390話 ユーフィの館
サラとアリスは無理をせず、マナポーションを飲まないで重傷者の治療を行う事にしたためベルダ鉱山で三日過ごす事になった。
順番を後回しにされた者やその仲間が情に訴えて来ることもあったが全て断った。
そのため、彼らの逆恨みを買う事もあったが、その者達の順番が来て治療を終えるとその怒りは収まり、多くの者達は謝罪してきた。
二日目以降は救援隊から魔物討伐が終わったと知った商隊が次々と到着するようになり、品不足も解消し始めた。
いち早く到着していたウーミはその頃にはマナタイト購入の商談が済んでおりほくほく顔であった。
ヴィヴィは護衛の合間にベルダ鉱山に来た目的のひとつであるリムーバルリマインダーの修理が出来る者を探した。
修理出来る者は見つかったのだが、残念ながら長く続いた戦いの影響で修理に必要な材料が足りなく修理出来なかった。
サラとアリスが重傷者の治療を一通り終え、ユーフィの館へ向かって出発する時がきた。
ベルダ鉱山からユーフィの館までは馬車で一時間、徒歩だと三時間ほどだ。
リサヴィはウーミの「送りますよ」という言葉に甘えて馬車で向かう事にした。
馬車が坑道をゆっくりとしたスピードで進む。
メインの坑道は普通の大きさの馬車が二台並んで通れるくらいの幅があった。
先に進むと坑道がいくつも枝分かれしていく。
この枝分かれした坑道は馬車がギリギリ通れるものや人ひとりやっと通れるものなど様々である。
いくつかは既にマナタイト鉱石を掘り尽くしたのか入口に立入禁止の看板が立てられていた。
しばらくすると坑道を抜け、反対側に出た。
その先は一本道だった。
ユーフィの館がぽつん、と建っていた。
その館を囲むように結界が張られている。
結界から少し離れたところでウーミが馬車を停止させた。
そしてリサヴィを先頭に結界そばまで歩いて近づく。
「……ぐふ。どうやって入るのだ?」
ヴィヴィは周囲を見渡した後でサラに問うが、サラは首を横に振る。
「私もわかりません。ナナル様は特に何も言っていませんでしたので」
周囲を調べようとしたところで館から誰かが出て来た。
男女の二人でどちらも見た目は二十代前半だ。
魔術士の格好をしているところを見ると彼らはユーフィの弟子のようであった。
容姿がそっくりである事から双子のようだ。
彼らはどこか偉そうな態度でリサヴィのそばまでやって来ると尊大な態度を崩さずに女の弟子、エルが言った。
「師匠はお忙しいのです」
更に男の弟子、アルが続く。
「師匠は面会予約もない、突然の来訪者にお会いする暇などない。とっとと帰れ」
それだけ言うと彼らはクルリとリサヴィに背を向け屋敷へ向かって歩き出した。
それを見てリオが言った。
「じゃあ、力づくで会おう。ヴィヴィ」
リオの声が聞こえたらしく彼らは足を止めて振り返った。
「あなた何を……!!」
リオはリムーバルバインダーから魔法の武器、ポールアックスを取り出すと無造作に結界に向かって振り下ろした。
バシィィ……!!
ポールアックスが結界に当たった衝撃音が響き渡る。
「あ、あなた正気ですか!?」
慌てて戻って来る弟子達。
「リオ、無茶はやめなさい」
サラの注意はリオに届かない。
再び、ポールアックスを振り下ろすと結界にぴしっ、と亀裂が入った。
「なっ!?」
「ちょ、ちょっと!?」
まさか亀裂が入るとは思わなかったようで顔を真っ青にする弟子達。
「あ、この結界、大した事なさそうだ」
リオの呟きにエルが怒りの表情でリオを睨む。
「わ、私の張った結果が大したことないですって!?」
「ああ、そうなんだ。じゃあ納得だ」
「ちょ、ちょっとそれどういう意味よ!?」
リオはエルの問いに答えず更に一撃を加えようとした時だった。
『何事じゃ』
その声が何処からともなく聞こえて来た。
その声にリオは動きを止める。
そして少し首を傾げた。
皆は声の主に注意がいっており、リオのその仕草に誰も気づかなかった。
「し、師匠!?」
「ああ、この声の人がユーフィなんだ」
リオの呟きを聞き、アルがリオを怒鳴りつける。
「おい!お前!師匠を呼び捨てにするとは何事だ!?」
「そうなんだ」
「「『そうなんだ』じゃない!!」」
アルとエルが同時に叫んだ。
サラが姿を見せぬ声の主に向かって言った。
「ユーフィ様!突然の訪問で申し訳ありません!私はナナル様の弟子でサラと申します!」
サラがそう叫んだ直後、声が再び聞こえた。
『エル、結界を解くのじゃ』
「は、はいっ!かしこまりましたっ!」
エルが何事か呟くと結界がすっと消えた。
『アル、エルよ、その者達を屋敷へ案内するのじゃ』
「「は、はいっ」」
『それからエル』
「は、はいっ」
『その後、お主はワシの元へ来い。お仕置きじゃ』
「お仕置き」という言葉を聞き、エルが「ひっ」と悲鳴をあげた。
『あの程度の攻撃も防げない結界など論外じゃ』
「ち、違うんです師匠!」
エルが必死にユーフィに言い訳するが返事はなかった。
隣でアルが「今日の担当、俺じゃなくてよかった」とボソリと呟くのが聞こえた。
絶望した表情を浮かべるエルの隣でアルがリサヴィに笑顔で声をかける。
「サラ様もお人が悪い。あのナナル様のお弟子様ならそうと言ってくださいよ」
先程高圧的な態度で見下していた者と同一人物とは思えなかった。
「はあ」
「説明する暇を与えず高圧的な態度で接してきたのはあなた方ですよ」という言葉をサラは心の中で続けた。




