412話 ストーカー、散る
リオとヴィヴィが逃げたBランク冒険者達を追跡していた。
どうやってかと言えば、ヴィヴィがリムーバルバインダーを一つ飛ばして上空から彼らの動きを観察していたのだ。
盗賊を失った彼らはその事に全く気づいていなかった。
二人は何者かがすごいスピードで追ってくるのに気づいて足を止めた。
すぐに大柄の戦士が姿を現した。
「真打登場!!」
カリスだった。
このタイミングで現れたことからヴィヴィはカリスも今回の陰謀に絡んでいると察する。
「やっと会えたなぁ、リッキーキラー!棺桶持ちぃい!!」
「「……」」
以前、ヴィヴィはカリスを再起不能になるまでボコった。
右足を完全に砕き、右腕を潰した。
ヴィヴィは二度と冒険者を出来ないようにしたつもりだったが、目の前のカリスは右腕も右足も元通りだった。
いや、以前より一回り大きくさえなっていた。
「前回は世話になったなぁ棺桶持ちぃい!!」
カリスが凶悪な笑みを浮かべる。
「ぐふ。ここにサラはいないぞ」
「そんなことたあわかってるぜ!サラとの感動の再会はお前らクズをぶち殺した後だ!これ以上、俺らに付き纏われてもかなわねえからな!このストーカーどもが!」
ヴィヴィは思わずズッコケそうになった。
「……ぐふ。クズもストーカーもお前だ」
「ははははっ!ぜんぜん笑えねえぜ!」
「笑ってる」
リオは表情を変えずに呟くがカリスには聞こえなかった。
ヴィヴィはため息をつきながら言った。
「ぐふ。リオ、先に行け。このバカは私が処理する」
「わかった」
リオは全くカリスに興味がないようだった。
「逃がすかよ!」
カリスが素早い動きでリオに迫るが、そのカリスをヴィヴィのリムーバルバインダーが弾き飛ばした。
「棺桶持ちぃいいい!!」
「ぐふ。私達は忙しい。さっさと終わらせてやるからかかって来い」
「……いいだろう。メインディッシュは最後だ。まずはてめえからだ棺桶持ちぃいい!勇者になった俺の力を見せてやるぜ!」
「ぐふ?勇者だと?」
「棺桶持ちぃいい!俺の味わった痛みを百倍にして返してやるぜ!!」
カリスはヴィヴィの問いに答えず、ヴィヴィに向かってダッシュして大剣を振り下ろした。
「!?」
ヴィヴィはその攻撃をリムーバルバインダーで受け止めたが、衝撃を完全に殺すことは出来なかった。
自身を後退させ次の攻撃に備えるが、
「さらあ!!」
カリスは大剣を掲げて大声でサラの名を呼んで周りを見回す。
隙だらけである。
肉体を強化しても最早癖といっていいこの奇行が全てを台無しにしていた。
「……ぐふ。バカめ」
ヴィヴィはリムーバルバインダーをカリスの大剣を持った右腕に思いっきり叩きつけた。
ゴキっ!と嫌な音を立てて右腕が折れ、持っていた大剣を落とした。
「がああああ!」
カリスはサラの名を叫ぶのを中断し、折れた腕を押さえて唸る。
「ぐふ。確かにちょっとだけ強くなったが、それで勇者とは……!?」
ヴィヴィは仮面の下でカリスに起き始めた変化に目を見張った。
完全に折れたはずの右腕が治ったのだ。
カリスは治ったばかりの右腕で落とした大剣を拾う。
治ったばかりだというのに普段通りに動くようであった。
この回復力はサラやアリスの治療に匹敵するものであった。
カリスがニヤリと笑った。
「見たか!棺桶持ちぃいい!これが勇者となった俺の力だ!さらあ!!」
「……」
ヴィヴィはカリスがどうやってその力を得たのかは知らないが、少なくとも勇者の力とは思えなかった。
勇者にそんな治癒能力があるという話を聞いた事はない。
ヴィヴィは出会ってから初めてカリスに興味を持った。
そのため、サラの名を呼びながら辺りを見回し隙だらけだったカリスを攻撃せずに問い質す。
「ぐふ。バカリス、その力、どこで手に入れた?」
カリスはサラが周りにいないのにやっと気づき、ヴィヴィを見た。
「はっ!なんだ棺桶持ちぃい。俺の勇者パーティに入りたくなったってか?だが断る!!」
「ぐふ。そんな事は一言も言っていない。どうやってその力を手に入れたのだと聞いているだけだ」
「ばーか!言うわけないだろが!それにな!あの薬はな!勇者が飲まないと効果がないんだからな!間違ってもリッキーキラーが飲んでも俺のように強くはならねえってわけだ!」
「ぐふ。なるほど薬か。それは誰から手に入れたのだ?」
