410話 待ち伏せ
サラは駄々を捏ねるリーダーに疲れた表情で言った。
「そもそもパーティを分けるなど愚行としか言えません」
「愚行だと!?」
「ええ。“マルコ所属だった”あなた達なら無能のギルマスの愚行を知っているでしょう?」
「お、俺達を奴と一緒にすんな!」
サラは彼らの事を知らない、少なくとも記憶にないので元マルコ所属と当てずっぽうで言ったのだが、彼らの動揺する様子からどうやら当たったようだった。
サラは首を横に振ってから続ける。
「警備の薄くなった隙をついて盗賊が再び襲って来るかもしれません。その時、パーティ連携が重要になります」
「大丈夫だ!もう襲って来ねえぜ!俺が保証する!」
「……は?」
「な!」
サラが怪訝な顔を向けるとそう言った冒険者はキメ顔を返して来た。
「……ぐふ。なるほどな。お前達は盗賊の仲間ということか」
「「「「「「な……」」」」」」
ヴィヴィの言葉に二組のパーティが一瞬固まる。
彼ら冒険者達と村人達との温度差があり過ぎた。
村人達がまだ恐怖で怯えているのに対して彼らは余裕の態度で緊張感が足りない。
彼らが盗賊を撃退したとのことだが、サラの見た感じでは彼らの腕はCランクの中から下程度だ。
だが、村人の傷跡を見ると盗賊の中に彼らより腕の立つ者がいるようだった。
人数、そして実力。
どちらも勝る盗賊が彼ら相手に逃げていった理由がわからない。
それに彼らは盗賊の事を警戒しているような口振りだが、それにしては周囲の警戒もせず全員がここに集まってサラとアリスを自分達のパーティに勧誘することに必死になっている。
言ってる事とやってる事がチグハグだ。
そして極め付けは今の発言だ。
(彼らは盗賊が襲って来ないのことを知っている)
サラ、いや、リサヴィは彼らが盗賊とグルであることを確信するのだった。
二組のパーティは我に返ると目に見えて慌て出す。
「ざざざざざ、ざけんなっー!!」
「おおおおお、俺らがそんな悪党に見えるかっ!?」
彼らはそう言った後、信用させるつもりなのかサラとアリスにキメ顔をしたが、その顔は強張っていた。
効果はあったが、それは本来の期待した効果ではなく、彼らが盗賊の仲間であることを決定づける効果だった。
彼らは躍起になってヴィヴィの言葉を訂正させようとする。
「棺桶持ち!何の証拠があって言ってやがる!?」
「ぐふ?そういう確約をとっているから襲ってこないという自信があるのだろう?」
ヴィヴィの言葉に村人達の中にも彼らへの不信が芽生える。
どうやら何か心当たりがあるようだった。
「確かに盗賊と対峙していたとき、なんか演技ぽかったよな」
そんな声が村人から聞こえた。
焦り出す冒険者達。
「ざけんな!俺らは長年の経験から言ってんだ!」
「「おう!」」
「ぐふ。お前らクズの経験や保証など銅貨一枚の価値もない」
「誰がクズだ!?誰が!?」
「ぐふ。ともかくだ。リオが行くなら私も行く。嫌ならお前らだけで行け」
「「「「「「ざけんなっー!!」」」」」」
二組のパーティは見事にハモって見せたものの、それを称賛する者はおらず、実際なんの価値もない。
その後も一般人には到底理解不能な屁理屈をつけてリオだけ連れ出そうとしたが、当然うまくいくはずもなく、彼らの行動の不自然さが際立つだけだった。
流石にこのまま続けるのはマズイと気づいたようで彼らはヴィヴィの同行を渋々ながら認めたのだった。
リオとヴィヴィの前を自称盗賊討伐隊パーティが進む。
村からしばらく離れたところで彼らは突然立ち止まった。
それが合図だったかのように木の影から口元に布を巻いて顔を隠した盗賊がゾロゾロと姿を現した。
「こいつらが村を襲った盗賊達だぜ」
自称盗賊討伐隊パーティのリーダーがどこか余裕のある口ぶりで言った。
「そうなんだ」
「よしっ、俺達が後方を担当してやる。リッキーキラー!それに棺桶持ち!お前らの力を見せてもらうぞ!」
リーダーは薄笑いを浮かべながらそう言うとリオ達の返事を待たずに彼のパーティとともに後方へ下がった。
もうお分かりであろうが、彼らはリサヴィ被害者の会に参加したクズ冒険者達であった。
