411話 クズ、散る(タイトル変更)
「ひ、怯むな!殺さなければこっちが殺されるぞ!行け!リッキーキラーを殺せ!!」
そう叫んだ盗賊役、いや、もうクズ冒険者でいいだろう、そのクズ冒険者自身はその場を動かない。
代わりにリオが動いた。
「ちょ、ちょ待て……」
向かって来たリオにクズ冒険者が慌てて剣を振り下そうとするが、リオの方が圧倒的に早く、その首を斬り飛ばす。
更に後ろから仕掛けて来たクズ冒険者の首も同様に斬り飛ばした。
「ちょ、ちょ待てよ!?」
「こ、こいつ、ほんとに強いじゃないかよ!」
仲間が次々と瞬殺されていくのを見てクズ冒険者達が恐怖でリオとの距離をとる。
気づけば一緒にやってきた自称盗賊討伐隊パーティの姿は生存者の中になく、半数が肉塊へ変わり果てていた。
「は、話が違うぞ!?」
「力が落ちてこれだと!?」
「い、いや、違う!やっぱ嘘だったんだ!!サラ達が力を与えているって話が嘘だったんだ!」
「あの嘘つき棺桶持ちめ!!って、奴はどこだ!?」
「いねえ!さっきまでいたのにいねえ!!」
「一人で逃げやがったな!!」
クズ冒険者達は自分達を騙した魔装士に罵詈雑言を吐くがもう遅い。
「そろそろ俺様の出番だな!」
元Bランク冒険者の狂ったバーサーカーが姿を現した。
彼は村の襲撃には参加しておらず、その装備は失った盾以外は決闘した時と同じものだった。
「そ、そうだ!俺達にはお前がいた!!」
「た、頼むぞ狂ったバーサーカー!」
「みんなの仇をとってくれ!」
狂ったバーサーカーが横柄に頷く。
「行くぞ!リッキーキラー!今回は最初から全開だ!くらえ!新必殺技!クレイジーバスター!改!!」
その叫びを聞きクズ冒険者達が慌て出す。
「な!?」
「ちょ、ちょ待てよ!!」
狂ったバーサーカーは仲間の制止を無視し、力一杯滅茶苦茶に剣を振り回しながらリオに向かっていく。
近くにいた仲間であるはずのクズ冒険者達が攻撃範囲に入っても振り回すのをやめず、容赦なく彼らを斬り刻む。
「ぎゃー!!」と辺りを悲鳴が鳴り響いた。
ちなみに新必殺技と言っていたが、前との違いは誰にもわからなかった。
そう本人にも。
「手ごたえ充分だぜ!」
狂ったバーサーカーは剣を振り回すのをやめると満足げな笑みを浮かべながらヘルメットを取った。
開けた視界の中に平然とした表情で立っているリオの姿を見つけて首を傾げる。
「おかしい。手応えは確かにあったのだが……!!」
そこで狂ったバーサーカーは辺りに散らばるクズ冒険者達の死体に気づく。
彼は自分がクズ冒険者達を殺した事に気づいた。
もちろん、彼が自身を責める事はない。
「なんと卑怯な!こいつらを肉盾にしたのか!俺様の盾を盗んだのといい、相変わらず汚い奴だな!リッキーキラー!!」
「「……」」
リオとヴィヴィは無言で狂ったバーサーカーを見ていた。
「もう一度行くぞ!」
狂ったバーサーカーは手にしたヘルメットを被、
らず放り投げて叫ぶ。
「クレイジー!……」
ドス。
リオの放った短剣が無防備に曝け出した狂ったバーサーカーの額に突き刺さった。
狂ったバーサーカーは一瞬、言葉が止まったものの必殺技を叫び続ける。
「……バスター!改!!」
狂ったバーサーカーが激しく剣を滅茶苦茶に振り回し始める。
しかし、すぐにその勢いが弱まり、自分の足に躓いてバタンと倒れると二度と起き上がる事はなかった。
「ぐふ。バカだな」
ヴィヴィが吐き捨てるように言い、リオが無表情のまま頷いた。
リオとクズ冒険者達との戦いの様子を遠く離れた場所の木の上から眺めている者がいた。
その木の下には彼のパーティが控えていた。
