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40話 パーティ会議

 ウィンドの面々が借りた部屋に集まっていたが、そこにリオは呼ばれていなかった。

 カリスが最初に口を開いた。


「しかし、リオの奴が本当に神官を連れて来たのには驚いたな」

「見捨てる口実だったのにねっ。どんな手品使ったのやら」

「そんなつもりはない。それなら行き先を教える必要はないだろう」


 ベルフィの言葉にローズは不満を表情に出し、隠しもしない。


「ベルフィ、あたいはあのリオが役に立つとは思えないけどねっ。そこそこ顔が整ってるから男娼でもやった方が似合ってると思うよっ」

「確かにローズよりは似合って……うわっ!?ダガーなんか投げるなよ!当たったらどうするんだ!?」

「そんなへまはしないよ。当たったら当てる気だったってことさ」

「危ない女だなぁ。そんなんだからいつまでたっても俺の守備範囲外なんだぞ」

「うれしいねっ」


 ナックとローズのやりとりにうんざりしながらもベルフィは続ける。


「サラの事だが、あの説明で納得した者はいるか?」

「あんなの信じるわけないだろっ!」


 皆、ローズと同じ意見だった。


「神殿からの任務を受けているというのが本当だとしてもねっ、なら尚の事、足手まといにしかならないリオと一緒に旅して来た説明がつかないよっ!」

「リオ自身が受けた任務に関係する以外はな」

「あの役立たずにかい?ないない」

「もしかしたら……」


 ナックはそこで一旦言葉を止め、真顔になって言った。


「サラちゃんはリオが自分の勇者だと思った」


 一瞬沈黙の後、笑いが起こる。

 言った本人のナックが一番笑っていた。

 ただ一人、カリスだけは面白くなさそうな顔をして、


「だったら最初からそういえばいいだろう」


 と言った。


「じゃあ、サラはショタコンだったってのはどうだ!?」


 ナックの言葉に再び笑いが起こる。

 ベルフィも「リオはショタと呼ばれる歳じゃないだろ」と言いながらも笑った。

 だが今回もカリス一人だけ笑っていなかった。

 ローズは初対面の時からサラを気に入らなかった。

 容姿に加え、上からの発言をするサラをどうにも気に入らなかった。

 だからとんでもない事を言い出した。


「面白いっ!サラはショタコンでいいじゃんっ!それで噂流してやるわっ!」

「「「……」」」


 さすがに今のローズの発言には他の者は笑えなかった。

 ここで冗談にでも「そうしようぜ」などと言ったら最後、ローズはすぐに実行に移し、言った者を共犯者にしただろう。

 ここまで屈折してるローズがパーティを追い出されないのは言うまでもなく腕がいいからである。

 ただ一人笑っていたローズは誰も笑っていないのに気づき、調子に乗りすぎたと悟る。


「……冗談よ」


 誰も冗談だと思っていなかったが、その事には触れない。

 べルフィがひとつ咳払いをする。


「サラの名で思い出したが、確か神官長ナナルの愛弟子がそういう名だった気がするが」

「そうそう!そうなんだよ!美人だって話だし、本人かもしれないぞ!こんな事ならムルトで一目でも見とくんだった!」

「同一人物かはわからんが、そっちのサラは“鉄拳制裁”のアダ名がついてたよな。素手で魔物を殴り殺すって話だ。さっきのサラはそんな怪力には見えなかったし、武器は剣だっただろ。別人じゃないのか?」

