409話 襲撃された村
街道を進むリサヴィは脇道からこちらへ走ってくる集団に気づいた。
見た目から冒険者と推測できる。
実際、彼らは冒険者でリサヴィの事を知っているようだった。
「サラ!それにアリエッタ!丁度いいところに来たぜ!」
「はい?」
サラ達は彼らに見覚えはなかったが、彼らは馴れ馴れしく話しかけてくる。
「実はな、この先の村が盗賊に襲われてな!」
「幸い、盗賊は俺達が追い払ったんだが、怪我人が大勢いるんだ!手を貸してくれ!」
サラ達は彼らの行動に違和感を覚えた。
彼らの表情に全く焦りは見えず、それどころか満面に笑みを浮かべる者やキメ顔をする者までいた。(もちろん効果はない)
だが、彼らの言うように本当に村が襲われて怪我人がいるのだとしたら放っては置けない。
「リオ、行きましょう」
「わかった」
村の入り口で腕を組み仁王立ちした冒険者達がサラ達を出迎えた。
「よく来てくれたなサラ!それにアリエッタ!」
「「「……」」」
サラ達が来る事をまるでわかっていたかのような彼らの態度にサラ達の違和感が不信感に変わる。
もちろん、表情に出す事はない。
サラ達は彼らにも見覚えはないが、先ほどの冒険者達と同様馴れ馴れしかった。
「疲れただろ。まぁちょっと休め」
サラとアリスはそのパーティのリーダーの口から飛び出した想定外の言葉に一瞬、呆気に取られる。
「必要ありません」
「ですねっ」
「そうか。じゃあ俺達のパーティを紹介するぜ」
「は?」
「えっ?」
盗賊に襲撃されたばかりとは思えない緊張感のなさにサラ達は村が襲われたというのは嘘なのではと思っていると案内して来たパーティが会話に割り込んできた。
「待て待て!俺達だってまだちゃんと紹介してないんだぞ!」
「おうっ。紹介するなら俺達が先だ!」
「だな!」
「そんなの知るか!」
「なんだと!?」
サラはこのバカなやり取りを聞くつもりは全くない。
「そんなどうでもいい事より怪我人はどこですか?」
「どうでもいいとはなんだ!?」
「これから同じパーティになるんだぞ!」
「ざけんな!それは俺らのパーティだ!」
「なんだと!?」
二組のパーティが再び言い争いを始める。
(ああ、やっぱりダメな人達ね。しかも村を巻き込んでとなると今までよりタチが悪そう)
「もういいです。こちらで勝手に探します」
サラのイラいている姿を見て彼らは我に返り慌てる。
「わ、悪かったな!こっちだ!」
「おうっ、俺らについて来い!」
その冒険者達はゆっくりと堂々とした態度で歩き出した。
サラとアリスに少しでもかっこいいところを見せようと必死なのが丸わかりである。
本当に怪我人はいるのかとサラ達が怪しんでいると慌てた様子の村人が走ってやって来た。
彼女はアリスの神官服を見て助けを求める。
「助けて下さい神官様!私の夫が大怪我を負って死にそうなんです!」
「案内してくださいっ!」
「はいっ!」
サラとアリスは堂々と前を歩く二組のパーティを追い越してその女性と共に走り去って行く。
「「「「「「ちょ、ちょ待てよ!!」」」」」」
追い抜かれた冒険者達が慌ててサラ達の後を追って行った。
その場にぽつん、と残されたリオとヴィヴィ。
ヴィヴィは丁度いいとばかりにリオに話しかける。
「ぐふ。気づいていると思うが奴らは怪しい。何かを企んでいる」
リオは無言でヴィヴィを見た。
その表情は相変わらずの無表情で何を考えているのかさっぱりわからない。
ヴィヴィは構わず続ける。
「ぐふ。盗賊がこの村を襲撃したのは本当のようだが、恐らく奴らは盗賊とグルだ」
リオが無表情のまま呟いた。
「狙いはサラとアンディかな」
「ぐふ」
ヴィヴィの仮面が微かに動いた。
「ぐふ。ただ、ちょっと手が込んでいるから別の目的があるのかもしれん。ともかく、奴らはバカだが油断するな」
リオは小さく頷いた。