彼らは冒険者であったが、陰ではギルドの規則を平気で破り悪さをするクズ冒険者であった。
だが、その実力は確かで皆がBランク冒険者であった。
彼らはリサヴィ被害者の会?には参加しておらず、今回の企みをあの吟遊詩人から別の場所で聞いて嬉々として参加したのだった。
彼らが受けた依頼もリオ暗殺でリサヴィ被害者の会が失敗した時に備えてであったが、実際にはこちらが本命であった。
「おいおい……」
「やったか?」
「逆だ。全滅しちまったぞ」
「なんだと!?」
リーダーはリオを襲うクズ冒険者達の数を知っていたので慌てる。
それを実質的なリーダーである盗賊が落ち着かせる。
「落ち着けって。そのために俺らがいるんじゃねえかよ。てか喜べよ!俺らの出番が来たんだぜ!あのサラがついに俺らのパーティに入るってことだぜ!まあ、流石にサラが入った後は今までのような悪さは出来なくなるだろうけどよ……くくくっ」
木の上で待ち伏せていた盗賊が、不敵な笑みを浮かべながら矢を構える。
「テメエの剣術がすげえ事はわかったよリッキーキラー。強いって噂は本当だったってわけだ。だがな、遠距離からの攻撃ならどうよ。俺様の弓からは逃げきれねえぜ!」
盗賊は弓の腕に絶対の自信を持っており、上から目線で呟く。
盗賊が弓を構えたまま、木の下にいるリーダーに声をかける。
「殺るぞリーダー」
「おうっ殺れ!」
「バイバイ、リッキーキラー!」
盗賊はリオが背を向けた瞬間を狙って矢を放つ。
盗賊の手から放たれた矢が真っ直ぐリオに向かう。
盗賊は弓の腕前を自慢するだけあり、狙い違わずリオの頭に命中した。
かに見えた瞬間、
リオが振り向きもせずに矢を斬り落とした。
「はぁ!?」
盗賊は今起きた事が信じられず、思わず声を上げる。
「どうしたっ!?」
盗賊はリオを目で追いながらリーダーに叫ぶ。
「あの野郎、短剣で落としやがった!」
「何!?気づかれてたのか!?」
「いや、そんな素振りはなかった。背後から狙ったのに振り向きもせずに落としやがった。……お、こっちを探してやがる」
リーダーは盗賊が矢を外したのではなく、リオに落とされた事を問題にした。
「おいっ、引くぞ!」
リーダーが撤退を指示するが、盗賊は無視して第二射の準備を始める。
「待て待て、次は決めてやる……なに?」
「どうしたっ!?」
「リッキーキラーの奴、一丁前に弓構えてやがるぜ」
「なに!?こっちの場所を気づかれたのかっ!?」
「ああ。そうみたいだな。だがここまでは届かねえよ」
盗賊は余裕で答えるが、リーダーはそれほど呑気ではいられなかった。
「おいっ、降りろ!これ以上ここに留まるのは危険だ!」
「心配性だなリーダーは……。はっ、お前の矢なんか当たるか……」
それが盗賊の最期の言葉となった。
ドーンっ、という音と共にパーティの頭上へ何かが降り注ぐ。
赤い何か。
どんっ、と地上に落下した盗賊の下半身を見て、それが盗賊の上半身だったものだと気づく。
「ひっ!!」
リーダーをはじめパーティみんなが恐怖に顔が歪む。
盗賊の最期の言葉からリオが矢を放った事はわかる。
だが、ただの矢が上半身を吹き飛ばすなどありえない。
説明がつかない。
魔術士がはっ、として叫ぶ。
「棺桶持ちだ!」
「!!そうか!奴の魔法の武器か!」
パーティ一の実力者の盗賊が瞬殺されたのを見て、リーダーはすぐさまリオ暗殺を断念して逃走を図ることを決意する。
気配を探れる盗賊が死んだ今、彼らはリオ達が追って来ているのかわからない。
彼らは逃げる間、不安に駆られ何度も後ろを振り返った。
その姿にBランク冒険者の貫禄は全くなかった。




