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39話 合流

 ベルフィ達は依頼を終え、冒険者ギルドを出たところだった。


「ベルフィ」


 聞き覚えのある声にベルフィが振り向くとリオが走ってくるのが見えた。


「リオか……ん?」


 ベルフィはリオの後をついてくる仲間に視線を向ける。


「よくここまで来れたな。ーー彼らのお陰か?」

「うん。神官のサラと魔装士のヴィヴィだよ」

「何?神官?」

「こいつがか?」


 サラを見てべルフィ達が疑問に思うのも無理はない。

 サラは神官服ではなく、一般的な冒険者の格好をしていたからだ。

 冒険者ギルドのそばという事でリオ達は他の冒険者達の注目を浴びていた。


「ここで話すのもなんだ。俺達が泊まっている宿屋で詳しく聞こう」

「わかった」


 ベルフィ達の後に従い宿屋に到着するとベルフィはリオ達に部屋を取るように指示し、一階の酒場の奥のテーブルを確保すると適当に料理を注文する。

 

 部屋を取り終えてリオ達がやって来た。

 サラは席に着くとフードを取り素顔を見せる。

 その美しい顔を見てナックが「うひょー!」と奇声をあげ、カリスは口を半ば開けたまま見とれていた。

 べルフィは特に表情の変化はなかったが、ローズは明らかに不機嫌な顔をした。

 サラが素顔を見せたのに対し、ヴィヴィはリムーバルバインダー以外の装備はつけたまま、つまり仮面をつけたままで素顔を見せる気はないようだった。

 サラはさり気なくパーティの顔触れを確認する。


(ーー夢で見た人達はいないようね)


 リオが改めて紹介する。


「サラは第二神殿で仲間になってくれたんだ」

「で、そっちは?」

「ヴィヴィには旅の途中で魔物に襲われているところを助けてもらったんだ。すごいんだよ、ガドターク二体を一瞬で倒したんだ。それで話をしていたらウィンドに興味があるっていうから連れてきたんだ」

「魔装士がガドタークを倒した?」

「うん、短剣をパッと投げてバンって」

「ほう」


 ベルフィ達はリオが説明下手なのは知ってるので、ヴィヴィは短剣投げが得意なのだと頭に入れる。

 ベルフィがパーティの面々、副リーダーの戦士カリス、盗賊ローズ、そして魔術士ナックを紹介する。


「あ、そうだ、サラなんだけど……」

「リオ、そこからは私が」

「わかった」

「リオから紹介がありましたが、私はサラといいます。このような格好をしていますがジュアス教団の神官です」

「なんで神官服着てないんだ?」


 ナックが興味津々の顔で尋ねる。


「今は神官の冒険者が少ないようで、行く先々で冒険者の勧誘に遭いまして……」


 サラは小さくため息をついた。


「なるほど。それで神官の格好をやめたか」

「ま、サラちゃんの場合は、神官だという事だけじゃなく、その容姿も関係ありそうだけどな。ああ、だからフード被ってんのか」


 サラは小さく頷いた。


「ふんっ、自意識過剰なだけじゃないの!あんたくらいの奴は世の中ゴロゴロいるよっ!」


 ローズが面白くなさそうにサラに食ってかかる。


「何っ!?そうなのかっ!?ローズ、ぜひその場所教えてくれ!」

「うるさいっ!娼館でも回ってな!」


 ナックとローズの掛け合いの合間にカリスがサラに少しキザっぽく話しかけてきた。


「サラは冒険者ランクいくつなんだ?」

「Fです」


 その言葉を聞いてウィンドの面々が驚いた顔をする。


「え?サラちゃん、神官なのにFなの?」

「はい」


 すかさずローズが話に割り込む。


「あんた回復魔法使えんのかいっ!?名ばかりの神官なんていらないよっ!」


 神官が冒険者になる場合、魔法の取得などを考慮してDランク以上からスタートすることが多い。これよりランクが低いという事は魔法が使えない可能性が高いのだ。


「ご心配されるのは当然ですね。ですが安心してください。私は回復魔法を使うことができます」

「そうだよ。サラはすごいんだよ。回復魔法だけじゃなくて、アンデッドを倒す魔法も使えるんだ」

「へえ。リオはサラちゃんが魔法使うとこ見てるんだな?」

「うん、ここへくる途中でいくつも依頼を受けてね、サラには何度も助けてもらったんだ」


 それを聞いてベルフィは理解できないという顔をする。

 