その表情は最後まで無表情だった。
怪我人は一箇所に集められており、サラとアリスが手分けして治療魔法をかけていく。
そんな二人に冒険者達が近づき先程盗賊を追い払った時の自慢話を始める。
「俺達の腕を持ってすればアイツらを倒すことも可能だったんだがよ、村人を守るのを優先したからな」
そう言ったリーダーとそのパーティの顔は誇らしげだった。
サラ達は彼らの戯言を無視して治療に専念する。
「どうだ、俺達のパーティに入りたくなったんじゃないのか?よしっ、サラ!それにアリエッタ!お前た……」
「おい待て!何抜け駆けしてんだ!?」
二組のパーティが睨み合い、言い争いを始める。
サラは迷惑な表情を隠す事なく言った。
「邪魔です」
「ですねっ」
「「「「「「なっ……」」」」」」
リオとヴィヴィがやって来るのに気づいた二組のパーティはサラとアリスから離れて隅っこに移動すると何事かボソボソ相談し始めた。
その様子を観察しているサラに気づかず、彼らのリーダー同士がじゃんけんを始める。
そして負けたほうのリーダーとそのパーティがふてくされた顔でリオの前にやってきた。
「おい、リッキーキラー。まだ近くに盗賊が潜んでいるかもしれん。俺達で周囲を見回りに行くぞ」
それに答えたのはサラだ。
「その可能性はありますね」
「だろ?」
そう言ってリーダーがサラにキメ顔をするがサラはスルーして続ける。
「では村の事は“私達”に任せてあなた方“二組”で調査に行ってください」
「それはダメだ!」
サラの提案を拒否するリーダー。
「何故ですか?」
「盗賊討伐隊のリーダーである俺が決めた事だからだ!」
リーダーはなんか誇らしげな顔で言ったが、サラは、いや、リサヴィは理解できない。
彼が盗賊討伐隊とやらのリーダーかもしれないが、リサヴィはそのメンバーではない。
「はあ?」
サラのバカにした口調の言葉にヴィヴィも続く。
「ぐふ。勝手にお前達だけで討伐隊ごっこやってろ」
「ざけんな!」
リーダーはヴィヴィを怒鳴りつけるとリオを連れていく明確な理由を述べる事なく強引に事を運ぼうとする。
「リッキーキラー!とにかく行くぞ!」
リーダーが手を伸ばし、リオの腕を掴もうとしたが、リオは寸前でスッと避けた。
「テメェ!」
「ん?」
「『ん?』じゃねえ!周囲を見回るからついて来いって言ってんだよ!」
「そうなんだ」
「あなたもしつこいですね。私達は……」
「いいよ」
リオはあっさりとそのリーダーの提案を受け入れた。
サラはリオが考えなしにOKしたのに慌てる。
「ちょっとリオ!?」
「ぐふ。落ち着け。私もついて行く。お前達はここで怪我人に付き添ってろ」
治療は既に終わりすることはないのだが、この冒険者達だけを村に残すのは不安であった。
ヴィヴィの同行をリーダーが反対する。
「いや、棺桶持ち、お前はいらん。これは討伐隊のリーダーである俺の命令だ」
そう言った後、リーダーはサラにキメ顔をするがサラはリーダーを見ていなかったので効果はなかった。
いや、見ていても効果はなかっただろう。
「ぐふ。さっきも言ったが討伐隊ごっこはお前らだけでやってろ」
「ざけんな!」
「そうですね」
リーダーはサラのその言葉を自分達に向けた言葉だと思い勝ち誇った顔をする。
「だろ?」
しかし、当然ながらそれは彼らに向けたものではなかった。
「ではヴィヴィ、お願いします」
「ぐふぐふ」
リーダーをはじめ盗賊討伐隊パーティが顔を真っ赤にして猛反対する。
「ざ、ざけんな!リーダーの俺がダメだって言ってんだろうが!」
「リーダーの言うことは絶対だ!」
サラは頭痛がして頭を押さえながら言った。
「ではやはり討伐隊とやらで行ってください。私達はそのメンバーではありませんので」
「ダ、ダメだダメだ!!」
駄々を捏ねるリーダーにサラ達は呆れた。




