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41話 ヴェインへ

 翌日、ベルフィは二人にパーティへ加えることを伝えた。

 ただし、正式なウィンドへの加入は実力を見た後で、との条件付きでだ。

 カリスはサラを即、ウィンドへの加入させるものと思っていたので不満げな顔をする。

 ベルフィの言葉を聞いて当のサラは文句を言う事はなく、感謝の言葉を述べた。

 ヴィヴィは「ぐふ」とつぶやき微かに頭を下げただけだった。



「あ、サラちゃん、確認したいことがあるんだけど」

「何でしょうか?」


 サラは“ちゃん”付けに抵抗を感じつつもナックの質問に応じる。


「サラちゃんはあの“鉄拳制裁のサラ”のサラちゃんなのかな?」

「違います」


 サラは即答した。

 リオが珍しくサラに助け舟を出す。


「ナック、“鉄拳制裁のサラ”は二メートルを超える超マッチョな女神官なんだよ」


 サラの頬がピクリと反応した。


「そうなのか?俺の聞いた話と違うぞ」

「間違いないよ。僕は神殿で聞いたんだ」

「聞いただけか?リオはそのマッチョなサラと会ったことはないんだな?」

「うん。でも興味あるから次ムルトに行った時には探してみるつもりなんだ」

「……」


 サラはリオが余計な事を言わないかと内心ハラハラしていたが、リオの話を笑って聞いていたナックの表情が一瞬変わったことに気づいた。


「どうかしたのですか?」

「え?あ、いやね、ちょっと驚いてさ」

「驚いた?何にですか?」

「リオから『興味ある』なんて言葉初めて聞いた気がするんだ」

「そうなんですか?」

「少しずつだけど感情を取り戻しつつあるのかもな。神官の力か?」

「私は何もしていません」

「そうか。ま、ともかくいい事だぜ」

「……そうですね」


 サラはナックが悪い人間ではない事は理解した。

 とはいえ、今までリオにロクでもないことを教え込んだ事を許す気はない。

 それについては機会をみてじっくり話し合うつもりであった。

 なんなら拳で語り合ってもいいとさえ思っていた。そうなった場合は、サラが一方的に”語る“事になるだろうが。



「サラ、ちょっといいか」


 サラとナックの会話にカリスが割って入ってきた。


「なんでしょう?」

「早速で悪いんだが、パーティ連携について相談したいんだが」

「わかりました」

「じゃあ、こっちで話そう」

「はい」


 サラはカリスの後について行く。


「ふん、パーティ連携ならここで話せばいいじゃないっ」

「まあまあ」


 ナックはローズを宥めてヴィヴィに話しかける。


「魔裝士もよろしくな」


 ヴィヴィは首を小さく横に向けた。そっぽを向いたとも言う。


「……あれ?」

「あんた、仲間にしてやったんだ。顔くらい見せなっ」


 ヴィヴィはローズを見た。そして微かに首を横に向けた。そっぽを向いたとも言う。


「……あんた、あたいを馬鹿にする気かい!?」


 ローズの手が腰のダガーにのびる。


「やめろローズ」

「でもさっ」

「そんなに顔を見せたくないのか?」

「ぐふ」

「リオ」

「なに?ベルフィ」

「お前はヴィヴィの顔を見たことがあるか?」

「うん。歳はサラと同じくらいかな。美人らしいよ」


 最後の言葉にナックが大きく反応した。


「なに!?ヴィヴィは女なのか!?しかも美人だと!?」


 詰め寄るナックにリオはちょっと後退しながら頷いて肯定する。


「お前、美しさがわかるようになったのか?」

「わからないよ。ヴィヴィがサラと同じくらいって言ってたんだ」

「……なんだ、本人の言葉かよ」

「サラもヴィヴィの顔を見てるけど、ヴィヴィの言葉を否定しなかったよ」

「マジかっ!」


 ナックがヴィヴィに顔を向ける。


「ヴィヴィ!リオの言った事は本当かっ!?美女なのか!?」


 ヴィヴィは無言だった。

 ナックが再びリオに詰め寄る。


「おい!リオ!本当に美女なんだな!?ここ大事だぞ!美女なんだな!俺に気があるんだな!?」

「う、うん?最後のはよくわからないけど、ねえサラ」

「どうしました?」


 カリスと話をしていたサラがやってきた。

 カリスは話の邪魔をされてとても不機嫌そうだったが空気の読めないリオは全く気づいていなかった。

 サラはと言えばカリスの連携の話は最初だけで、その後ずっと自慢話を聞かされてウンザリしていたのでリオに呼ばれて内心感謝していた。


「ヴィヴィってサラと同じくらい美人なんだよね?」

「……そんな事聞くために呼んだのですか?」

「ごめんねサラちゃん!でもこれは俺とリオにとってとても重要なことなんだ!」

「え?僕に関係あることだったの?」

「当たり前だろ!」

「そうなん……」

「リオ、気にしなくていいです」

「いやいや……」

「ナック、そんなに気になるならヴィヴィに直接顔を見せてもらったらどうですか?」

「見せてくれないんだよ!」

「見せてくれるまでお願いすればいいじゃないですか」


 サラは優しい笑顔でナックに言ったが、その目は笑っていなかった。


