420話 黒幕について語る
クズ冒険者達が盗賊を装い村を襲撃した事件だが、サラ達はクズ冒険者達を近くのギルドへ連行し、そこのギルマスに事情を説明した。
念書に書かれていた冒険者達だが、皆、素行が悪く、ギルドの要注意人物に指定されている者達ばかりだった。
事件の連絡を受けたギルド本部は今回の件を重く見て捕えたクズ冒険者達を直接尋問することを決定した。
最初は怯えていたクズ冒険者達であったが、ギルド本部のある冒険者の街ヴェインに到着する頃にはすっかり元気を取り戻していた。
それだけでは済まず、
「クズ冒険者の名は伊達ではない!」
とでも言うように(本人達は自分達をクズだと思ってないが)尋問を受けると「俺達は無実だ」と平然と嘘をついた。
それどころか、「真犯人はリサヴィだ!」などという始末である。
しかし、彼らはクズと言っても”妄想を現実と思い込む能力“を修得するまでには至っていなかったため、魔道具”嘘発見くん“によってあっさりと嘘だとバレた。
その結果を突きつけられて彼らは態度をコロリと変えた。
卑屈な笑みを浮かべながら犯行を自供しはじめた。
しかし、
「まだ終わらんよ!」
とでも言うように自分達の正当性を主張したのである。
「大体サラが悪いんだ!自分のショタコン趣味を優先してよ!」
「だな!サラに、あとアリエッタもだがあいつらに本当の勇者が誰か気づかせるために仕方なくやったんだ!」
「おうっ!仕方なくだ!」
「誰が本当の勇者かわからせるためには偽勇者であるリッキーキラーを殺すしかなかったんだ!」
「俺らの行動は世界を救うためだったんだ!」
「そのためになら村の一つや二つ犠牲になっても許されるはずだ!」
「なあ、あんただってホントはわかってんだろう?どっちが正しいかってよ!!」
「おうっ、俺らの行いこそが正義だってよ!」
「よしっ、決まったな!さあ、解放してくれ!」
「「だなっ!」」
「……」
言いたい事を言った彼らの顔はなんか誇らしげだった。
その顔を見て尋問官は、
「なるほど。すぐに解放しよう」
などと思うはずもなく、反省の色なしと判断を下した。
結局、今回の計画の黒幕を明らかにすることはできなかった。
わかったことと言えば、この計画を持ちかけて来たのがフェラン製の魔装具を装備した魔装士だったという事だけであり、肝心のその魔装士については仮面が邪魔で顔を見ていなかったのは言うまでもなく、名前も知らなかった。
尋問されて初めて名前を聞いていなかった事に気づいたのである。
ではその者をどうやって呼んでいたかと言えば魔装士の蔑称の“棺桶持ち”である。
相手は蔑称で呼ばれても怒らなかったのでそのまま通してしまったというのだ。
名を名乗らぬどころか顔も見せない怪しい相手の話に乗るほど彼らは追い詰められていたとも言えるが、ただ単に彼らが抜けているだけとも思えた。
おそらく両方であろう。
彼らクズ冒険者達は尋問を終えた後、何故か解放されると思っていたようだったがもちろんそんな事はない。
冒険者ギルドを除名された上であの村を治める領主の元へ盗賊の仲間として送還された。
全滅したBランクパーティが話していた不正を働くギルド職員だが、Bランクパーティがリサヴィ被害者の会に参加しておらずクズ冒険者達との面識もなかったため、彼らはそれが誰の事か知らなかった。
そのため、不正を行ったギルド職員を見つけるのは困難かに思えたが呆気なく捕まった。
Bランクパーティと親しくしていたギルド職員は限られていたからだ。
不正を行ったギルド職員は捕らえられたが、その翌朝、ギルドの地下牢で不審死を遂げた。
リサヴィは街道沿いに一定間隔で用意されているキャンプスペースで少し遅めの夕食を食べていた。
「やっぱりリオさんの料理は美味しいですっ」
「そうなんだ」
「ぐふ。アリス、そうサラを責めてやるな」
「おいっこらっ!なんでそこで私が出てくるのよ!?」
「はっ!?すみませんっサラさんっ!そんなつもりで言ったんじゃないんですっ」
「あなたも謝らないで!」
食事を終えるとヴィヴィがカリスの最期を話し始めた。
「ぐふ。言ってなかったが、村襲撃の仲間にバカリスもいたから始末した」
ヴィヴィはあっさりと何でもないように言ったのでサラは気づくのに遅れた。
「え!?カリスが!?でも念書には載っていませんでしたが?」
「ぐふ。狙撃したパーティも載っていなかっただろう。あのクズ達とは別口で依頼を受けたのだろうな。いや、あのバカは襲撃を知って自ら喜んで参加したのかもしれんがな」
「そうですか」
サラはカリスが嫌いだったし、金色のガルザヘッサとの戦いでは死んでも構わないと思ってボコボコにしたが、実際に死んだと聞くと少しだけ可哀想になった。
サラに会った事で彼の運命はおかしくなったとも言えるからだ。
と言ってもサラが彼を惑わすような事をしたことはないのでやはり自業自得との結論に達した。
そんな事を考えているとヴィヴィの声が聞こえた。
「ぐふ。本題はここからだ」
「え?」
「ぐふ、もしこの事がなければ話すつもりはなかった」
「そうですか。それで本題とは?」
「ぐふ。バカリスの怪我だが予想していた通り完治していた。だが、怪我を治したのは魔法ではなく、寄生生物だったようだ」
「!?」
