401話 イケメンズ、ラグナを放つ?
イケメンズは諦めが悪かった。
彼らは再びリサヴィの後を追って来たのだ。
その後を不満たらたらの表情をした貢ぎ女パーティが続く。
サラ達がウーミの商隊との待ち合わせ場所に到着するとウーミは既に来ていた。
サラ達の姿を見つけて笑顔で手を振るものの、すぐにリサヴィに付き纏っているパーティに気づく。
「お待たせしました」
「いえいえ、まだ時間前ですから。それより……」
ウーミの視線がイケメンズと貢ぎ女パーティに向けられる。
「この方達は?」
「気にしないでください」
「そうですか」
ウーミはリサヴィとの付き合いが長く、サラのクズコレクター能力?を知っていたので状況をすぐに理解した。
「おい、俺達も護衛をしてやるぞ」
イケメンズのリーダーがウーミにキメ顔をして言った。
それに続き残りのメンバーもキメ顔をする。
「いえ、必要ありません」
ウーミに彼らのキメ顔は全く効果なく、笑顔で迷う事なく拒否した。
あまりの早い返事にイケメンズは一瞬声を失う。
「なんで断るんだ!?」
イケメンズにウーミは笑顔を絶やさずに理由を述べる。
「護衛はリサヴィの皆さんだけで十分です」
「念には念をって言葉があるだろ?」
「そうですね」
「なら……」
「それを考慮しても必要ありません」
「ざけんな!」
「サラ!それにアリエッタもなんとか言ってくれよ」
イケメンズは何故かサラ達が自分達と同意見だと思っていたようだ。
もちろん、そんなわけない。
「必要ありません」
「ですねっ」
アリスは「わたしはアリエッタじゃないですけどっ」と小さな声で続けた。
「という事です」
「ふざけんな!」
「大体なんでダメなんだ!?」
「こんなカッコいい俺らが護衛をしてやるって言ってんだぞ!」
「断るなんて嘘だぜ!」
「護衛にカッコよさは関係ないですね」
ウーミは誰にでも理解出来る理由を述べたが彼らは理解できなかった。
「では念の為にお聞きしますがあなた方のランクを教えてもらえますか?」
「ランクなんか関係ないだろ!」
「「だな!」」
「ありますよ。護衛はCランク以上が基本です。それでランクはいくつですか?」
「……Dだ」
イケメンズは渋々答えた。
その答えに質問したウーミだけでなくサラ達も驚いた。
予想より高かったからだ。
「それはちょっと予想外でしたがどちらにしても問題外です」
だが、それでイケメンズは諦めたりしない。
「確かに俺達はDランクだがポイントだけならCランクに上がる分は十分溜まってるぜ!」
「これで安心しただろ?」
「安心しなきゃ嘘だぜ!」
彼らの顔は誇らしげだったがそれは逆効果だった。
「……それは昇格試験に受からないからでは?」
「「「!!」」」
冒険者ランクはEランクからDランクまではポイントが貯まれば申請するだけでランクアップ出来る。
しかし、Cランク以上に上がるには面接と実技試験に合格する必要がある。
イケメンズはウーミの指摘通りCランク昇格試験を受けて実技試験で不合格になったのだ。
それどころかあまりの弱さに降格させるべきではとの議論になったほどである。
降格はどうにか免れたがそれ以来彼らは昇格試験を受けていない。
次受けるのは勇者になってからだと決めていた。
ウーミの鋭い突っ込みに顔を引き攣らせながらも笑顔を崩さない。
「あ、安心しろって。彼女達も一緒だ。彼女達はCランクだ。それも限りなくBランクに近い、な」
イケメンズのリーダーが誇らしげな顔で言った。
ウーミは困惑した表情で確認する。
「えっと、ちょっとよくわからないのですが、彼女達が実際の護衛をするという事ですか?」
「ああ。頼むぞお前達!」
貢ぎ女パーティはイケメンズに頼られて満更でもない顔で頷く。
ウーミは更に困惑気味の表情をしてからサラをちらっと見て「流石ですね」とボソリと呟いた。
「……何か?」
「いえ、なんでもありません。それで護衛の人数は彼女達を含めて六名ということですか?」
「「「おう!」」」
イケメンズが堂々と声を上げる。
ウーミは頭を振りながら言った。
「あのですね、あなた方三人追加でさえ馬車に乗る場所がないのに六人などありえません」
「その分、荷物を減らせばいいだろう」
「「だな!」」
イケメンズだけが頷き、貢ぎ女パーティは「しょうがない人達ね」とでも言いたげな優しい目をイケメンズに向ける。
「「ダメだこりゃ」」
サラとウーミが見事にハモった。
ウーミが再び彼らの護衛を断るがもちろん、彼らは納得しない。
「ざけんな!俺達は未来の勇者だぞ!」
「必要なのは未来じゃなくて現在の力です」
ウーミの正論にイケメンパーティは納得しない。
「俺らが勇者になった時助けてやらないぞ!それでもいいのか!?」
「困るのはお前だぞ!」
「困らなきゃ嘘だぜ!」
