408話 リサヴィ被害者の会
吟遊詩人は今進行中の計画にカリスを誘う。
「私はこれからまた出かけますが、あなたもついて来ますか?」
「どこへだ?」
「リサヴィに恨みを持つ者達が集まっているとの情報を耳にしましてね。ちょっとそこへ行ってみようと思っているのです」
「ほう、面白い。俺も連れていけ」
「はい」
カリスは吟遊詩人に連れられ、ある屋敷やって来た。
そこには多数の冒険者が集まっていた。
「これはまたクズをいっぱい集めたな」
カリスの言うことは正しかった。
そこに集まっていたのはカリスを含めクズばかりであった。
カリスは自分のことは棚の上に放り投げて笑いながら吟遊詩人に顔を向ける。
しかし、吟遊詩人はいつの間にか姿を消していた。
「……ふん、まあいいぜ」
そこに集まっていたクズ冒険者達は全員直接、あるいは間接的に少なからずリサヴィと関わって酷い目にあった者達であった。
リサヴィ被害者の会といったところか。
全ては自業自得なのだが、その事実を認めることが出来るものはここに集まっていなかった。
全員が、
「俺(達)は悪くない!リサヴィ(サラ)が悪い!」
と考えるクズ達であった。
「サラの野郎ぜってい許せねえ!」
誰かがそう言うと何人ものクズ冒険者達が頷き悪口を言い始める。
悪口のほとんどはショタコン、であった。
そこへカリスが反論する。
「ざけんな!サラは悪くねえ!悪いのリッキーキラーだ!」
カリスがそう叫ぶと、「その通りだ」とカリスに同意する声が聞こえた。
その声の主はフェラン製の魔装着を来た魔装士だった。
彼は吟遊詩人と同じくメイデス神の使徒で彼らクズ冒険者達をリオ暗殺へ扇動するサクラであった。
「悪いのは勇者ぶっているリッキーキラーだ!あいつがいなくなればサラは自分の間違いに気づくに違いない!そう、リッキーキラーがいなくならないとサラは自分の趣味を優先して己の過ちに気づかないのだ!」
「確かにな!」「その通りだ!」という声があちこちから上がり、クズ冒険者達はリオの悪口を吐き始める。
魔装士は仮面の下で笑みを浮かべながらも真剣な声で訴える。
「だから俺達でサラの過ちを気づかせてやろうぜ!奴を、リッキーキラーを殺すんだ!だが、勘違いするなよ!これは個人的な恨みからじゃない!サラのためだ!そしてやがて訪れるであろう魔族との戦いでサラに正しい勇者を選んでもらうため、世界を救うための正しい行為なんだ!」
「そうだ!」「その通りだ!」という声があちこちから上がる。
そこでカリスが一際大きな声で叫ぶ。
「サラのためにリッキーキラーをぶち殺すぞ!!」
カリスの掛け声に皆が「おうっ!」と奇声を上げた。
カリスをはじめ、誰もが自分には勇者の素質があると思い込んだ、勇者願望症を患った者達であった。
魔装士が思い通りに事が運んでいると仮面の下で微笑んでいると一人のクズ冒険者が不安を口にした。
「でもよ、あいつ、リッキーキラーは強いぞ。“冷笑する狂気”って呼んで恐れている奴もいるくらいだからな」
彼の言葉でその場の盛り上がりが一気に収まっていく。
そこへ二人の大男が怒鳴り声を上げた。
「「ざけんな!!」」
声を出した二人は互いの顔を見た。
一方は言うまでもなくカリスである。
そしてもう一方はリオとの決闘に敗れた元Bランク冒険者、現在降格してCランクとなった狂ったバーサーカーであった。
「お前、狂ったバーサーカーか」
「うむ。お前はカリス、だったな」
「おう」
しばし互いに見つめ合った後、カリスが不満顔で言った。
「俺はこんなクズと一緒なんてゴメンだ」
「俺様もだ。俺様がこんなクズと仲間だと思われては困る!」
狂ったバーサーカーもすかさず文句を言い、悪口の応酬が始まる。
「ざけんな!お前は降格されたクズだろうが!」
「ざけんな!お前は降格された上にギルドを追放されたクズだろうが!」
「ざけんな!それは卑怯者のリッキーキラーの策略だ!」
「ざけんな!俺様もリッキーキラーのせいだ!」
「「……」」
カリスと狂ったバーサーカーは同時にニヤリと笑ったか思うと互いに手を差し出して固い握手を交わす。
リッキーキラーことリオに人生を狂わされた者同士、分かり合えたようだ。
彼らが客観的に物事を見る事が出来れば完全に言いがかりで自業自得だとわかるはずだが、それは考えるだけ無駄であった。
バカ二人は分かり合えたが、他のクズ冒険者達はこの場に問題児が二人もいると知り、不安を隠せない。
狂ったバーサーカーはその二つ名が示す通り無茶苦茶な戦い方をする。
味方に攻撃が当たろうが構わない。
そしてカリスに至っては冒険者ギルドを追放されているし、リサヴィの棺桶持ちにボコられて戦う力も失ったとの噂が流れていた。