「あのっ、カリ……バカリスは体に寄生生物を飼っていたって事ですかっ?」
アリスはわざわざ言い直して尋ねる。
「ぐふ。どちらが主人だったかはわからんぞ」
「そうなんですかっ」
「そうなんだ」
「もう少し詳しく教えてください」
「ぐふ。やはり昔の男の事が気になるか」
「誰が昔の男ですか!寄生生物の方に決まっているでしょう!」
「ぐふぐふ」
ヴィヴィはサラを揶揄うのに満足して先を話し始める。
「ぐふ。最初は戦闘不能にしようと思ったのだが、いくら腕や足を折ってもすぐに回復してな。首を折っても同じだった」
「それはすごい回復力ですね」
「ぐふ。流石にこれ以上、奴と遊んでられないので頭を吹き飛ばしたのだが、その頭も再生した」
「えっ!?頭が再生ですかっ!?」
「ぐふ。再生した顔は前と同じだったが、目は真っ黒に染まり異常だったな。危険な感じがしたからすぐにその頭を含めて全身を破壊したら中から寄生生物が飛び出して来たのだ。それも吹き飛ばしてやったがな」
「そんなものの力借りてまで強くなりたかったんですねっ」
ヴィヴィはアリスに首を横に振る。
「ぐふ。奴自身は寄生されている事に気づいていないようだった」
「それって……」
「ぐふ。奴は『勇者になる薬』を飲んで勇者になったとほざいていたが、その薬に寄生生物が入っていたのだろう。普通はそんなものに早々引っかかるものではないが、相手はあのバカリスだからな」
「それを飲ませた相手はわかっているのですか?」
「ぐふ。名は奴も知らなかった。吟遊詩人の姿をしていたようだが本当に吟遊詩人だったかは怪しいな」
アリスが身を震わせる。
「それにしてもなんか怖いですねっ。そんな薬、いえっ、寄生生物を使う者達がいるなんてっ」
「ぐふ。クズ達はお前とサラ目的でリオを殺そうとしたのは間違いないが、クズ達をそそのかした奴らは違うな。明らかにリオを殺すのが目的だったようだ」
「なんでリオさんをっ?恨みならサラさんの方が買ってますよねっ?」
アリスがサラに同意を求め、サラは拳で返事した。
「痛いですっ」
「ぐふ。それは間違いないが、」
「おいこら!他人事みたいに!あなただって結構恨みを買ってるわよ!」
ヴィヴィはサラの言葉をスルー。
「ぐふ。リオを狙う可能性として考えられるのはリオが勇者になる可能性が高いと思っているからだろう」
「ああっ、確かにリオさんはサラさんとわたしという素晴らしい神官が勇者になると思ってますもんねっ。エヘヘっ」
アリスは自画自賛した後に恥ずかしくなって照れる。
「でもっ勇者が邪魔って事は魔族に与する者達ですかねっ?」
「あるいは六大神に敵対する者達、例えば邪神メイデスの使徒ですね。彼らは六大神のすることを全てを否定しています。勇者はその最たるものですから」
「ぐふ。私もメイデスの使徒が怪しいと思っている。これまで何度も奴らの邪魔をしたからな。どれも意図的にではなく結果的にだが向こうからしたらどちらでも邪魔した事には変わらないからな」
「そうですね」
アリスが「あれっ?」と首を傾げる。
「でもっだったらわたし達も狙われるんじゃないんですかねっ?」
「ぐふ。まあ標的には違いないだろうが優先順位はリオが上なのだろう。いくら神官がいようと勇者となる者がいなければ意味はないからな」
「そうですね」
「確かにっあのクズ達は何故か自分が勇者になれると思っているみたいでしたけどっ、一人も勇者になれそうな人いませんでしたもんねっ」
「ぐふ。その通りだ。だからまず勇者候補を抹殺した後にお前達を殺すつもりなのだろう。お前達がいなくなっても神官など腐るほどいるしな」
「それは言い過ぎですがまあそうですね」
「ぐふぐふ。ともかくだ。今回は明らかに今までとは違う。今回で諦めたとは思えないから十分注意すべきだろう」
「そうですね、って、話を聞いてましたかリオ」
「ん?」
「みんなあなたの事を心配してるのですよ」
「そうなんだ」
リオはどうでもいいような返事をした。
サラはため息をついてヴィヴィに尋ねる。
「それであなたが見た寄生生物のことですが何かわかりますか?」
「ぐふ。わからん。が、もしかしたら新種かもしれん」
「そう思う理由は?」
「ぐふ。ちらっとしか見えなかったがなんとなくガブリッパと名乗っていた奴が飼っていたスクウェイトに似ていた気がする」
「あれも結局よくわかりませんでしたね。死体に寄生するようでしたが、品種改良して宿主と共存出来るようにしたのでしょうか」
「ぐふ。どうだろうな」
「あのっ、その寄生生物についてはギルドに報告しなくてよかったのですかっ?」
「ぐふ。現状、寄生されているかどうかを見分ける方法はないし、その薬とやらも実際見たわけでもないからな。バカリスの妄想だった可能性も捨て切れない」
「確かに」
「ですねっ。わたしはちょっとしか会ってませんけどあの人っ、頭おかしかったしっ」
「ぐふ。それにだ、注意するにしても『怪しそうな薬を飲むな』など当たり前すぎて意味はないだろう」
「そうですね。とりあえず私はナナル様に相談します。ナナル様ならメイデスの使徒達の動きを何か掴んでいるかもしれませんし」
「あっ、わたしもっフラース様とダッキア様に連絡しますっ」
「そうなんだ」
リオのどこか緊張感のない呟きが響いた。




