406話 リサヴィ、敗走す?
約束の時間にクズ冒険者達が戻ってきた。
鬼嫁や恋人を先頭にその後に姑、さらにその後をクズ冒険者達が倒した獲物を担いでついてきた。
鬼嫁達が軽傷なのに対してクズ冒険者達は結構な怪我を負った者もいた。
その姿を見ればクズ冒険者達は自分達のか弱い嫁を守るために怪我を負ったのだろうと考えるかもしれないが事実は前述の通りである。
「本気を出せばできるんですね」
サラはクズ冒険者達が背負うウォルーの数が多いのを見て言った。
「俺らだって本気を出せばこんなもんさ!」
「「「だな!」」」
そう言ったクズ冒険者達の顔は誇らしげだった。
しかし、鬼嫁達が振り返り、彼らをひと睨みすると「ひっ」と唸って下を向いて黙った。
あの鬼嫁がリサヴィに向き直ると口を開いた。
「今回の勝負はあんたらの勝ちだよ」
鬼嫁の敗北宣言にサラ達は首を傾げる。
「え?でもまだ数を確認していませんよ」
ぱっと見でリサヴィの勝ちであることはわかるが、鬼嫁の性格からして数を数えないと気がすまいと思っていたので彼女の言葉はとても意外だった。
鬼嫁がゆっくりと首を横に振って言った。
「あんたらの言った通りだったよ。コイツらはみんなクズさ!」
アリスは彼女をはじめ鬼嫁達が持つ棍棒が血塗られているのを見て控えめに尋ねる。
「えっとっ、じゃあ、もしかしてそのウォルーを倒したのはっ……」
鬼嫁達がふっ、と笑った。
「あたいらが倒したのさっ!」
そう言った鬼嫁をはじめ、他の鬼嫁達の顔はとても誇らしげだった。
逆にクズ冒険者達はとても情けない顔だった。
「じゃあ、約束通りあたいらが狩ったウォルーは勝負に勝ったあんたらのもんだ」
鬼嫁の言葉にクズ冒険者達から次々と抗議の声が上がる。
「なっ!?」
「ちょ、ちょ待てよ!」
「今日の俺らタダ働きになるだろうが!」
文句を言ったクズ冒険者達を鬼嫁達が睨みつける。
「あんっ!?あたいらに文句でもあるのかい!?」
「で、でもよ……」
「大体だね、タダ働きも何もあんたら何もやってないじゃないかい!」
「そうだよ!こいつらはあたいらが仕留めたんだよ、あんたらがだらしないからね!」
「あたいらが倒した獲物に文句言うんじゃないよ!!」
鬼嫁達に怒鳴られクズ冒険者達の声がだんだん小さくなる。
「で、でもよ……」
「まだ言うのかい!!」
鬼嫁がクズ冒険者の夫の顔を棍棒で力一杯叩いた。
頬骨が砕け、声にならない悲鳴を上げながら地面を転がり回るクズ冒険者。
それを見て他のクズ冒険者達は完全に沈黙したのだった。
リサヴィがクズ冒険者達からウォルーを受け取った後で満面の笑みを浮かべながらあの鬼嫁が近づいて来た。
サラは警戒しながら向かい合う。
「まだ何か?」
「そう身構えないでおくれよ。そこの神官さん。実はお願いがあるのさ」
そう言って鬼嫁がアリスを見た。
どうやら鬼嫁はサラが神官であることを知らないようだった。
「えっ?お願い、ですかっ?」
「こんなこと言える立場じゃないのはわかってるんだけどさ、このクズどもの治療してもらえないかい?ったく、ウォルー如きに情けない!」
「その怪我のほとんどはウォルーではなく、あなた方がやったのでは?」とサラ達は口に出かかったが、面倒に巻き込まれたくないのでその言葉を飲み込む。
答えたのはヴィヴィだった。
「ぐふ。私達が助けてやる義理はない。これ以上、私達に迷惑をかけるな」
「そう言わないでさ」
鬼嫁がそう言うとタイミングを測ったかのように鬼嫁軍団が笑顔でウォルー“その他”の血を吸った棍棒で手をぽんぽんと軽く叩いた。
もちろん、リサヴィはそんな脅しに屈指はしないし、仮に鬼嫁軍団と戦っても負けるはずもないが、相手は冒険者ですらないか弱い、かどうかは非常に怪しいがともかく住民である。
流石に住民に手を出すのは気が引けたのでサラが折れた。
「……まあ、これで最後と言うのでしたら」
「ですねっ」
「すまないねえ!助かるよっ!」
「じゃあ、明日も頼むよ」
治療が終わると鬼嫁はニッコリ笑顔でそう言って来た。
「え?」
「あのっ、治療してっ終わりだったはずではっ?」
「そう言いなさんなって。乗り掛かった船だろ。最後まで付き合いなよ。このクズどもの矯正にさ」
「あのっ、でもっ……」
「あんっ!?」
「なっ、なんでもないですっ」
「もちろん、こいつらのクズ根性は染み付いてるからね、簡単に治るとは思わないよ。だから思いっきりやっとくれ。後で治してくれるなら、腕の一本やニ本へし折っても構わないからさ」
「「「「なっ!?」」」」
クズ冒険者達はそれぞれの嫁や彼女に助けを求めようと顔を向けるが、皆その鬼嫁の言葉にうんうん、と頷いていた。
「足もいい?」
「あははっ!いいとも!どんどんやっとくれ!」
リオの質問に鬼嫁が笑って答える。
笑えないのは当事者となるクズ冒険者達だ。
そのやり取りを聞いてクズ冒険者達が真っ青になる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!そいつは冗談で言ってんじゃないぞ!本気だから!本気でやる気だから!」
「何言ってんだい……あたいらも本気だよ」
答えた鬼嫁だけでなく、鬼嫁軍団全員が笑顔をクズ冒険者達に向ける。
その目は笑っていなかった。
「ひっ!!」
一人のクズ冒険者が悲鳴を上げてその場から逃げ出した。
それに他のクズ冒険者達も続く。
「何逃げてんだい!?」
「逃がさないよっ!」
その後を鬼嫁軍団や姑が追いかけていった。
その場にぽつん、と残されたリサヴィ。
サラがどこか疲れたような口振りで言った。
「……帰りましょう」
「わかった」
「ぐふ」
「はいっ」
リサヴィは依頼完了処理を終えると、これ以上、鬼嫁達に関わるのはごめんだと今夜泊まる予定だった宿屋をキャンセルして逃げるようにフットベルダを後にしたのだった。