「素手で殺せるからって武器を全く使わないとは限らないだろ?」

「あんな小娘にそんな力があるわけないよっ」

「年齢は関係ないぜ。神官には神が魔法を授けてくれるんだからな」

「ふんっ!別に神官全員が魔法使えるってわけじゃないんだろ!?あの女だって怪しいもんだよ!」


 ローズがサラを敵視しているのを他の者は薄々感じていたが口に出して指摘したりしない。

 ナックがここにいないサラを弁護する。


「魔法はリオは見たって言ってただろ」

「おい!もういいだろ!サラに秘密があるとしてもだ。俺達には神官が必要だ!」

「そうだな」

「サラは美人だしな!」

「そこ関係ないでしょっ!」

「ともかくだ!サラは仲間に入れることでいいよな!」

「カリス、必死じゃないか。そういえばあの女にボーと見とれたもんね、あんた」


 ローズの指摘にカリスが焦る。


「な、何を言ってるんだ!そもそも俺達が依頼したんだぞ。呼んでおいて断ったら失礼だろ!」

「あんた、ちゃんとあの女の話聞いてたかい?あたい達が自分の任務に利用できそうだから仲間に入ってやるって言ってんだよ!ムカつくじゃないかっ!しかも冒険者を見下してさっ!」

「だとしてもだ!神官がいるいないじゃ依頼の達成に大きく影響するのも事実だ!」


 白熱する二人の仲裁にナックが入った。

 

「落ち着けって。でもよ、OKしても断られたりしてな。さっき保留にしたことで相当腹を立ててたみたいだから」

「それは俺も悪かったと思っている。だが、あの状況で片方だけ決めるのもまずいだろう」

「別に魔裝士は勝手についてきただけだ。さっさと追い払えばいい!」


 カリスはどうでもいいような口調言った。


「カリス、お前、サラちゃんに一目惚れしたのか?」

「そんなんじゃねぇ!」

「今頃三人でよろしくやってるかもしれないよっ」


 カリスがローズを睨む。


「ローズ、いちいち絡むな」

「ふんっ」

「サラちゃんの真意を知るために断るのも手かもしれないな」


 ナックが真面目な顔で言った。


「……その後の行動で何が目的かわかるかもしれない、か」

「ああ、本当に任務とやらがあれば別の仲間を探しに去るだろうし、他に目的があればなんとしてでも残ろうとするだろう?ま、前者なら神官を失う事になるけどな」

「いいね、それっ!あたいは賛成だよっ!あの女がショタコンでさ、リオも一緒に連れて行ってくれれば言うことなしだねっ!」

「リオはショタと言われる歳じゃないぞ」

「いんだよっ!そんな細かいことっ!」

「俺は反対だ!」


 カリスが不機嫌な顔で言った。


「で、どうするべルフィ。決めるのはお前だ」

「……サラは仲間にする。これは決定だ」


 ナックの問いにベルフィがそう答えるとローズの舌打ちが聞こえたが、ベルフィは気づかない振りをする。

 カリスがほっとした顔をしたが、ハッとしてすぐに厳しい表情に戻す。

 ナックは何も気づかないふりをしてベルフィを見た。


「俺は美人が仲間になるんだから大賛成だけど決めた理由を教えてくれるか?」

「金色のガルザヘッサと戦うなら絶対に神官の力が必要だ。俺達が奴と戦うとわかってて仲間になるって言ってるんだ。そんな奴が今後現れるかわからない」

「確かにな」

「あの女がどの程度役に立つかわかってないのにかいっ?」

「すぐわかる事だ。使えなければ出て行ってもらえばいいだけの事だ。反対のもいるか?」

「俺は賛成だべルフィ!」


 カリスが真っ先に答える。


「俺はもう言ったけど異存はないぜ」

「……あたいはリーダーに従うだけよ」


 ローズは言葉とは裏腹に不満そうにもう一度舌打ちをした。



「じゃ、次は魔装士だな」

「アイツ明らかに怪しいよっ」


 ローズはサラだけでなくヴィヴィも気に入らなかった。

 ナックはちょっと考える仕草をしながら意見を言う。


「俺さ、リオが魔装士連れて来た方が驚きだったぜ。ヴィヴィだったか……あいつ強いぞ」

「リオの言うことが事実ならガドタークを倒せる力はあるよな」

「いや、そっちじゃない。いや、短剣で倒したって言うんだからそれも大したもんだが……」

「はっきりしないねえ!一体何が言いたんだいあんたは!」


 ナックが頭をかく。


「いや、証拠を見せろって言われると困るんだけどな。そう感じた、としか言えない」

「魔力を扱う者同士で感じるものがあるってことか?」

「そんな感じかな。本来、魔装士は魔力が小さい、悪く言えば魔術士不適合者がなるってのが普通なんだけど……あいつはなんか……そう、自分の魔力を隠すために魔裝士をしている、そんな気がするんだ」

