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悪夢を振り払え〜あなたを魔王にはさせません!〜  作者: ねこおう
第4部 クズ達のレクイエム編(タイトル変更)
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419話 リオンとヴェイグ

 食事が終わり、酒をダラダラ飲みながらヴェイグが呟いた。


「……そろそろユダスを出て行くかな」


 その声は決して大きくなかったがパーティメンバー全員に聞こえた。

 その言葉を聞き、酔っ払って気持ちよくなっていた頭の弱い大柄の戦士グルタの酔いが一気に覚める。


「ちょ、ちょっと待ってくれよヴェイグ!オラはまだFランクだからこの街を出たら冒険者じゃなくなっちまう!」


 本来、冒険者ギルドの入会試験は筆記試験と実技試験があり、両方合格して入会が認められる。

 しかし、ユダスでは入会試験は実技試験だけで筆記試験はEランク昇格時に行われる。

 Eランクに上がってはじめて他のギルドでも冒険者と認められるのだ。

 ユダスのFランク冒険者は言ってみれば仮免の冒険者なのである。

 泣きついて来たグルタをヴェイグは冷たく突き放す。


「知るか。お前がさっさと合格しないからだろう」

「そ、そんなあ。頼むよヴェイグ!オラを見捨てないでくれよ!」

「アホか。お前は一体幾つだ」

「二十だ!」

「わかってるわよ。何真面目に答えてるのよ」


 イーダが呆れた顔をグルタに向けた後、ヴェイグに賛同する。


「ヴェイグ、あんたが行くならあたいも行くよ」

「イーダもかよ!?頼むよう!行かないでくれよお!」


 大の大人が涙と鼻水を垂れ流して喚きまくる。

 ヴェイグが面倒くさそうな顔をして言った。


「わかったわかった。一週間だけ待ってやる。俺達と一緒に行きたければその間にEランクに上がれ」

「い、一週間!?短いよヴェイグ!」

「ヴェイグ、まずその間に昇格試験があるか確認した方がいいわ」

「ああ、そうだったな」


 イーダがパーティ内で唯一意思表明していないウッドに尋ねる。

 

「あんたはどうするの?」

「……俺は即答できない。俺達全員が出て行ったら孤児院の奴らが困るだろ」


 エルキッズは報酬の一部を孤児院に寄付していたし、暇を見て孤児院出身の新米冒険者や冒険者希望の者に稽古をつけていた。


「ウッドは心配性だな。俺ら以外にも世話焼く奴らはいるだろうが。だが、まあ、好きにするさ」


 ヴェイグは強制しなかった。


「順番が逆になったけどさヴェイグ、ユダスを出てどこへ行くつもり?」


 ヴェイグは即答した。


「リオンを探す」

「「「!!」」」



 ユダスの東にある魔の森にユダスの王は傭兵団を雇って度々森の奥へ調査に向かわせていた。

 リオンは紅の傭兵団という有名な傭兵団に属しており、魔の森の調査を何度も行っていた。

 ヴェイグはリオンと孤児院の前で出会った。

 孤児院をぼうっと見ていたリオンをヴェイグは不審者だと思い、追い払おうと殴りかかったがあっさりと返り討ちにあった。

 文字通り大人と子供、しかもリオンは傭兵である。

 子供のヴェイグが勝てるはずもない。

 その後、誤解が解け、リオンの強さに憧れたヴェイグが剣の稽古をお願いしたことがキッカケとなり、リオンはユダスにいる間、ヴェイグだけでなく、望む者全員に剣の稽古をつけるようになった。

