394話 ユーフィとの会談 その2
「さあ、誰からじゃ?」
「じゃあ、僕からいいかな」
サラ達はリオの質問はラグナの事だと思っていた。
ここへ来る直前までそう話していたからだ。
しかし、リオが実際にユーフィに尋ねたのはラグナの事ではなかった。
「僕、あなたに何処かで会ったことがあるような気がするんだけど、知らない?」
「……」
「リオ!?あなたは何を言い出すのです!?」
サラの知るところではユーフィはフルモロ大迷宮での魔族との戦いの後すぐにこの屋敷にこもったと聞いていた。
普通に考えればユーフィがリオと出会う機会はないはずなのだ。
そう思ったのはヴィヴィもだった。
「ぐふ。気のせいではないのか?」
「どうだろう?」
「『どうだろう』じゃありません。それとも何か証拠でもあるのですか?」
「ないよ」
「では……」
「でも僕はユーフィだけでなく、この屋敷にも来た事がある気がするんだ」
「え?」
「ぐふ?」
「本当ですかっ?」
リオの言葉を受け、皆の視線がユーフィに集まる。
「……さてのう。わしは覚えがないのう。しかし、歳を取ったせいか、物忘れが激しくてのう。絶対とは言い切れぬ」
ユーフィは曖昧な返事をした。
それも笑みを浮かべながら。
「いや、あんたさっきボケてるの否定しただろ!その舌の根も乾かぬうちに『歳をとったせい』なんて言うのか!?」と皆喉元まで出かかったが、また機嫌を損なうのを恐れてその言葉を飲み込む。
(……思わせぶりな態度で私達をからかってる?それとも本当にリオはここに来た事がある?でもそれはおかしいわ)
リオのいうことが事実ならば、リオが以前サラに語った自身の過去との辻褄が合わない気がした。
(リオが嘘をついた?いえ、そんな風には見えなかったし、私の知る限りリオは今まで嘘をついた事はない。それにベルフィ達もリオとの出会いについて同じような事を言っていたわ。……もしかしてリオの村はこの近くにあった?……いえ、それでもただの村人だったはずのリオがユーフィ様の館へやって来る理由がないわ。ああっ、もう!ナックがリオの村の場所をさっさと教えてくれればハッキリするのに!)
サラは心の中でナックへ文句を言う。
ユーフィはそれ以上の事を話すことはなく、リオの質問は終わった。
「次は誰じゃ?」
「あのっ、じゃあわたしでっ」
「うむ」
アリスは質問をする前にリオに顔を向けるとぺこりと頭を下げた。
「ん?」
「ごめんなさいっ。ほんとはリオさんの代わりにラグナの事を聞こうとも思ったんですけどっ、さっきのユーフィ様の言葉が気になって……」
「いいんじゃない」
「ありがとうございますっ」
アリスがユーフィに向き直る。
「それではっ、あのっ、先程わたしの名前を聞いた時っ、“今回は”と話されたのがとても気になったのですっ。あれはどういう意味だったのでしょうっ?」
「ほう。気になったか」
「はいっ」
「うむ。まあいいじゃろう。あれは言葉通りじゃ」
「はいっ?」
「わしは今まで何度も、いくつもの未来を見た事があるのじゃ。その未来でお前はわしの元に何度か訪れておる。その都度、お前の名は違っていたのじゃ」
「「!!」」」
「……」
ユーフィの言葉を聞き、アリス、そしてヴィヴィが驚く。(ヴィヴィは仮面でその表情は見えなかったが)
サラはユーフィが未来予知を見ている事をナナルから聞いていたのでその事自体に驚きはなかったが、アリスがここへ何度も訪れていた事を知って驚く。
ただ、リオだけは表面上は全く変化なく、いつもの無表情であった。
「そ、そうだったんですねっ」
「そのときの名前はどんなものだったのですか?」
サラがそう尋ねたのはリオがあまりにもアリスの名前を呼び間違えるからだ。
今の話を聞き、リオは未来予知で知ったアリスの別の名前を呼んでいるのでは?という疑問が浮かんだのだった。
それと同時にリオはサラが裏切る未来を知っているのかもしれないとの不安を抱いた。
そして勇者になるのを嫌がる原因はそこにあるのではないかと。
サラの問いにユーフィがニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「サラ、それがお前の質問か?」
「え!?い、いえ……」
「ぐふ。ケチだな」
「で、ですねっ」
ユーフィは心外だと言いたそうな表情を見せる。
「わしは最初に質問は一人一つと言ったはずじゃ。それを実行しているに過ぎぬ。お前達の方が欲張りなのじゃ」
「「「「……」」」」
「さて次は誰じゃ?お前か?」
そう言ってユーフィがヴィヴィを見る。
「ぐふ」
ヴィヴィが何か言おうとしたがユーフィの方が早かった。
「じゃがのう、お前は先程から失礼なことばかり言いよるからどうしようかのう」
ユーフィはまたも英雄と呼ばれる者と思えない意地の悪そうな笑みをヴィヴィに向ける。
「……」
「とはいえじゃ、わしは心が広いからのう」
「「「「……」」」」
皆が心の中で一斉に叫んだ。「どこがだ!?」と。
「答えてやるかのう」
そう言った瞬間、ユーフィの表情が真剣なものに変わり、静かに言った。
「……お前の願いは叶うじゃろう」
「ぐふ?なんだと?私はまだ質問していないぞ」
ユーフィの表情がまたも意地の悪いものになる。
「わしはな、お前も未来で会った事があるのじゃ。その時のお前の質問はいつも同じじゃった。じゃから今回も同じじゃろう。もう一度言うぞ。お前の願いは叶うじゃろう」
「!!」
「ただ、それがお前にとって本当に良い事かはわからぬがな」
「……」
「あのっ、それって……」
「アリス、お前の質問は終わっておるぞ」
「そっ、そうでしたっ……」
ユーフィは何か考え込んでいるヴィヴィを横目にサラを見た。
「さて、残るはサラ、お前だけじゃな」
ヴィヴィの願いとは何なのかサラもとても気になったが、ユーフィの今までの対応から質問しても答えないだろう事はわかっている。
そしてヴィヴィも答えることはないだろうことも。
「どうしたのじゃ?」
「す、すみません」
サラは頭を切り替えた。
「ユーフィ様、私はナナル様からユーフィ様への伝言を預かっていますので今回とは別に時間を頂けないでしょうか?私の質問もこの伝言と関係しておりますのでその時にお話したいと思うのですが」
サラが不安気にユーフィの表情を窺う。
「いいじゃろう。わしもナナルへの伝言を頼みたいと思っていたところじゃ」
「ありがとうございます!」
ユーフィの言葉を聞き、サラは安堵した。




