400話 イケメンズと貢ぎ女パーティ
サラはアリスを宥めながらも自分も落ち着かせる。
そこでふと湧いた疑問をイケメンズにぶつける。
「あなた達はその弱さでどうやってここまで来たのですか?さっきの話ではベルダの者ではないですよね」
「なんだ、やっぱなんだかんだ言いながら俺らの事気になってんじゃないか」
「ったく素直じゃないな」
「だな!だがそうじゃなきゃ嘘だぜ!」
(あー、ほんと思いっきりぶん殴りたいわ!)
「それはだな、……おお、丁度来たぜ」
そういうと一人が手を挙げた。
「おーい、お前ら!ここだ!」
サラ達が振り返ると一組のパーティがこちらにやって来るのが見えた。
それは女性だけで構成されたパーティだった。
彼女らは皆冒険者にふさわしいがっちりした体格をしていた。
ちなみに彼女達の容姿はごく普通であった。
「彼女らが戦闘担当だ」
サラは彼の言葉に首を傾げる。
「戦闘、担当?前衛ではなく?」
「おうっ、戦闘はすべて彼女達に任せてるんだ」
そう言ったイケメンをはじめイケメンズのメンバー全員の顔は誇らしげだった。
彼らイケメンズは今までのクズパーティと大きく異なり、他のパーティから無理矢理報酬を奪うことはしていない。
彼らに魅入られたパーティが自ら進んで彼らに貢ぐのだ。
そのため、どこからも苦情は来ないのでベルダの冒険者達の排除対象にならなかったのだ。
これがFランク相当の力しかないイケメンズがDランクに上がれたカラクリである。
サラとアリスが彼女達、貢ぎ女パーティに目を向けると敵意剥き出しの視線を返してきた。
彼女達のなかには先日ベルダ鉱山で治療した者が含まれていた。
その者は治療後、涙を流しながらお礼を言っていたはずだが、今その面影は全く無い。
どうやらそれとこれとは話が別だったようだ。
貢ぎ女パーティがイケメンズにくってかかる。
「ちょっとなんでリサヴィがいるのよ!?」
「まさかあんだけ世話してやった私達を捨てる気じゃないでしょうね!?」
「落ち着けって。そんなわけないだろ」
「安心しろって。お前達ともずっと一緒だぜ」
「お前達、も?」
するどく突っ込んでくる女冒険者にイケメンは諭すような顔で言った。
「俺達は勇者になる。それはわかるな?」
「ええ……」
「そのためには神官が必要だ。それもわかるよな?」
「わからないと嘘だぜ!」
「ええ。でもサラを、いえ、他のパーティから選ぶ事はないでしょ?」
「おいおい、神官なら誰でもいいってわけないだろ。優れた神官が名を告げなければ勇者になれる可能性が低いだろうが」
「そりゃそうだけど……」
「今が絶好のチャンスなんだぜ!」
「ああ。鉄拳制裁サラと最近噂になりつつあるアリエッタ。この二人がいれば俺らの中から勇者が二人誕生することは確実だぜ!」
「だな!でもその時は恨みっこなしだぜ!」
「「おう!」」
「「……」」
イケメンズが盛り上がるのを冷めた目で見るサラとアリス。
彼らの話に納得できる点はあったが、それでもサラ達を仲間に加えることに抵抗する彼女達を二人のイケメンが説得していると残りのイケメンがサラ達に近づいて小声で話しかけて来た。
(実は俺達よ、そろそろ彼女らと別れようと思っているんだ。腕は確かなんだが、ほれ、あの通り独占欲が強くってよ。それでよ、お前達がここで俺達のパーティに入るって言うんだったら今すぐにでも別れるぜ!)