 ヴェイグは言い出しっぺでもあり進んで参加していたが、嫌々参加する者もいた。

 嫌々参加している者達は稽古後、リオンが奢ってくれる飯が目当てだ。

 屋台の、それも安い飯だがそれでも孤児院の飯よりご馳走だった。

 何より腹一杯食べれるのが大きい。

 リオンとの稽古を楽しみにしていたヴェイグだったが、ある時を境にリオンはぱったりとユダスに来なくなった。

 しばらくしてヴェイグはリオンの所属していた紅の傭兵団が壊滅したという噂を耳にした。

 他の孤児達はリオンも死んだと思ったようだが、ヴェイグはそうは思わなかった。

 その後、ヴェイグの元へリオンから一本の剣が送られて来た。

 時期が微妙で傭兵団壊滅前に送られたのか、後に送られたのかはハッキリしなかったが、ヴェイグは生きていると確信していた。

 その後もヴェイグは剣の腕を磨き続けて十五歳になったときリオンが嫌っていた冒険者になった。

 ヴェイグはリオンのいる紅の傭兵団に入りたかったが、それがなくなったからだ。

 リオンは事あるごとに冒険者の悪口を言っていたがヴェイグには冒険者は天職だった。



 イーダが神妙な顔で言った。

 

「ヴェイグはまだリオンが生きてると思ってるのね」

「当然だろ。てかお前もだろ」

「……そうね」


 イーダはどこか力なく頷く。

 その態度を気にしながらもウッドがヴェイグに確認する。


「ユダスで待つのはやめたって事か?」

「ああ。俺はガキじゃない。もう待つのはやめだ。こっちから探しに行ってよ、会ったらこう言ってやるんだ。『リオン、食わず嫌いは良くないぜ。冒険者って結構楽しいぜ』ってな」

「そうか。イーダもか?」

「ええ。あたいはリオンに魔術士ギルドの入会金や魔術士学校の授業料を出してもらったし」

「イーダ、本当にいいのか?リオンの奴さ、『十年後に俺のタイプだったら体で払ってもらう』とかなんとか言ってなかったか?」


 ヴェイグがからかうとイーダが顔を真っ赤にして睨む。

 

「お金が返せなかったら体で払ってもいいぞ、よ!!ちゃんとお金は貯めてるから!」

「そうかそうか」

「……その笑いムカつくわね」

「おお、怖え怖え」


 そこでイーダは真剣な表情になる。


「ヴェイグ」

「なんだ急に真面目な顔しやがって」

「あたい、あんたに、いえ、みんなに黙ってたことがあるの」

「なんだそりゃ?」

「……実はあたいの魔法学校の授業料を払ってたのはリオンじゃないかもしれない。いえ、多分違う」


 その言葉を聞き、皆の表情も真剣なものになる。


「おい、イーダ、そりゃどういう意味だ?」

「……最初、あたいの受領料を払っていたのは間違いなくリオンよ。匿名で“アレでかお兄さん”って名乗ってたけど」

「リオンらしいな」

「ええ。でも途中から、暁の傭兵団が壊滅したって噂が流れてしばらく経ってからその匿名が変わってたのよ」

「なんてだ?」

「……耳長お姉さん」

「なんだそりゃ、エルフかよ?」

「イーダはその耳長お姉さんに会ったことないんだな?」


 ウッドがイーダに尋ねる。

 

「ええ、あたいが振込人の変更を知ったのは卒業のとき。そういう約束をしていたらしいのよ」

「そうか」

「なんで今まで黙ってた?」

「ごめん……。いつか言わなきゃと思ってたんだけど言ってしまったら、リオンが本当に死んでしまう気がして。でも今言わなきゃもうあたいずっと言えないかもって……ほんと、ごめん……」


