402話 イケメンズ、新たなる旅立ち
ウーミの商隊が出発して数時間後にイケメンズは解放された。
もちろん、彼らはまだサラとアリスを諦めていなかった。
「くそっギルドの奴らめ!俺らの邪魔しやがって!」
「俺らが勇者になってもベルダはぜってい救わないぞ!」
「だな!救ったら嘘だぜ!」
イケメンズはギルドで待っていた貢ぎ女パーティと合流した。
貢ぎ女パーティがいつもと違い、どこかやる気のない態度をしているのに全く気づかずいつものように命令する。
「サラ達を追うぞ!お前達は乗合馬車の手配をしてこい!」
「なければ馬車ごと雇え!」
「急げよ!」
「「「……」」」
イケメンズの声は彼女達に聞こえているはずだが誰も動こうとはしなかった。
「おい!何ぼさっとしてる!?」
彼女らはチラリとイケメンズを見てからパーティ内で会話を始める。
「今まではさ、頼られていると思ってたんだけど、利用されてるだけって気がしてきたわ」
「私も」
「えっ?あなた達も?」
彼女らの会話を聞いてイケメンズは慌て出す。
「ちょ、ちょ待てよっ」
しかし、今の彼女達にイケメンズの声は届かなかった。
「そもそも弱すぎでしょ」
「そうよね。実際に強くてかっこいい人を見たら、一気に冷めたっていうか」
「そうそう。強くなくても勇者になれるって話もなんか嘘みたいだし」
「ラグナなんか『過去の勇者は皆、勇者になる前から身につけている』ってサラが言ってたものね。今更だけどクズ臭?がプンプンして来たわ」
イケメンズは彼女らの話に激怒し、今の関係に終焉をもたらす暴言を放つ。
「ざけんな!」
「男に相手にされねえお前達を俺らが我慢して相手してやってたんだぞ!」
「黙って俺らに従え!」
「それがお互いウィンウィンって奴だぜ!でなけりゃ嘘だぜ!」
「「「……」」」
貢ぎ女パーティは弱いくせに威張り散らすイケメンズを見て彼らへの熱が完全に冷めた。
「私達、ここまでにするわ」
リーダーの言葉にメンバーが頷いた。
貢ぎ女パーティから別れ話が出て、彼らはぽかん、とあほ面を晒す。
「は?」
「な、何言って……」
「そ、そんなの嘘だぜ、だろっ?」
イケメンズは顔を強張らせながら必死にキメ顔を作ろうとしたが失敗した。
「今まで楽しかったわ」
「お、おいっ……」
「これからはあなた達“だけ”でがんばってね」
「ちょ、ちょ待てよ!」
「さよなら」
「おいっ!こんなの嘘だぜ!」
イケメンズが引き止めるのを無視し、貢ぎ女パーティは去って行った。
残されたイケメンズだが、一通り貢ぎ女パーティ、いや、元貢ぎ女パーティの悪口を言い終えると新たな寄生相手を探し始めた。
そして見つけたパーティがカレンであった。
男運の悪さでは定評のあるカレンはまたもダメな男達と出会ってしまったのである。
だが、カレンが彼らと行動を共にする理由は彼らの容姿が気に入ったからだけではなかった。
彼らからリサヴィがベルダを去ったと聞いたからだ。
彼女達はまだリサヴィとフラインヘイダイを討伐することを諦めていなかったのである。
こうして彼女らの黒歴史がまた一ページ……?