盗賊役と冒険者役に分かれてリオを暗殺する芝居をうっていたのだ。
そのためになんの罪もない村を巻き込んだのだった。
盗賊役と対峙する事になったリオとヴィヴィ。
後ろを自称盗賊討伐隊のパーティに塞がれて逃げ道はない、ように見える。
盗賊役の頭が一歩前に出ると偉そうに言った。
「今日がお前の、いや、お前達の命日だ!」
「そうなんだ」
「ぐふぐふ」
リオの平然とした顔とヴィヴィの何処かバカにした口調が盗賊役の頭の癇に障った。
「余裕ぶってるようだがな!お前の力がインチキだってのはバレているんだぞ!」
「……」
盗賊役の頭に睨まれ、リオが首を傾げる。
盗賊役の頭は勝利を確信しての余裕からか説明を始める。
「こんだけサラ達から引き離せばサラ達の力を借りられないだろう!」
「もうお前は自分の力だけで戦うしかないぞ!」
「……」
「今のお前なんか俺達の敵じゃねえぜ!!」
「そうなんだ」
「棺桶持ちも素直に村に残っていれば長生き出来たのにな!」
「ぐふぐふ」
「リッキーキラー、それに棺桶持ち。降参するなら楽に殺してやる。だが、逆らうなら地獄を味合わせてから殺してやるぞ」
「そうなんだ」
「ぐふぐふ」
「返事はどうした!?」
「じゃあさっさと終わらせよう」
「そうか抵抗するか。じゃあ、苦しみ抜いて……」
その盗賊役の頭はそれ以上言葉を続けることができなかった。
リオが放った短剣が頭に刺さり、死んだからだ。
「て、てめえ!!」
それが戦いの合図となった。
リオとヴィヴィが迫る盗賊を淡々と仕留めていく。
それに慌てたのは盗賊役だけではなかった。
後方を担当すると言いつつ、実際にはリオ達の逃げ道を塞いでいた自称盗賊討伐隊パーティがこのままではまずいと本性を現す。
自称盗賊討伐隊パーティの盗賊が背後からリオに襲いかかった。
完全な不意打ちに見えたが、その者の短剣をリオは振り向き様に受け止める。
「なっ!?」
味方だと思っていた者からの背後からの一撃、それもスキル、インシャドウによる奇襲が失敗するとは夢にも思わなかったその盗賊は動揺する。
リオと一対一で対峙する事になった盗賊は、引き攣った笑顔をしながらも短剣に力を入れるが、びくともしなかった。
盗賊は不利と悟り、リオが自分より頭が弱い事を何故か信じて疑っておらず丸め込もうとする。
「は、ははは、じょ、冗談だ冗談だぜ!相手を間違えたんだ。なっ?リッキーキラー」
「……冗談?」
「そ、そうだ冗談!わかんだろ?」
「そうなんだ」
リオはいつの間か左手に持った短剣で盗賊の喉を切り裂いた。
「じゃ、これも冗談」
盗賊は喉を両手で抑えながら転がり動かなくなる。
「お、お前なんて事を……!」
「殺しやがったな!」
自分達もリオを殺そうとした事を棚に上げて非難の声を上げる。
自称盗賊討伐隊パーティのリーダーはメンバーの仇を討つことよりもこの件を利用する事をすぐさま思いつく。
「おい、リッキーキラー!お前はなんの罪もない俺の仲間を殺したんだぞ!この事をギルドが知ったらどうなるのかわかってんのか!?」
自分達から仕掛けておいて不利と見ると自分達側が被害者かのように振る舞う。
冒険者の神経が図太いのは有名であるがこのリーダーは中でも抜きん出ているようだった。
だが、リオに脅しが通じるはずもなく、不用意にリオに近づいたリーダーの首が宙を舞う。
「あれっ?」
そのリーダーは剣をリオに向け、油断などしていないはずだった。
だが、結果は抵抗する暇すらなく瞬殺された。
「さあ、冗談の続きをしようか」
「「ひっ」」
リオの放った殺気に怖気付き逃げ出そうとした盗賊役の一人がリムーバルバインダーに叩かれ、背後の木思いっきりぶつかりそのまま動かなくなる。
「ぐふ。私達を殺そうとした報いだ。全員生きて帰れると思うな」
彼らにはヴィヴィの強さも計算外だった。
この作戦を立てた魔装士は「必ずリオ一人だけを連れ出せ」と誘き出し役、つまり村にいた冒険者達に何度も念を押していたが、誘き出し役の彼らはヴィヴィの事を棺桶持ちと見下しており、最終的に同行することになっても脅威になるとは思っていなかったのだ。