言ってる事はクズであったがその爽やかな笑顔は全くそんなものを感じさせなかった。
それはともかく、サラとアリスはそのイケメンに向かって、「何言ってんだこいつ?」という顔をする。
そのイケメンはそれを見事に自分達の都合のいいように解釈した。
(安心しろって。後腐れなく別れるからよ)
今の言葉で彼らが協力させた(貢がせた)者が彼女達だけではないと確信する。
サラがそのイケメンを無言でしっしっと手を振って追い払う。
やれやれ、という表情をしながらそのイケメンはメンバーのもとに戻っていった。
そうこうするうちにイケメンズは貢ぎ女パーティの説得に成功したようだった。
満足げな笑みを浮かべるイケメンズ。
「わかってくれてうれしいぜ」
そこへ水を差すサラとアリス。
「私達があなた達のパーティに入ることはありません」
「そうですよっ。さっさとこの言葉の通じないおかしな人達を連れて行ってくださいっ」
アリスが貢ぎ女パーティにそう言うと彼女達はむっとした表情をする。
「……なんかあんたムカつくわね」
「気のせいですっ」
「本人が言っても説得力ないわよ」
「おいおい、せっかく話がまとまったってのによ。なんで蒸し返すんだ」
「それはあなた達の頭の中だけです。いい加減私達があなた達のパーティに入らないと理解してください」
しかし、彼らは理解できなかった。
ふう、と深くため息をつくとお互いの顔を見る。
「ったく、しょうがないな」
「おっ?アレやるか?」
「これだけ言ってもわからないんだからな」
「それしかないか」
イケメンズは何か話し合い、それが終わるとサラとアリスに顔を向ける。
「よく見てろよ」
イケメンズの面々がそれぞ剣を鞘から抜く。
さっき有耶無耶になったアリスとの勝負をするのかと思ったがそうではないようだ。
サラはいつぞやのストーカーパーティのチャンバラごっこを思い出し、彼らはそれをやるつもりなのかとも思ったが、その予想は外れた。
彼らはそれ以下であった。
イケメン達が各々ポーズを決める。
ひとりは剣を地面に突き刺し両手で柄の先に置いて遠い目をする。
ひとりは剣を肩に担いて影のある笑みを浮かべる。
そして最後のひとりは膝をつき、剣を杖代わりにしながら何者にも屈しないぞ、とでも言いたげな表情をする。
彼らは武器その他装備をファッションアイテムか何かと勘違いしているようであった。
その姿を見て貢ぎ女パーティから黄色い声が飛んだ。
イケメンズが「どうだ!」と言わんばかりにキメ顔をサラとアリスに向ける。
「……何やってるんですか?」
サラはそう言うのが精一杯であった。
「おいおい冗談だろ!?」
「信じられん!」
「これがわからないなんて嘘だぜ!」
「いえ、もうあなた達が冒険者っていうのが嘘でしょ」
「それで何やってるんですっ?」
サラの言葉にムッとしながらもイケメンズは問いにキメ顔で答えた。
「勇者になったときの決めポーズだ!」
「こんだけカッコよければ勇者になるしかないだろ?」
「でなきゃ嘘だぜ!」
イケメンズは本気で言ってるようだった。
「……ダメだこりゃ」
「……ですねっ」
皆が熱心に茶番劇を演じているところにヴィヴィが冷めた声で水を差す。
「ぐふ。サラ、いつこの茶番劇は終幕するのだ?時間に遅れるぞ」
ヴィヴィの言う通り確かにウーミとの約束の時間が迫っていた。
「何言ってるのよ!無理矢理参加させられているのをわかってるでしょ!」
「ですねっ」
「何が茶番劇だ!」とイケメンズがヴィヴィに詰め寄っているのを見ながらサラは強硬手段に出ようかと考えていると救援が現れた。
騒ぎを聞きつけてベルダ所属のパーティが何組かやって来たのだ。
その中には昨日出会ったパーティもいた。
彼らの姿を見て流石のイケメンズも不利を悟り逃げ出した。
「助かりました」
「いや、こちらこそ済まない。クズは一掃したと言っておきながらこれだからな」
「そんなことないですよっ」
「ええ」
「だがなんか意外だな。お前達があんな雑魚に手を焼くとは」
「それは……」
「ぐふ。奴らは軽く殴っただけで死にそうだからな。鉄拳制裁ではなく鉄拳瞬殺に二つ名が変わる」
「おいっ」
「ああ、確か……なんでもない」
「……」
もちろん、この程度でイケメンズの野望は終わらない。




