392話 蜂蜜取り
アルとエルはホリディの巣へ向かう途中も上から目線で物を言う。
「別に私達だけでも大丈夫なんだけどね」
「おう、お前達が暇そうで可哀想だから誘ってやっただけだからな。貸だなんて思うなよな」
「「「「……」」」」
「ぐふ。サラ、ちょっと調教してやれ。いつものように」
「何がいつものよう……」
「ですねっ」
「……アリス」
「じょ、冗談ですよっ、えへへっ」
「……」
サラ達の会話を耳にしてアルとエルはしばらくの間だけ大人しくなった。
リサヴィ達の行手にガルザヘッサが現れた。
アルとエルが同時に呪文を唱え終わり叫んだ。
「「エンチャント!」」
直後、リオの剣が魔法で強化される。
リオは魔法強化の支援を受けた事もあり、ガルザヘッサをあっさりと倒した。
「お前、強いんだな。弱いって噂と強いって噂の両方聞いてたからどっちかと思ってたんだが」
「ええ。私達の援護は要らなかったみたいね」
アルとエルはリオの強さを目の当たりにして驚きを隠せない。
そんな二人を気にする事なくリオは魔法で強化された剣を見ながら首を傾げる。
「どうかしましたか?」
サラの問いにリオが疑問を口にする。
「二つ魔法がかかった割に効果が二倍になってなかった気がするんだ」
「ああ。その事ですか」
その疑問にヴィヴィが答えた。
「ぐふ。同じ魔法は重ね掛けしても意味はない。効果の強い方のみが付加されるのだ」
「そうなんだ」
「もちろん今のは俺の方の効果だけどな」
「もちろん今のは私の方の効果だけどね」
またも見事にハモり、どっちが力があるのかで言い争いを始めた。
そしてホリディの巣のそばまでやって来た。
茂みに隠れて様子を探る。
「……蜂って聞いてたけど大きさが半端ないね」
リオの言う通り、視線の先にある蜂の巣の大きさは直径三メートルくらいはありそうだ。
当然、蜂型の魔物ホリディもそれに似合った大きさであった。
「気をつけてください。ホリディの尻にある針は猛毒です」
「そうなんだ」
猛毒と聞いてもリオは相変わらずどうでもいいような返事をする。
「ぐふ。それでいつもはどうしているのだ?」
「そういえば魔物は殺さないんですよねっ?」
「そうだった」
リオは倒す気満々で抜いていた剣を鞘に収めた。
「パラライズで麻痺させる」
「えっ?じゃああたし達っ、必要ないんじゃっ?」
「俺達の魔法でも効きにくい奴がいるんだよ」
「ホリディ・クイーンよ」
「そうなんだ」
辺りを飛んでいるホリディはどれも違いはなく、ホリディ・クイーンは巣の中にいるようであった。
リオ達が行動に移ろうとした時だった。
ホリディの巣を襲う魔物が現れた。
「あ、マクーだ」
リオがボソリと呟く。
そう、ホリディに襲いかかったのは熊の姿をした魔物マクーだった。
巣を守ろうと襲いかかるホリディをマクーは手で払い除けながら巣に迫る。
毒針を何本か受けたように見えたが、行動が鈍るようには見えない。
「耐性でもあるのかな?」
リオが首を傾げているとアルの怒りに震える声がした。
「あの野郎!俺らの蜂蜜を奪おうとしてやがる!」
「……ホリディからしたら私達も同類だと思いますけど」
サラの言葉にアルとエルが反論する。
「全然違うぜ!」
「そうよ!私達は必要な分しか取らないわ!」
「だがアイツらは全部奪うつもりだ!」
「……そうですか」
どちらにしてもホリディからすれば強奪犯なのだが、論破したところで蜂蜜を取ることには変わりないのでこれ以上話を続けるのをやめた。
そこにリオがどうでもいいような口調で言った。
「マクーは倒していいんだよね」
「おう!遠慮いらないぞ!あんな横取り野郎!」
リオはすたすたと歩き出し、マクーが投剣の射程範囲に入るとすっと短剣を放ち、あっさりとマクー達を葬った。
「マジかよ。リオ、お前本当に強いな」
「ええ。もしかしてあなた勇者に選ばれるんじゃないの?」
「僕は勇者じゃないよ」
リオは今回も同じ答えを返した。
ピンチを救われたホリディ達がリオ達に向かって来た。
お礼を言うため、
なわけはなかった。
「ぐふ。やる気だな」
「恩を仇で返す気かよ!?」
「なんて恩知らずな魔物よ!」
「ですから、彼らからしたら私達も……いえ、なんでもないです」
アルとエルのマヒ魔法、パラライズでホリディ達がバタバタと地面に落ちて痙攣する。
地面がホリディで埋め尽くされる様子を見てアリスが「うっ」と唸って口を押さえる。
「なんかっ気持ち悪いですっ」
「……ぐふ。出て来たな」
ヴィヴィの言う通り蜂の巣の中から一際大きなホリディが姿を現した。
その複眼がアルとエルを捉えて耳障りな鳴き声を発した。
「なんか怒ってますっ。それはわからなくもないですけどっ、ちょっと変な感じですっ」
お互いに見つめ合いながらアルがどこか誇らしげな表情で言った。
「まあ、この蜂の巣には何度もお世話になってるからな」
「きっとクイーンは私達の事を好敵手みたいに思ってるんだと思うわ」
「ぐふ。どちらかといえば『また来やがったのかこの盗人共』という感じに見えるがな」
ヴィヴィの言葉にサラとアリスが頷く。
「魔物の気持ちなんかどうでもいいんだよ!」
「そうよ!さっさとクイーンを押さえて。そのうちに私達が蜂の巣を少し分けてもらうから」
リオとヴィヴィがホリディ・クイーンを押さえている間にアルとエルがささっと蜂の巣に近づき、一部を切り取った。
「よしっ、任務完了だぜ!」
「みんなっ、撤収よ!」
しばらく、ホリディ・クイーンが追いかけてきたがやがて諦めて帰っていた。