妄想で脅しをかけるイケメンズに彼ら自身と貢ぎ女パーティ以外が呆れた。
その神経の図太さだけは見習うべきものがあるような、ないような。
そんな彼らだが、思い通りに話が進まない事に腹を立て、自ら墓穴を掘る言葉を発する。
「大体よ、お前達が勇者だと思ってるリッキーキラーなんて俺らより多少強いだけで顔なんか俺らが圧倒的に優ってんだぞ!」
「だな!」
「それに気づかないなんて嘘だぜ!」
この言葉に当のリオは反応しなかった。
リオはリッキーキラーが自分の事と思っていないこともあるが、彼らの茶番劇を鑑賞していなかったのだ。
その代わりにアリスが激怒した。
「何を言ってるんですかっ!!わたしのリオさんの方があなた達より全然かっこいいですしっ、力なんて天と地ほどの差がありますっ!!ほんとっいい加減にしてくださいっ!!……って、きゃっ、あたしのだなんてはしたないですっ」
「ん?」
リオが自分の名を呼ばれて顔をアリス達に向けた。
「はあ?」
「おいおい、ふざけんなよ。こいつのどこが……」
バカにした口調で話していたイケメンズだったがリオの顔をマジマジと見て途中で言葉を失った。
アリスのいうようにリオの容姿は整っており彼らに全く引けを取らない。
彼らはその事に今になって気づいたのだった。
いや、正しくはこの時初めてリオがどういう顔をしているのか知ったのだった。
今まで見ていたはずなのに全く記憶に残っておらず、「あれ?こいつこんな顔だったか?」と困惑したほどだ。
それは彼らが注意力散漫だったからとは言えないだろう。
何故なら貢ぎ女パーティも同様だったからだ。
アリスの言葉を聞いて彼女達もバカにした表情をリオに向けたが、その綺麗な顔を見てあんぐりと口を開けて見惚れた。
我に返ったイケメンズが必死に反論する。
「た、確かに、まあそこそこいいけどよっ」
「だ、だが俺達には敵わないぜ!」
「特に大人の色気は俺達の完勝だ!」
「「だな!!」」
「そんなものは必要ありません」
イケメンズの馬鹿げた言葉をサラがバッサリ切り捨てるが彼らはそれで終わらない。
「おいおい、やっぱお前らは本当の男を知らないんだな!」
「そんな奴、一分で終わりだろ?」
「それは過大評価だぞ」
「だな!持って十秒ってところだろ!でなきゃ嘘だぜ!」
イケメンズは下ネタを連発して自分達の得意分野で勝負しようとするが、当然ながら誰も相手にしなかった。
「ぐふ。バカなお前達のためにもう一度言ってやろう。冒険者をなめるな」
「「「ざ、ざけんな!!」」」
「ヴィヴィの言う通りです。私ももう一度言いますが冒険者に色気など全く必要ありません」
「ですねっ」
「おいおい……なあアリエッタもなんとか言ってくれよ」
「何っているんですかっ!わたしは今っ、サラさんに同意したでしょっ!?」
「わかってるんだぜアリエッタ。サラが怖くて本心を言い難いってな」
「サラさんが怖いのはともかくっ本心ですっ」
「アリス」
「そ、そもそもっ、わたしの勇者はリオさんだって言ってますっ!」
「そんな事言うなよ、なっ?」
「素直になれよ、なっ?」
「でなきゃ嘘だぜ!」
イケメンズが懲りずにアリスにキメ顔をする。
「もう恐いですっ、この人達っぜんぜんっ言葉が通じませんっ」
そう言ってアリスがリオの後ろに隠れる。
「おいおい、照れて隠れんなよ」
ここで初めてリオが茶番劇に参加する。
アリスに話しかけていたイケメンに尋ねる。
「ラグナ使える?」
リオの言葉に質問された者だけでなく、彼ら全員が大きく頷く。
「見せてやるぜ!」
イケメンズの一人が剣を天に掲げた。
そしてニカっと笑うと歯が光った、ような気がした。
それを合図に他の二人も各々ポーズを決める。
が、それだけだった。
彼らからラグナが発動した様子は全くない。
皆を代表してサラが尋ねる。
「……何やってるのですか?」
「見てわかるだろ。ラグナを発動するときのポーズだ」
「は?」
「勇者になったらラグナ使えるようになるだろ。その時のポーズだ」
「ぜんぶ説明させんなよ」
「「「「「……」」」」」
今までの勇者が皆ラグナを使えたのは事実だ。
だが、勇者になってからラグナを使えるようになったという話を聞いた事がなかった。
サラの知る限りかつての勇者達は皆、勇者になる前からラグナを使えていたのだ。
サラがその事をイケメンズに言うが誰も信じなかった。
事実より自分達の妄想を信じたのだ。
ラグナの事を尋ねたリオだが、彼らがポーズを決めた時点で「ほんとだ。言葉が通じない」とボソリと呟いて彼らへの興味を失った。
尚もしつこく食い下がって来たイケメンズであったが、ウーミの商隊の者がギルドの警備員を連れて来たことでやっと離れた。
正しくはギルドの警備員に依頼妨害と判断されて連行されていったのだが。
こうしてウーミの商隊は予定より遅れてベルダを発ったのだった。