カレンとイケメンズがフットベルダに向かって街道を進んでいた。
イケメンズが「乗合馬車で行こうぜ!」と言ったがカレンは断った。
理由は二つだ。
一つは乗合馬車に空きがなかったこともあるが、彼らが奢られる事を前提に提案して来たことだった。
そしてもう一つはフラインヘイダイとの遭遇があるかもしれないからだ。
前回遭遇したのはベルダとフットベルダとを繋ぐこの山道なのだ。
徒歩と聞いてイケメンズは駄々をこねたがカレンのメンバーは誰もが貢ぎ女パーティほど彼らに入れ込んでいなかったので「じゃあ勝手にすれば」と突き放すと渋々同意した。
彼らイケメンズは「宵越しの銭は持たぬ」とばかりに依頼報酬をすべて使い切っており、彼らのサイフの役割をしていた貢ぎ女パーティが去った今、他に選択がなかったのだ。
出発してすぐイケメンズは「足が痛い」だの「疲れた」だのと文句を言いはじめた。
カレンはイケメンズと行動を共にしたことを後悔する。
カレンのリーダーをはじめ、メンバーが彼らの愚痴に我慢出来なくなった。
「まだ全然進んでないでしょ」
「体力なさすぎよ」
「あなた達本当にDランク?」
「「「ざけんな!」」」
イケメンズが冒険者カードを取り出してカレンに見せつける。
完全に疑っていたカレンのメンバー全員が彼らの冒険者カードを確認すると確かにDランクであった。
「どうだ!?」
「あのねえ、Dランクって威張れるランクじゃないから」
それの存在に最初に気づいたのはカレンの女盗賊だった。
「!!何か空から来るわ!それも三体!」
「まさかフラインヘイダイ全員集合!?」
「いいじゃない!返り討ちにしてやるわ!」
「ええ!私達だけでもやってやるわ!!」
やる気満々のカレンだったが、女盗賊が失望したような表情で首を横に振ってそれが何か報告した。
「あれ、フラインヘイダイじゃないわ。メンクイよ」
メンクイは女性の顔に鳥の姿をした魔物、いわゆるハーピィのような姿をした魔物である。
メンクイはその名が示す通り美しい顔の人間を好物しており、男性を襲うものをメンクイン、女性を襲うものをメンクイングと呼ぶ。
すぐさまカレンが戦闘体制に入る。
女盗賊は弓を構えるがメンクイのスピードが速すぎて狙いがつけられない。
女魔術士も攻撃魔法の呪文を唱えるのを躊躇する。
リーダーと女戦士が接近戦に備えるが、メンクイはカレンを無視してその遥か頭上を通り過ぎた。
彼女らが振り返ると、そばにいたはずのイケメンズの姿はなく、猛ダッシュで逃げる後ろ姿が目に入った。
彼らイケメンズはカレンの口からフラインヘイダイの名が出て恐怖した。
フラインヘイダイが男のみを殺すという中途半端な知識を持っていた事が災いしてすぐ様逃げ出したのだった。
そのイケメンズをメンクイが猛スピードで追いかけていく。
カレンはメンクイのその行動で男を好物とするメンクインだとわかった。
メンクインはイケメンズに追いつくとその凶悪な爪で彼らの肩を掴み持ち上げる。
「うわー!!助けてくれー!!」
「痛い痛い!俺の体に傷をつけるんじゃねえ!」
「ちょ、待てよ!こんなの嘘だぜー!」
メンクインは“荷物”を持ったことで動きが鈍くなり狙いやすくなった。
「対フラインヘイダイ用に手に入れたライトニングプラズマをお見舞いしてあげるわ!」
女魔術士は大金をはたいて購入した上級魔法“ライトニングプラズマ”を使いたくてウズウズしていた。
女魔術士がライトニングプラズマの呪文を唱え始めようとするのをリーダーが止めた。
「待ちなさい!捕まってる彼もダメージを受けるわ!」
「ええ、間違いなく即死ね」
リーダーの言葉に女戦士が補足する。
「くっ……」
女盗賊が弓を構えながら叫ぶ。
「私に任せて!手に入れた魔法の矢の威力を見せてあげるわ!」
女盗賊もまた対フラインヘイダイ用に購入した魔法の矢の試し撃ちをしたくてウズウズしていた。
「食らえ!!」
女盗賊の放った矢が最後尾を飛んでいたメンクインの片足を吹き飛ばした。
メンクインは悲鳴を上げ、掴んでいたイケメンを落とした。
十数メートルほどの高さからイケメンが落下する。
並の冒険者なら受け身を取って軽傷で済ますことも可能だろう。
そうでない者なら足くらい骨折するかもしれないがメンクインに食われるよりマシだと女盗賊をはじめ、カレンのメンバーは思っていた。
しかし、
そのイケメンは自分の意思か、それとも背負ったリュックの重さのせいかは不明だが、落下中にくるりと一回転した。
いや、半回転で止まり、頭から地面に激突した。
ゴギっと嫌な音がして首が有り得ない方向へ曲がり、そのまま器用にぴんと立った状態でバランスを保ち、ぴくりとも動かない。
「「「「……」」」」
カレンが唖然としていると先程矢を受けたメンクインが飛来して片足だけで逆さに直立したイケメンの足を掴んで高く飛び上がる。
イケメンは全く抵抗せず、首を有り得ない方向へ向けたまま、ぶらん、と両腕を地面へ伸ばす。
怪我してフラついてるメンクインにトドメを刺すチャンスであったが、女盗賊は二射目を放たなかった。
メンクイン達の姿が見えなくなった。
イケメンズの旅立ち?を見送ってから女盗賊がぼそりと呟いた。
「……外したわ」
「「「……え?」」」
「外したわ!」
女盗賊は今の出来事をなかった事にしたようだ。
「……そうね」
「……あなたもまだまだね。もっと腕を上げないと」
「……そうよ。私達はフラインヘイダイを倒すんだから」
パーティメンバーもなかった事にしたようだ。
イケメンズなど最初からこの場にいなかったかのように彼らのことに誰も触れない。
「さあ、リサヴィを追うわよ!」
「「「ええ!!」」」
カレンは歩みを再開した。




