397話 ベルダの変化
リサヴィはウーミの商隊と共にユーフィの館を後にした。
サラは未来予知に関して相談に乗って貰えると期待していたユーフィにアドバイスを断られ、今後どう行動するかで悩んでいた。
ただ、差し当たっての目的地は決まっている。
マルコである。
それはマルコギルドのモモからの依頼を完了させるためである。
(今後の事はじっくり考えましょう。最近は未来予知も見ていないし)
サラが一人で悩む一方、他のメンバーは全く悩みがないようであった。
特にユーフィに会うことに全く興味を示していなかったヴィヴィだが、ユーフィの言葉を聞いてどこか浮かれているように見えた。
ちなみにウーミだが、六英雄のユーフィを顧客に出来たので大喜びだった。
ウーミの商隊はベルダ鉱山を通過してベルダに戻って来た。
リサヴィの護衛の契約はフットベルダまでである。
ウーミとは商会の前で一旦別れ、明日の昼過ぎに合流してベルダを発つ事となった。
「気のせいかもしれませんけどっ、ちょっと雰囲気が変わった気がしますっ」
アリスが辺りをキョロキョロ見ながら言った。
「そうですね。確かに何か違うような気がしますね」
「ぐふ。何を知らんフリしているのだ?」
「えっ?サラさんっ、何を隠してるんですっ?」
「私は何も隠していません。ヴィヴィ、言いたいことがあるならはっきり言いなさい」
「ぐふぐふ」
ヴィヴィはわざとらしく首を振る。
「ぐふ。よく見るがいい。……クズを見かけないだろう」
「あっ」
ヴィヴィに指摘され、アリスが改めて周囲を見渡す。
「確かにっ。前はちょっと歩くだけでクズ冒険者達が寄って来たのにっ」
「言われてみればそうですね」
ベルダから冒険者そのものがいなくなったわけではない。
実際、何組ものパーティとすれ違っている。
また、彼らがリサヴィに気づいていないわけでもないようだった。
リサヴィに向かって頭を下げる者がいたし、憧れの表情で見つめる者もいるのだ。
「ぐふ。お前達二人がいてまったく遭遇しないということは本当にいなくなったのだろうな」
「失礼ね」
「そうですよっヴィヴィさんっ。わたしをサラさんと一緒に……痛いですっ」
アリスがサラにどつかれて頭を抱える。
そこへあるパーティがリサヴィのもとへやって来た。
「よお、リサヴィ。戻って来たんだな」
サラとアリスはそのパーティに見覚えがあった。
「あなた方は救援隊に参加した方達ですね」
「おう。あの時は本当に助かったぜ!」
「ありがとうねサラ、アリエッタ」
「わたしはアリスですっ」
名前を間違えた女冒険者が顔を真っ青にして頭を下げる。
「ご、ごめんなさい!あなたの事をみんなそう言ってるので……」
「いえっ、わかってもらえればいいですっ」
アリスが本気では怒っていないとわかりほっとする女冒険者。
「では改めて。ありがとうねアリス」
「いえっ、どういたしましてっ」
アリスが笑顔で応じた。
「ところでついでに聞いてかしら?」
「何ですかっ?」
「その、みんなあなたの事を“アリエッタ”と呼ぶんだけど、これ、あなたの二つ名なのかしら?」
「違いますっ!」
アリスは声を大にして否定した後でリオを睨むがリオは気付かなかった。
彼らのリーダーが話を変える。
「ところで今大丈夫か?」
「それはどういう意味ですか?」
「いやなに。俺達以外にもお前達に救われた者達が礼を言いたいと思うからよ。時間あるならギルドに寄ってくれよ。それとももう行ったか?」
「いえ。でも別に気にしなくていいです」
「ですねっ」
本当にそう思っての返事だったが、それとは別にギルドに行きたくない理由があった。
下手にギルドに寄ってまたギルマスに余計な依頼を押し付けられる事を危惧したのだ。
しかし、リーダーがどうしても誘うのでサラは判断をリオに委ねる。
「リオ、どうしますか?」
「いいんじゃない」
リオはどうでもいいような口調で言った。
サラは内心ガックリしながらも表情には出さなかった。
「では少しだけギルドに顔を出しましょう」
「ありがとう!じゃあ……?」
リーダーはパーティの女冒険者がぼうっ、とした表情でリオを見ているのに気づいた。
「おい、どうした?」
女冒険者はリーダーに肩を突かれてはっ、と我に返る。
「ご、ごめんなさい!」
「大丈夫か?なんか顔が赤いぞ」
「え、ええ。大丈夫よ」
女冒険者はそう言った後、ぼそりとつぶやいた。
「……リッキー、いえ、リオだったわね……あんなにカッコよかったかしら?」
リサヴィがギルドに顔を出すとサラとアリスに助けられた冒険者達が駆け寄って来て改めて礼を言う。
先程の女冒険者の言う通り、冒険者達がアリスの事をアリエッタと呼ぶのでアリスはその訂正で喉が枯れた。
彼らからサラ達は今のベルダにクズ冒険者がいない理由を知った。
彼ら、真面目な冒険者達がクズスキル?“コバンザメ”に悪用される事後依頼をギルドに抗議して禁止させたのだ。
更には明らかに“ごっつあんです”狙いと思われる冒険者達が依頼を受けたパーティの後をついて行こうとするのを邪魔したりする事で彼らは稼げなくなりベルダから去っていったのだという。
ちなみに少数ではあるが真面目に依頼を受けるようになった者達もいるらしい。
ただ、それは反省したからというよりベルダに家族がおり活動拠点を変える事が難しいため渋々という者達の方が多いのでいつまたクズに戻るかわからないので油断は出来ないらしいが。
しかし、害虫がいくら駆除しても耐性を身につけてしぶとく生き残るようにクズもまたいなくなる事はない。




