズ冒険者達は見逃さず、輪に入り、まんまとリサヴィの前に立つことに成功した。
「よっ、待たせたな!アリエッタ!!」
目が合ったクズ冒険者が大きな声でアリスを間違った名で叫ぶが、ほとんどの者がアリスの名をアリエッタだと思っていたので間違いを指摘する者はいなかった。
これに珍しくリオが反応した。
「アンリ、名前間違われてるよ」
「リオさーんっ!その名前も間違ってますっ!」
リオとアリスのやり取りを気にする事なくクズ冒険者達は話を続ける。
「実はよ、お前らに頼みがあるんだ。俺らのリハビリに付き合って欲しいんだ」
「は?リハビリ?」
サラが首を傾げると彼らのリーダーは照れて頭をかきながら続きを話す。
「いやほら、俺らちょっとよ、怠け癖がついてしまってよ。へへっ」
「そんでいきなり単独依頼は危険だからよ。お前らと一緒に依頼を受けようと思うんだ」
「おうっ、よろしくなっ」
もはや彼らの中ではリサヴィと一緒に依頼を受けることが確定しているようであった。
もちろん、当のリサヴィに全くその気はない。
ヴィヴィが素っ気なく断る。
「ぐふ。勝手にやってろ」
「「「ざけんな!」」」
クズ冒険者達が怒り出す。
ヴィヴィが首を傾げながら確認する。
「ぐふ?お前達はお願いしているのか、命令してるのかどっちだ?」
「頼んでるに決まってんだろうが!お前がわけわからんこと言うから怒鳴っちまったんだろうが!」
クズリーダーが怒鳴りながらキッパリと言った。
言うまでもなく説得力ゼロであった。
今度はアリスが素っ気なく断る。
「嫌ですっ」
クズ冒険者達はヴィヴィの時と違って優しい声で話しかけてきた。
ただし、こめかみに怒りマークをつけて。
「まあそういうなってアリエッタ」
「……」
さっきのリオとの会話を全く聞いていなかったようで当然のように間違った名前でアリスを呼び、更にキメ顔をした。
アリスはぷいっと顔を背けた。
「「「ざけんな!」」」
その態度にキレた。
いや、最初からキレていたが、言葉にしてなかっただけだったがついに本音が口から飛び出した。
今度はサラが呆れた顔で断った。
「他を当たってください。私達はそんなことする気は全くありません」
もちろん、クズ冒険者が「はいそうですか」と諦めるはずもない。
「そーゆーなって。なっ?」
「もちろん俺らだって他の奴らにも頼んだんだがよ。誰も付き合ってくれないんだ」
「ちょっと楽して儲けたくらいでよ。ケツの穴の……いや、度量の小さい奴らだぜ!」
今の発言から彼らクズ冒険者は今までの行動を全く反省していない事がわかる。
彼らの話を聞いていた他の冒険者から即ツッコミが入る。
「何かちょっとだ!報酬の半分を持っていったり、獲物を横取りするのがちょっとかよ!?」
「ざけんな!!」
「リサヴィの前で嘘をつくんじゃねー!!」
クズ冒険者の反論にそこにいた冒険者全員が「お前らの方が嘘だろうが!!!」と見事にハモった。
流石のクズ冒険者も圧倒的な数の差に怯んだ。
アリスが呆れ顔で言った。
「リハビリならっランクの低い依頼を受ければいいでしょうっ」
「まあそう言ってやるなって。な、アリエッタ」
自分達の事のはずなのに何故か他人事のように話すクズリーダー。
「馴れ馴れしいのをやめてくださいっ。大体っ、わたしはアリエッタじゃありませんっ!」
「おいおい、何言ってんだよアリエッタ」
「だな」
「……」
アリスは沈黙するとすすすっ、とリオの後に隠れた。