「身元を知られたくないから仮面をかぶる魔装士の格好をしてるという事か?」

「そこまでは言わないけどな」

「だが、それなら姿を見せたくない理由がわかる。実は有名な魔術士だとか?」

「異端審問官に狙われてたりしてな」


 ナックの冗談には皆笑えなかった。

 異端審問機関についてはいい噂を聞かない。

 異端審問機関はカルハン魔法王国に敗れて弱体化したが以前の力を取り戻しつつあるという。

 つい最近も魔物をかくまったと言いがかりをつけ無実の村を焼き払ったという話を聞いたばかりだ。


「アイツ、パーティに入りたいというのに顔さえ見せないのは不気味だな。リオは見たことあるのか?」

「なかったりしてな。あいつ、どこか抜けてるしな」

「あれは抜けてるんじゃなくて何も考えてないんだよっ」


 ローズの言ったことは事実であった。


「リオの話だと一人だと仕事が受けにくいからパーティに入りたいって話だったけど、ナックのカンだと相当強いんだろう?パーティ組む必要あるのかい?」

「強いといっても魔装士も魔術士も基本後衛だからな。前衛は必要だぞ」

「そういや前に一緒に仕事をしたパーティに魔裝士いたよな?あいつは全然強そうにみえなかったが」

「あれが普通の魔装士だ。ただの荷物持ちだぜ。ヴィヴィとは全然違う。一緒にしたらダメだ」

「ナックがそこまでいうならそうなんだろう。ただの魔裝士だとしても荷物持ちがいると便利だ」

「荷物持ちなら仲間にしたって報酬には差をつけるよっ」

「おいおい、魔装士の本領はあの両肩の大きな盾だぞ」

「あの棺桶がどうしたのさっ?」

「棺桶ね。ローズの言った通り、異端審問官との戦いでは戦死者をあの盾に入れて運んだらしいからあながち棺桶っていうのは間違いじゃない。魔装士のことを”棺桶持ち“って呼ぶ奴もいるしな。もちろん悪口だからヴィヴィには言うなよ。特にローズ」

「ふんっ」

「話が逸れたが、あの盾、確か正式名はリムーバルバインダーだったかな、その本来の使い方は武器の魔法強化だ。自分の魔力をあの盾に送り、格納している武器を魔法で強化するんだ」

「それはお前が使う武器強化と同じか?」

「そうだと思う」

「それ、魔法使えるってことじゃないのかい?」

「そうだが違う」

「意味がわからんぞ」

「魔法を使うのは魔装士本人の力じゃなく魔装具の力だ。ヴィヴィの装備一式な。自身が魔法を使えなくても魔装具を装備しているだけで魔法強化ができるらしい。俺は使った事ないけどな」

「それは頼もしいねっ。下手したらあのムカつく神官より役に立つかもねっ」

「それはない」


 カリスが根拠もなく即否定する。


「役に立ってもあいつがカルハンの魔装士なら異端審問官達に目をつけられるかもしれないぞ」

「それなんだけどよ、色々言っといてなんだが大丈夫じゃないか?」

「またカンとか言うんじゃないだろうね?」

「考えても見ろよ。ジュアス教団の神官様がここまでヴィヴィの同行を許しているんだぜ。ということはだ。例えヴィヴィがカルハンの魔裝士だったとしても問題ないと言えないか?」

「それもそうだな」

「教団はカルハンとの戦いを否定してたとも言ってたしな」

「……よし、魔裝士も仲間に入れることにする。ただし、ヴィヴィもサラと同様に期待に応えられなかったり、おかしな行動を取るようだったらたたき出す」


 ベルフィの決断に皆が同意した。

 サラはヴィヴィをパーティに入れたくなかったが、皮肉にもサラの存在がヴィヴィをパーティに入れることを認めることになってしまった。


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