「だから言うわけねえだろうが!何度も言うがお前らがあの吟遊詩人を見つけて手に入れたとしてもな、俺のように勇者になる者にしか効果はないんだからな!!」
「ぐふ。吟遊詩人か。名はなんというのだ?」
「お前ほんとバカだな!さっきから言わねえって言ってんだろうが!それに俺だって知らねえしな!」
「ぐふぐふ」
ヴィヴィが頷く仕草を見せるとカリスが突然笑い出した。
「ぐふ?」
「本当にバカだな棺桶持ちぃい」
「ぐふ?」
「俺がなんで貴様のバカ話に付き合ったと思う?回復と力を貯めるためだ!」
「ぐふ。そうか。私もわかる範囲での情報は得た」
「がはははっ!強がりを言うんじゃねえ!俺は何も話してないだろうが!!」
「……」
「じゃあ、そろそろ本気の本気で行くぜ……はっ!!」
気合いと共にカリスの体が一回り大きくなった。
「ぶっ殺してやるぞ棺桶持ちぃいい!!」
カリスがヴィヴィに突撃した。
「ぐへっ!?」
カリスがリムーバルバインダーにぶっ叩かれて地面をゴロゴロ転がる。
戦いはヴィヴィが優勢だった。
確かに段違いに強くなったカリスだが、攻撃方法は以前と変わらず力任せで単純だ。
それに一撃ごとに「さらぁ!」と奇声を上げサラを探すので隙だらけになる。
一撃をかわすかリムーバルバインダーで受ければ無条件でカリスに打撃を与えられるターンがやって来るのだ。
立ちあがろうとするカリスを見てヴィヴィが首を傾げる。
「ぐふ。しぶといな。いくら回復するとは言え無限ではないだろう。そろそろ限界が来てもいいようなものだが」
カリスをリムーバルバインダーでぶっ叩き、再起不能になる、いや、死んでもおかしくない攻撃を何度もしている。
首をへし折った事もある。
にも拘らずカリスは異常な回復力で立ち上がってくる。
だが、やっと限界が来たようでカリスの様子がおかしくなった。
いや、おかしいのは最初からだが、更におかしくなったのだ。
「さらぁ!!」
立ち上がったカリスの目は焦点が合っておらず、まるで何者かに操られているようにも見える。
しかし、そうだとしてもヴィヴィはカリスに同情する気は全くなかった。
彼が操られていようがなかろうが邪魔である事実は変わらない。
ヴィヴィは結果的に殺した、ではなく、自らの意志で殺す事を決意する。
今までそうしなかったのはカリスのためではもちろんなく、サラのためでも当然違う。
カリスの事をもう名前すら覚えていないリオであるが、万が一思い出し、そのことで悪い印象を持たれるのを避けるためだ。
しかし、カリスからこれ以上得られる情報もないし、時間を無駄にしたくなかったのだ。
「ぐふ。……もういい。死ね」
ヴィヴィが放った魔力を込めた短剣がカリスの頭に突き刺さり、次の瞬間、頭が吹き飛んだ。
その場を去ろうとしたヴィヴィの耳に言葉が聞こえた。
「……サ、サラ……オレ、ココ……」
その声はカリスの体から聞こえていた。
ヴィヴィが警戒しながらカリスを観察していると、その手が動いた。
その手のひらに口があり、それが言葉を発していたのだ。
「ぐふ。やはり頭は飾りだったか。納得だ」
カリスの体に変化が起き始める。
失った頭が再生したのだ。
頭の再生に自分の肉体を使用したのか気持ち体がスリムになった。
閉じていた目が開いた。
結膜まで真っ黒に染まった瞳がヴィヴィを見る。
そしてゆっくりと立ち上が……。
「ぐふ。大人しく死んでいろ」
ヴィヴィが魔力を込めた短剣を次々に放つ。
新しく生えた頭部、胴と次々に突き刺さり爆発した。
カリスの体が四散する。
その中から何かが飛び出し、ヴィヴィに迫る。
ヴィヴィは慌てる事なくその何かに向かって短剣を放つ。
それに命中し、爆発した。
「ぐふ。今のはザラの森で見たスクウェイト、とかいう寄生虫か?いや、あの再生能力はフェイスイーターか?……いや、だが、何かが違う……」
ヴィヴィは考えるのをやめた。
「……ぐふ。これでは賞金は貰えないか」
カリスがまだ冒険者であれば冒険者カードを回収して倒したことを証明することも可能であったが、彼はただのならず者に成り下がっていたので体が四散した今、証明するものがなかった。
「ぐふ。思ったより時間がかかったな」
ヴィヴィはリオの後を追った。
こうして、カリスはサラと再会する事なく、この世を去ったのだった。




