表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪夢を振り払え〜あなたを魔王にはさせません!〜  作者: ねこおう
第4部 クズ達のレクイエム編(タイトル変更)
418/869

418話 ユダスのヴェイグ

 酒場でユダスパーティ、いや、パーティ名エルキッズの面々は依頼を終えて遅めの夕飯を食っていた。

 エルキッズのリーダーの戦士ヴェイグは孤児だった。

 父親は冒険者だったらしいが物心つく前に魔の森で魔物に殺され、顔はほとんど覚えていない。

 母親に至っては一緒に生活をしたことがあるのかすら覚えていない。

 ユダスでは冒険者の親が死に孤児になるのは珍しくなく、ギルドが運営する孤児院もある。

 ヴェイグはギルドが運営する孤児院で今のパーティメンバーと共に育ち、冒険者となったのだ。


 

 体のガッチリしたEランク冒険者がヴェイグ達のところへやって来た。

 彼の実際の実力はBランクに匹敵し、依頼ポイントはCランクに上がれるまで溜まっていた。

 本来であればランクアップ出来るのにしない場合、ギルドからランクアップするように催促される。

 そのランクに適した実力の冒険者の依頼を奪わないためだ。

 だが、ユダスギルドは催促しない。

 ユダスは毎年多くの死者を出して年中冒険者不足の状態であり、ランクを上げろと催促して相手の機嫌を損ねてユダスから出ていかれては困るからだ。

 これはユダスの特殊性からギルド本部も黙認していることであった。

 更に先述したように彼らの多くは戦バカで依頼を受けずに直接魔の森へ狩りに出かけ、自分の実力相当(冒険者ランクではない)の強い魔物を狩ってくることも催促しない理由の一つだ。

 自由にさせておいた方がお互いのためなのだ。

 ちなみにヴェイグ達エルキッズもCランクへ上がれる程度は依頼ポイントが溜まっており、実力はBランクに匹敵する。


「よお、ヴェイグ。餌、じゃなくてクズはもう来ないのか?」

「俺が知るか。クズに聞け」


 そこへヴェイグと同じパーティの女魔術士のイーダが会話に加わる。


「前引っ張っていったクズリーダーはどうしたのさ?」

「おお、あいつか。なかなか活躍してくれたぞ。あいつだけを放置するとあっという間に魔物が集まってくるんだ」

「クズ臭を放っているのかもな」

「ちげえねえ!」


 Eランク冒険者が大笑いする。


「それで死んだのか?」

「いや。しぶとく生き残ってな。泣きながら街から出て行ったぜ」

「ほう」


 ヴェイグはクズリーダーのしぶとさにちょっと感心したが、それ以上に仲間を平気で見捨てるどころか盾にまでするクズが生き残ったことに腹を立てていた。

 ヴェイグが不機嫌そうな顔をしたからか、その冒険者は補足した。


「まぁ、腕を一本食われたけどな」


 そう言って「ガハハ!」と豪快に笑う。

 

「じゃあ、もう冒険者引退ね」

 

 イーダがつまらなそうに呟いた。


「でだ。おかわりが欲しいんだが」


 そう言ってEランク冒険者がヴェイグを見る。

 

「おいおい、俺に頼んなよ」

「そう言うなって。また悪知恵出してくれよ」

「失礼な奴だな。俺のような純粋な男を捕まえてよ」

「純粋な奴はクズを魔物を誘き寄せる餌にしようなんて考えないわよ」


 即座にイーダが突っ込む。

 

「ちげえねえ!」


 Eランク冒険者がイーダに同意する。

 

「お前ら失礼だぞ。あいつらが俺らを利用しようとしやがったから仕返ししてやっただけだろうが」

「で、どうだ?」


 ヴェイグは反論をスルーされてムッとする。


「どうだも何もあのクズリーダーにクズ友へ手紙書かせればよかっただろうが。ユダスはいいとこだぜってよ」

「いや、それはやった。というか、俺らが言う前に奴が進んでやった」

「……流石だな、あのクズ」

「『幸福は独り占め不幸は分かち合おう』って本当みたいね」


 ヴェイグだけでなく、イーダも不機嫌な顔で言った。


「じゃあ、もう少し待ってろよ」

「暇だ」

「うるせえなあ。じゃあ、もっと森の奥へ行けよ。そしたら餌なんかなくても寄ってくるだろ」

「おいおい、流石にそれは俺らのパーティだけじゃキツい」

「まあ、奥へ入り過ぎると迷子になるものね」


 魔の森にあると噂される魔の領域の確認が未だにできていないのは魔物が強いこともあるがそれ以上に魔の森自体の特殊性にある。

 魔の森では方向感覚を失いやすく、奥へ向かうほどその影響を強く受けるのだ。

 魔法耐性の高い魔術士や神官が比較的影響を受け難いことから森に方向感覚を失わせる魔法、あるいは魔道具が使用されていると考えられていた。

 これまでに自分の意思で、あるいはうっかりと森の奥へと足を踏み入れる者達はいたが原因を取り除くどころか原因解明の手掛かりにすら至らなかった。

 そのほとんどが二度と帰って来なかったからである。

 いくら自分達の力に自信を持っていてもこの影響はどうする事もできない。

 帰り道がわからなければいつかは力尽きる。

 そのため、戦バカ達も不用意に森の奥へ進もうとしないのであった。



「でもよ、イーダ、いや、お前らエルキッズが行くなら付き合うぜ?」


 イーダが誰が見てもわかる嫌そうな顔をする。


「バカ言ってんじゃないわよ。なんであたいらの方が行きたいみたいな話になってんのよ?」

「俺らは行かねえぞ。お前らのような戦バカじゃねえからな」

「戦って死ねたら本望なんて考えてないぞ」


 イーダ、ヴェイグに続いて盗賊のウッドも拒否した。


「ひでえ言いようだな」

「さっきの仕返しだぜ」


 ヴェイグが満面の笑みで言った。

 Eランク冒険者はため息をついた。

 

「しゃあないなあ。じゃあ、新たなクズがやって来るのを待つとするか」

「おう、そうしろそうしろ」


 Eランク冒険者はつまらなそうな顔をして去っていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