 イーダが涙を浮かべて頭を下げた。

 そんなイーダを見てヴェイグは笑いながら言った。


「いいさ。それならその耳長お姉さんとやらも探そうぜ。お前も授業料の礼を言いたいだろ?」

「……うん」


 ヴェイグはこの話はここで終わりとばかりに話題を変えた。


「そうそう、旅に出る理由だけどよ、もう一つあったわ。リオンの事もあるけどよ、リッキーキラーにも会ってみたいんだ」

「あのクズ達がバカにしてた奴だな」

「お前がリオン以外の者に興味を示すとは珍しいな」

「おいウッド、俺はホモじゃねえぞ」

「そんなつもりで言ったわけじゃない」

「必死に否定するところが怪しいね」

「おいおいイーダ。そりゃさっきの仕返しか?それとも嫉妬してんのか?てか立ち直り早いな。もうちょっとしおらしくしててもいいんだぜ?」

「う、うるさい!」



 盗賊のウッドが話を変える。


「リサヴィで思い出したがヴィヴィって覚えてるか?魔装士の」

「ヴィヴィ?」


 ヴェイグが首を捻っているとイーダが先に思い出してぽん、と手を叩いた。


「そういえば前にいたわね。無愛想、っていうか人前で絶対仮面を外さなかったちょっと不気味な魔装士」

「……ああ。思い出した。確かにいたな。そんな性別不明の魔装士。突然やって来て誰とも組まずにさっさと Eランクに上がって出て行ったんだったな」

「ああ、そのヴィヴィだ。実はリサヴィにいるんだ。ヴィヴィって名の魔装士が。一部の者達は“暴力の盾”って二つ名で呼んで恐れているらしい」

「暴力の盾、ね。リサヴィは全員Cランクだったよな。それで二つ名ついてるのかよ」

「まあ、リサヴィにはあのナナルの弟子の鉄拳制裁のサラがいるからな。Cランクと言っても注目度が違う」

「なるほどね」

「何?ヴェイグ羨ましいの?」

「いや、別に」

「あたいが二つ名つけてあげようか?三倍返しのヴェイグってのはどう?」

「やめろ。だいたいその三倍はどっから来た?」

「単純に二倍じゃ少ないと思ったんだろ」


 イーダの代わりにウッドが答える。


「当たり」

「何が当たりだ。俺は二つ名なんていらねえ」

「まあ、そうは言っても二つ名って自分でつけるものじゃないかならな」

「そうよね、リッキーキラーなんか、って、あれ?リッキーキラーが二つ名よね。本名なんだっけ?」

「リオ、らしい」


 ウッドは盗賊クラスだけあって情報通だった。


「リオ?なんかリオンに似てるわね」

「別に珍しくないだろそんな名前」

「それもそうね……あっ」


 イーダが何かを思い出して声を出した。

 

「どうした?」

「ナナル様にも会いに行こうよ。ナナル様もあたいらの恩人だし」

「そういや、そうだったな」


 ナナルは以前にユダスを訪れた事があった。

 その時、教会に立ち寄り、あまりのボロさに呆れて自腹で教会の修繕費用を出して建て直させた。

 それだけでなく、回復魔法が使える神官を常駐するように教団に働きかけたのだ。

 効果は絶大ですぐさま神官が派遣されて来た。

 彼ら神官に命を救われた者も多い。

 現在はナナルの口利きで教団に入団していた孤児達が二級神官になって戻って来て務めている。


「ほんと、偶然ユダスに立ち寄ってくれて助かったよな」

「……あれはほんとに偶然だったのか?」


 ウッドが難しい顔をして首を傾げる。

 ちなみにさっきからグルタが沈黙しているのは話について行けず酒をがぶ飲みして寝落ちしていたからだ。

 

「どういう意味だ?」

「思えばナナルが来たのは紅の傭兵団が壊滅した、リオンが来なくなった後だったよな」

「ウッド、もしかしてあんたは耳長お姉さんがナナル様だって言いたいの?確かにナナル様ならお金は有り余ってそうだけど」

「いや、そこまでは言わないが無関係とも思えないと思っただけだ」

「「「……」」」


 ヴェイグとイーダもウッドの考えが正しいように思えて来た。

 

「……どうやらいろいろな疑問を解決する時が来たと神様が言ってるようだな」

「おいおい、何らしくない事言ってるんだ」

「はははっ。だが、最初の行き先は決まったな」

「神殿都市ムルトね」

「ああ」


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