「よ、よしっ、そうするぜ!ヴィヴィっ!」



 二人が忍耐勝負をしている間にべルフィがサラに尋ねる。


「サラ、ヴィヴィのこと問題ないんだな?」


 ベルフィの問いは「教団に指名手配されている奴ではないんだな?」という意味であり、サラはその意図を正確に読み取っていた。


「……わかりません。少なくとも私は見覚えのない顔でした」

「わかった」


 ヴィヴィが困っているように見えたのでまたもリオにしては珍しく助け舟を出した。


「ナック、ヴィヴィは人見知りなんだよ。だから目立たないように仮面をしてるんだ」

「ぐふ」


 同意したように微かに頷く。


「どこが」


 ぼそりサラがつぶやくのが聞こえた。


「今でも別の意味で目立ってるぞ。だから諦めて顔を見せてくれよ!」


 しかし、ヴィヴィが仮面をとることはなかった。

 


 これからの事をサラがベルフィに尋ねるとパーティが拠点にしているヴェインの街に戻るとの事だった。

 ヴィエンは都市国家連合に属する都市国家の一つで別名、冒険者の街と呼ばれている。


「ヴェインは冒険者ギルドの本部がある街でしたね」

「ああ、俺達のホームだ。パーティで家も持ってるんだぜ」

「借家ではなく購入されたのですか?」

「そうだよ!凄いでしょサラちゃん!」


 ナックが自慢げに言う。


「はい、流石Bランクのパーティですね」


 家を持たない宿なし冒険者も多いが、ランクが上がるにつれ所持品も多くなり、とても持ち歩いていける量ではなくなる。

 そのため、メインに行動する街を定めることなる。

 ヴェインの街にはサラの言った通り冒険者ギルドの本部があり、色々な情報が各地からもたらされるため、ヴェインを拠点にしたがる冒険者は多い。

 他の街と比べ借家でも値段が高いのでヴェインに家を持つというのは冒険者にとっての憧れでヴェインに家を持てれば一流といわれている。

 家の話を聞いたサラは一つの疑問が浮かんだ。

 

「リオ」

「ん?」

「今回、運良くベルフィ達と合流出来ましたけど、できなかったらヴェインの家で待つという選択肢もあったのではないですか?」

「それはないねっ!こいつの部屋なんかないし、マジックキーに登録もしてないから家に入れないよ!」


 ローズがリオを見下した表情で言う。

 マジックキーとは冒険者ギルドで購入する事ができる魔道具の鍵で、この魔道具に予め登録者の声と解錠キーを登録して玄関のドアに取り付けて使用する。この魔道具にリオは登録されていないのだ。

 

「そうなんだ」

「いや、リオ、そこは『そうなんだ』じゃないだろう」


 すかさずナックが突っ込む。

 サラは少し躊躇した後、ベルフィにリオをパーティに入れようとした理由を尋ねる事にした。


「ベルフィ、お聞きしたい事があります」

「なんだ?」

「何故冒険者ですらなかったリオをパーティに入れようと思ったのですか?」

「リオも金色のガルザヘッサが仇だからだ。聞いてたんじゃないのか?」

「はい、旅の途中で聞きました」

「ぐふ。寝物語で、だったな」

「何!?」


 カリスが真っ先に反応し、リオを睨みつけるが当のリオはまったく気づいていない。

 サラがヴィヴィの言葉を即座に否定する。

 

「違います!」

「ふんっ、あたいは今でもこいつを入れるのは反対だよ!絶対足を引っ張るよっ!」

「使いものにならなければ見捨てる。そういう条件だ」


 ベルフィは迷いなく言った。


「ベルフィ、それで理由はそれだけですか?」

「ああ。他に何かあると思ったのか?」

「いえ、ありがとうございます」


 ベルフィはサラがどういう意図で質問したのか読み取れなかったが、自分の邪魔さえしないならいい、と深く追求しなかった。


「俺からも聞いていいか?」

「何でしょう?」

「なんでリオのいう事を信じた?」

「嘘を言ってるように見えませんでしたし、一級神官のファン様もリオからウィンドの話を聞いていたことも理由の一つです」


 ファンの名が出てウィンドみんなが反応した。


「ファンってあのファンか?」

「かつてウィンドの方々と一緒に魔物討伐をされた事があると伺っています」

「間違いないねっ」

「サラちゃん、なんでそれをもっと早く言わないんだよ?」

「すみません。そう言えばファン様もリオに勧誘されたそうですが、流石に旅に出る余裕はありませんでしたので断ったとの事でした」

「いやいや、そりゃ当然だろっ、てかリオ、お前、ほんと怖いもの知らずだな。神殿でどんな勧誘してたのかちょっと怖くなって来たぜ。おかしな事してないだろうな?」

「おかしな事って?」

「いや、いい。今のは俺が悪かった。お前に聞いてもそう返ってくると考えればすぐわかる事だった」

「そうなんだ」


 人の事のように答えるリオにローズは我慢できず思わずその頭を叩く。

 当然ながら誰もローズの行動を非難しない。

 サラはローズの行動に内心腹が立った。

 リオを殴った事に、ではなく、ローズに遅れをとったことにである。

 


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