405話 クズの証明
討伐依頼の魔物はウォルーだ。
ギルドにやって来た鬼嫁が一歩前に出て言った。
「いいかい、時間内に多く倒した方が勝ちだよ!」
「わかった」
「よしっ、あんたらしっかりやりなよ!こんなガキ共に負けるんじゃないよ!!」
あの鬼嫁に続き、他のメンバーの嫁や恋人、そして姑がクズ冒険者達に喝を入れる。
「……なんでこうなった……」
そんな囁きがクズ冒険者達の中から聞こえた。
こうしてリサヴィ対クズ冒険者達のウォルー討伐勝負が始まったのである。
鬼嫁達はイライラしていた。
運よく(クズ冒険者達にしてみれば運悪く)ウォルーの群れを発見した。
その数は十。
クズ冒険者達は鬼嫁達に尻を叩かれて嫌々ウォルーに向かっていったものの、一体も倒せないでいた。
それは当然であった。
彼らは人の倒した獲物を奪うクズスキル?“ごっつあんです”が体に染みついており、そのチャンスを待っていたのだ。
だが、魔物を倒す役である寄生パーティがいないのでいくら待っても“ごっつあんですチャレンジ”の時間はやって来ない。
しかたなく、互いに「お前やれよ」と視線を送り合うが誰もまともに戦おうとしない。
そのうち、数体が腕を組んで夫達の戦いを見ていた鬼嫁達に襲いかかった。
が、鬼嫁達は手にした棍棒をウォルーに叩きつけあっさりと仕留める。
それを見たウォルー達は鬼嫁達の方が強いと見て、攻撃相手をクズ冒険者達に絞るのだった。
ウォルーに苦戦するクズ冒険者達に鬼嫁達が痺れを切らした。
「ったく、何やってんだい!?そんなことじゃリサヴィに負けちまうだろっ!!みんな行くよ!」
「「「あいよっ!」」」
鬼嫁達がウォルーに向かって突撃した。
「おらっー!」
鬼嫁達がウォルーに棍棒を叩きつけ倒していく。
圧倒的な強さを見せつける鬼嫁達。
最早、どちらが冒険者かわからない。
「もう、あんたらがクズ達の代わりに冒険者になったら?」
と誰もが思うほど鬼嫁達はクズ冒険者達より強かった。
その様子を見てクズ冒険者達は焦った。
なんとかしなければ俺達の立場がない!
その焦りが無意識にスキルを発動させた。
言うまでもなくクズスキルだ。
クズスキルは彼らの血となり肉となり完全に一体化していた。
そのため、クズスキル発動のチャンスを目にすると考えるより先に体が動くことがあるのだ。
「とったどー!」
倒れ既に事切れているウォルーに剣をひと突きしてから剣を掲げて叫び、獲物は自分のものだと倒した相手にアピールする。
クズスキル、“ごっつあんです”の発動である!
クズスキルを見事決めたそのクズ冒険者の顔は誇らしげだった。
しかし、相手の顔を見て固まった。
「あ……」
「……あんた、何やってんだい?」
自分の獲物だとアピールしたウォルーは彼の鬼嫁が倒したものだったのである。
自分がクズである事を鬼嫁の目の前で証明してしまった瞬間であった。
「ち、違うんだ!これは、そのっ、なあ、わかんだろ!?」
「なんもわからんわ!」
鬼嫁はリサヴィ、そしてギルド職員から説明を受けていたが、自分の夫がそんなクズ行為をするはずがないと認めなかった。
しかし、彼女もついに自分の夫がクズであることを身をもって知ったのだった。
ただ、彼女の夫を擁護?するとこの失態を犯したのは彼だけではない。
他のクズ冒険者達も自分の身内の前で次々と”ごっつあんです“を発動させていたのだ。
ウォルーとの戦闘が終了後(結局、鬼嫁達が全部倒した)、あちこちでクズ冒険者達が鬼嫁(または彼女)の前で正座をさせられていた。
「なんだいさっきの様は!?あんっ!?」
「す、すまねえっ」
「あたいは謝罪しろって言ってんじゃないんだよ!なんだって聞いてんだよ!!」
「そ、それは、その、へへ……」
「『へへ』じゃない!」
鬼嫁はウォルーを殴り殺して血に染まった棍棒を地面に叩きつけた。
「ひいっ……」
クズ冒険者が周りに助けを求める視線を送るが皆、自分を守る事に必死でそれどころではない。
「昔のあんたはもっと強くてカッコよかっただろう!あん!?」
「ひっ」
「どうしてそんなクズに変わっちまったんだい!?あん!?」
「い、いや、お前の方が変わったぞ。前はもっと痩せてて素直……」
「あん!?あんだって!?」
「な、何でもありませんっ!はいっ!」
「口答えせずにさっさと答えな!なんでウォルー如きに手こずってんだい!?あんっ!?」
「そ、それは、その、戦わなくても安全に儲ける方法を知ってよっ」
「……」
「う、腕が鈍っちまった。へへっ」
鬼嫁は返事の代わりに棍棒を地面にごんっ!と強く叩きつけた。
「ひっ……」
「……つまりあんたらは、さっきあたいらの目の前でやったように、自分達で倒さず、人様の獲物を横取りしていたと、報酬を奪っていた、というわけかい!?」
「そ、それは言い過ぎだ!その代わりによ、俺達が一緒に行動することで相手に安心感を与えてたんだ!」
「……向こうはそう言ってたのかい?」
「へ、へへっ。そ、そんなの口に出さなくても俺達くらいになればわかるさっ。例え口では迷惑みたいなことを言ったとしてもな」
「……そうかい」
「おうっ」
「じゃあ、あたいが今、あんたをどう思っているか言ってごらん」
鬼嫁が笑顔でクズ冒険者の夫を見つめる。
彼はその笑みを見て「ひいっ!」と悲鳴を上げた。
何故なら、鬼嫁の目が全く笑っていなかったからだ。
「こんのっクズが!!!」
鬼嫁がクズ冒険者の頬を棍棒で殴った。
「ぐへっ!!」
クズ冒険者の悲鳴を上げる。
それを皮切りに鬼嫁達に説教を受けていた他のクズ冒険者達の悲鳴があちこちで上がり始めた。