「サラ、何故ギルドでランクアップ申請しなかった?そうすればDランク以上から始められただろう?」

「……それについては事情があるのです」

「事情?」

「はい。こんな事を言うと気分を害されるかもしれませんが、私は冒険者ランクには興味がありません」

「……あんだって?」

「落ち着けローズ。それで?」

「実は私は教団より任務を受けております。その任務を遂行するために冒険者ギルドに入会したに過ぎないのです」

「へえ。サラちゃん、その任務とやらがあるのに俺達のパーティに入っちゃっていいの?」

「目的が同じだと思っておりますので」

「……何のことだ?」


 べルフィの表情が厳しくなる。サラは鋭くなった眼光を正面から受け止める。


「あなた方も金色のガルザヘッサを追っているのでしょう?」

「誰に……って、リオか」

「はい。かの魔物の調査は任務の最優先事項なのです」


 リオはサラの説明を聞いていて「あれっ?そうだったかな?」と思ったものの何も言わなかった。

 リオはサラの目的に全く興味がなかったからだ。

 ベルフィは厳しい表情のままサラに尋ねる。


「一つ確認しておきたい」

「なんでしょう?」

「お前は金色のガルザヘッサの調査が目的と言ったな?」

「はい。任務の一つです」

「俺達は奴を見つけたら殺す。生け捕りなんてしない。必ず殺す。それでもお前の任務と違わないか?」

「はい、問題ありません」

「わかった」

「べルフィ!」

「とりあえすサラとの話は終わりだ。ローズ、お前の意見はあとで聞く」

「……わかったよ」


 ローズが小さく舌打ちをするのが聞こえた。



 べルフィはヴィヴィに目をやる。

 ヴィヴィもべルフィを見ているようだ。ようだ、というのは仮面のせいでどこを見ているかわからないからだ。


「お前はなんで俺達のパーティに入りたいんだ?」

「ぐふ。強いと聞いているからだ」

「それだけか?お前は金色のガルザヘッサに興味はないのか?」

「ぐふ。ない」


 ヴィヴィは即答した。


「ふむ」


 ナックがヴィヴィに話しかける。


「ヴィヴィ、お前のランクは?」

「ぐふ。Eだ」

「お前のランクも低いな」

「ぐふ」


 そこへローズが馬鹿にしたような声で言う。


「ナック、高ランクの棺桶持ちなんているわけないだろっ!コイツらはおこぼれで生きてる奴らだよっ!」

「……」


 冒険者達の魔装士に対する評価は低い。

 ほとんどの者が魔装士は魔術士の落ちこぼれがなるクラスだと思っている。

 実際、多くの魔装士は戦闘に参加せず荷物持ちとして同行する者が多いのも事実だった。

 ヴィヴィは反論しなかったが、代わりにナックが擁護する。


「いやいや。さっきのリオの話聞いてなかったのか?ヴィヴィはガドタークを倒したんだぞ。普通の魔装士とは違うぜ」

「はんっ。あたいは自分の目で見てないからね!こいつの言うことなんて信用できないねっ」

「お前なぁ。ヴィヴィは言い返さないのか?」

「ぐふ。別に」

「ほらっ見なっ!」


 ローズが勝ち誇った顔を見せる。

 ナックがやれやれ、という顔をする。


「まあ、本人がそれでいいならいいけどよ」

「ぐふ」


 べルフィの視線が再びサラに向けられそれにサラは気づいた。


「ベルフィさん、何か?」

「ベルフィでいい。俺だけじゃなくみんな呼び捨てで構わん」

「わかりました。ではベルフィ、何か気になることでも?」

「ちょっとお前達の組み合わせが奇妙なんでな」

「ベルフィ、何が奇妙なの?」


 ベルフィはリオに困ったような顔をする。


「まあ、そうだな。これから仲間になるかもしれないんだ。最初にはっきりさせておこうーーヴィヴィ、おまえはカルハンの魔装士か?」


 その質問はサラが何度もしたが、いつもはぐらかされていた。


「ぐふ」


 今回も肯定したのか否定したかのわからないが、それ以上答える気はないようだった。


「カルハンの魔装士だとマズイの?」


 不思議そうな顔をしてリオがベルフィに尋ねる。


「あんたはほんとーに無知だねっ!」

「ごめん」


 更に文句を言いそうなローズを制し、ベルフィがリオに説明する。


「数年前までカルハン魔法王国とジュアス教団は戦争していたんだ。もし、ヴィヴィがカルハンの魔裝士なら和解したとは言え、お前達、サラとヴィヴィが一緒にいるのは不自然に思う。まあ、サラが異端審問官でヴィヴィを監視しているというのなら別だがな」

「今の話ですが訂正させていただきます。教団とカルハン魔法王国が戦ったというのは正しくありません。異端審問機関が独断で行ったのです。教団の総意ではありませんでした。それと私は異端審問官ではありません」


 サラの訂正のあと、ヴィヴィからも何か話があるかと待っていたが、一向に話す様子はない。

 その沈黙に耐えかねナックが口を開く。


「サラちゃんのその言いよう、サラちゃんは異端審問機関を嫌ってるのか?」

「それはどうでもいいでしょう」


 サラが素気なく対応するとナックではなくローズが反応した。


「ムカつくねっ、あんたっ」

「まあまあ」


 自分の発した言葉で言い争いなるのはごめんだとナックが仲裁に入る。


「で、カルハンの魔装士、お前の意見はないのか?」


 ベルフィはヴィヴィをあえて“カルハンの魔裝士”と呼んだがヴィヴィは、


「ぐふ」


 とだけ答えた。当然意味不明である。


「さっきから気持ち悪い声出すんじゃないよっ!」

「やめろ。で、どうなんだヴィヴィ。”ぐふ”じゃわからんぞ」


 ヴィヴィがぼそりと言った。


「ぐふ。私は教団に興味はない」

「そう言う事を言ってんじゃねえ!」


 カリスはヴィヴィの態度が癇に障ったらしく声を荒らげる。

 ヴィヴィがカリスの方を見たようだが何も言わない。

 ナックがまたも仲裁に入る。

 

「まあまあ。ベルフィ、あんまり詮索するもんじゃないぜ。言いたくないことは誰にでもあるだろう?仮にヴィヴィがカルハン出身でも教団とは争う気はないと言ってるんだし」


 ベルフィはナックの言葉に納得したように頷く。

 ローズとカリスは納得したとは到底言い難い顔をし、ローズはひとこと言わないと気が済まなかった。


「リオ、あんた変な奴らを連れて来たねっ!」


 ”変な奴ら”呼ばわりされ、サラはむっとした表情をしたものの何も言わなかった。

 ヴィヴィは仮面をしているので、当然ながらどう思っているのかまったく読めなかった。


「で、どうするんだ、ベルフィ?」

「そうだな。今日は遅い。続きは明日だ。飯にしよう」



 食事が終わるとベルフィ達は酒をまだ飲むとのことで、リオ達は先に部屋に戻ることになった。

 結局、ヴィヴィが仮面を取ることは一度もなく、一口も料理を口にしなかった。


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