ここで勇気ある、いや、無謀なクズ冒険者がカリスの噂を信じて挑発する。
クズ冒険者は見下せる者がいると見下さないと気が済まないのだ。
「おい、ちょっと待てよほら吹きカリス」
「なんだと?」
「お前さっきから偉そうな事言ってるけどよ、冒険者ギルドをクビになり、しかもまともに戦えねえんだろ?ここにお前の居場所はねえぜ!さっさと出ていけクズ野郎!」
「……お前、死にたいらしいな」
カリスを挑発するクズ冒険者に別のクズ冒険者が慌てて注意する。
「お、おいよせ!カリスは冒険者を殺したって事でギルドの賞金首になってんだぞ!」
その話を聞いて挑発していたクズ冒険者が笑う。
「はあ?賞金首だあ?丁度いいじゃねえか。こいつをギルドに連行して賞金貰おうぜ」
「お前、賞金首なのか?」
狂ったバーサーカーの問いにカリスは何故か偉そうに頷く。
「そうらしいな。だがそれもリッキーキラーにハメられたんだ」
「なるほどな。ではお前は悪くない」
「ははは!お前やっぱ話のわかる奴だな!」
バカ二人は意気投合して「ガハハ」と笑い出す。
挑発していたクズ冒険者は無視されたと思い怒り出す。
「おいコラっ無視すんな!話してんのは俺だぞ!」
「お前、さっきからうるせえぞ」
「はあ?イキがんなよ!ほら吹きカリ……す?」
話している途中でクズ冒険者の首が宙を舞った。
カリスが目にも止まらぬ速さで大剣を抜き斬り飛ばしたのだ。
首が地面を転がり、バタンと体が倒れたのを合図にあちこちで悲鳴が上がる。
魔装士は仮面の下でため息をついた。
(俺達がかき集めたコマを勝手に減らすな)
死んだクズ冒険者のパーティメンバーを始め、ほとんとのクズ冒険者達がカリスの参加に反対する。
結局、カリスは魔装士に説得されてクズ冒険者達と別行動を取ることになり、その場を後にした。
もう一人の問題児である狂ったバーサーカーは計画に参加するつもりのようだった。
クズ冒険者達にとっても狂ったバーサーカーは厄介な存在だっため本心では作戦に参加して欲しくなかったが、その事を直接言う者はいなかった。
さっきのクズ冒険者の二の舞は御免だったからだ。
それに気づいた魔装士がまたも説得に乗り出した。
彼は狂ったバーサーカーを秘密兵器と言って煽て、万が一の時の場合に備えて待機していて欲しいとお願いすると狂ったバーサーカーはあっさりと承知した。
それを聞いてクズ冒険者達は安堵の息をはいた。
さっき不安を口にしたクズ冒険者が狂ったバーサーカーに尋ねる。
「狂ったバーサーカー、あんたはリッキーキラーと直接戦ったんだろ。実際どうなんだ?本当に強いのか?」
狂ったバーサーカーが答えるより先に魔装士が先に口を開いた。
「問題ない!」
「何?それはどう言うことだ?」
「お前達は大きな勘違いをしている!」
「勘違い?どういうことだ!?」
「リッキーキラーが強いんじゃない。サラともう一人、アリエッタだったか、彼女らのおかげだ。彼女らがリッキーキラーに何らかの力を与えているだ。だから、あの二人から引き離せばリッキーキラーの力は落ちる。いや、本来の力に、取るに足らない雑魚に戻るはずだ」
嘘である。
大嘘である。
だが、この嘘は彼らに効果的面であった。
彼らクズ冒険者達自身が他人に寄生して生きていることもあり、身近に感じ説得力があったのだ。
更にいえばそう信じたかったのだ。
「そ、そうか!」
「ああ、そうに違いないぜ!」
「でなけりゃ俺らがあんなくそガキに負けるはずがない!」
根拠のない自信を取り戻す冒険者がいる一方で、さきほど質問したクズ冒険者はその話に懐疑的だった。
「ちょっと待てよ。その話おかしくねえか?」
「何がだ?」
「狂ったバーサーカー、お前との決闘のときにサラ達はその場にいなかったんじゃなかったのか?」
(ちっ、余計なことを)
魔装士は内心を全く見せる事なく、狂ったバーサーカーが答える前に補足する。
「おそらくサラ達は決闘場所の近く、能力の効果範囲にいたんだろう」
魔装士の答えに狂ったバーサーカーが納得顔で頷く。
「確かに!そんな感じがしたぞ!」
狂ったバーサーカーは実力がリオに劣っているとは思いたくない事もあり、魔装士の説を肯定した。
「そ、そうか!」
「やはりな!」
(本当にバカばっかで助かるぜ)
「だろ?だからよ、戦う時はリッキーキラーからサラとアリエッタを引き離せばいい!」
魔装士の話に全員が納得した。
不安を口にしていたクズ冒険者もその表情から不安が消えていた。
皆がリオ抹殺に盛り上がる。
魔装士が仮面の下で見下した笑みを浮かべる。
(……踊れ、クズども。お前らクズに生きる価値はない。俺達のコマとなってせいぜい役に立つがいい!)
「早速だが、俺に策がある」
そう言って魔装士がリオ暗殺計画を語り始めた。




