422話 クズとなった男
ここにあるクズパーティに属する男がいた。
その男はマルコの冒険者養成学校を主席で卒業し、将来を期待された冒険者だった。
順風満帆の冒険生活を送り、同じ冒険者養成学校を卒業して同じパーティだった美人女戦士と結婚し、可愛い息子も出来た。
嫁が冒険者を辞めて家庭に入ると男はもっと稼いで家族に贅沢をさせてやりたいと考えて、パーティを変えた。
それが男の運の尽きの始まりだった。
男が移籍したパーティはクズスキル?を操るクズ冒険者の集まりだった。
男はその事に入った後に気づき、すぐに抜けようと考えていたが楽して儲かるコバンザメを始めとしたクズスキル?に魅入られてしまった。
嫁にはそのパーティから抜けるように言われたが嫁の言葉は男には届かなかった。
かつてのパーティにも心配されて「戻って来い」とも言われた。
しかし、男は彼らが自分に嫉妬していると思い、笑い飛ばした。
「こんな楽して儲ける事をやめられるかってんだ!」
そう、気づけば男も立派なクズの仲間入りをしていたのだった。
心まで完全にクズに染まっていた。
娼館通いが日常茶飯事となり、嫁は男に愛想を尽かして息子とともに家を出て行った。
それからしばらくしてマルコでコバンザメ、いや、事後依頼が禁止されて男はクズパーティと共にマルコを去った。
その後、息を吸うようにクズスキル?を使いこなしていたBランクパーティが全滅したのを知った。
男はある街で彼のクズパーティと酒場で飲んでいた。
「聞いたか?」
「なんだ?」
「奴らのことだろ。ほれ、マルコを出発前、『鉄拳制裁を仲間にして戻って来るぜ!』って豪語していたBランクパーティ」
「おう、それそれ。全滅したんだってな」
「らしいな」
しばらく沈黙後、クズ冒険者の一人が口を開いた。
「……なあ、あの噂、本当なんじゃないか?」
「リサヴィがギルドと組んで問題のある冒険者を葬っている、ってやつか?」
「ああ」
クズパーティの盗賊が不安そうな表情で口を開く。
「これは噂の域を出てねえんだが、あのパーティの盗賊がリッキーキラーの奴に三途の川渡しを行ったそうなんだが……」
「奴か!?三途の川渡しを何度も成功させて自慢していた……」
「ああ、そいつだ。そいつよ、リッキーキラーにやり返されて死んだらしい」
「ちょ、ちょ待てよ!三途の川渡し返しをやったってのか!?リッキーキラーが!?」
「ああ。あくまでも噂だがな」
クズパーティのリーダーがジョッキでテーブルを勢いよく叩いた。
「そんなの俺らにゃ関係ねえぜ!俺らはリサヴィにゃ関わらねえ!」
「「「だな!」」」
その後、彼らはコバンザメを行うパーティをどこにするかを話し合った。
その話が終わると男がボソリと言った。
「俺よ、今度の依頼が終わったらマルコに一度戻ってよ、嫁とよりを戻そうと思うんだ」
「マジかよ!?折角自由を取り戻したのによ」
「そうだぜ!何でわざわざ不自由になりたがるのかわからんぜ!」
ちなみに今言った者達は独身で、男を娼館へ誘って嫁と別れる原因を作ったのも彼らであった。
男と彼の所属するクズパーティが将来有望と噂されるDランクパーティの後を雑談しながらついていく。
クズスキル?コバンザメ発動中である。
後を付けられているDランクパーティは時折、後を振り返っては見下した視線を彼らに送るが彼らは全く気にしない。
そんな視線は慣れっこであった。
Dランクパーティが襲って来た魔物を一掃した。
彼らは噂通りの腕前であった。
戦いが終わったのを見届けてクズパーティが動き出す。
クズパーティの一人が既に死んでいる魔物に斬り付け、その剣を掲げて自分の獲物だとアピールする。
クズスキル?ごっつあんです発動である。
「とったどっー!!」
「「「……」」」
Dランクパーティの軽蔑した視線を気にすることなく、彼のクズパーティがその場に集まって既成事実であるかのように喜びを分かち合う。
そしてアピールはもう十分だろうと判断して騒ぐのをやめたときだった。
冷めた目で見ていたDランクパーティのリーダーが口を開いた。
「やっぱお前ら聞いていた通りのクズだな」
クズパーティは全員Cランク冒険者で彼らよりランクが上である。
その自分達をバカにした言葉を吐いたことに怒りを露わにする。
発言自体は何も間違ってはない。
だが、例えそうであろうと格上に逆らってはいけないのだ。
少なくとも彼等クズパーティの中ではそれが絶対のルールであった。
「なんだとテメェ!」
「本当のこと言って怒ったのか?」
Dランクパーティのリーダーはクズ冒険者達に睨まれても平然としていて更に挑発する。
「「「「ざけんな!」」」」
その叫びを聞き、Dランクパーティのメンバー全員が笑い出す。
「おいおい、ふざけてるのはお前らだろ」
「んだと!?」
彼らクズパーティは威嚇しながらも、Dランクパーティの態度に違和感を覚える。
なんかいつもと違うぞ、と。
とても嫌な感じがした。
それは凶悪な魔物に出会った時のものが最も近い。
それでも彼らはクズ冒険者として多くの経験を積んでいるのだ。
そう感じていることを表情には微塵も見せずに彼らを威嚇する。
「痛い目に遭わないとわかんねえようだな」
クズパーティのリーダーが彼らに剣を向けるとそれに倣って残りのメンバーも剣をDランクパーティに向けた。
もちろん、クズパーティは脅しのつもりだった。
それを見てDランクパーティのリーダーが嬉しそうに言った。
「これで正当防衛成立だ」
Dランクパーティも彼らに剣を向ける。
それが脅しではないことをクズパーティは悟った。
「お、おい!落ち着けって。俺らはお前らと争う気はない。この獲物を俺らが倒したって素直に認めれば今回のことは許してやるからよっ!」
クズパーティのリーダーの上から目線の言葉にDランクパーティはまた笑いだした。
クズパーティは悪魔が笑っているかのような恐怖を覚えた。
「な、何がおかしい!?」
クズパーティのリーダーの強張った声を聞き、声を出すのはやめたが、その顔は笑みを浮かべたままだった。
Dランクパーティのリーダーが彼らに死刑宣告をする。
「俺達はお前らを許す気はない」
「ざけんな!Cランクの俺達が許してやってもいいと言ってんだぞ!」
Dランクパーティのリーダーが首を左右に振った後で言った。
「お前達がクズスキル、コバンザメを発動していたように俺らもスキルを発動してたんだよ」
「な、なんだと!?」
「最期だから教えてやるよ。俺らが発動しているスキルは……誘い殺し、だ」
「さ、誘い殺しだと!?」
「なんだ、そのわけわかんねえスキルはよ!」
「あれ?わからないか?言葉通りなんだが……クズを誘い出して殺すスキルだ」
「な、な……」
「ちなみにスキル名は俺達が名付けたがスキルを発明したのは俺達じゃない……リサヴィだ」
「「「「!!」」」」
「聞いたことないか?リサヴィがクズ冒険者を誘い出して抹殺してるってよ」
Dランクパーティは事実のように語っているが、リサヴィはそんな事をしていない。
だが、彼らは事実だと信じ込んでいた。
「俺らはリオさん達の行動に共感して俺達冒険者の信用を落とすことしかしないクズを抹殺することした……俺達は、リサヴィ派だ!」




