389話 ベルダ鉱山
ベルダ鉱山にウーミの商隊は到着した。
鉱山の入り口付近には鉱山で働くための人達の質素な家が立ち並び、彼ら相手の店もあった。
その規模はちょっとした村であった。
しかし、今はそれらが魔物の襲撃で崩れ落ち、見る影もない。
不幸中の幸いは鉱山で働く者達の被害が少なかったことだ。
魔物の接近に気づき、鉱山内に作られた避難所に逃げ込んでいたからだ。
ただし、その時、鉱山の守りをしていた兵士や居合わせた冒険者達は魔物の襲撃で多くの死傷者を出した。
商隊が到着したとき、坑夫達は復旧作業をしている最中であった。
彼らは商隊に気付くと作業を中断し、欲しい品物の名を叫びながら殺到してきた。
物資不足は深刻だったようだ。
その彼らを押し留めたのはヴィヴィだ。
殺到する彼らの鼻先にリムーバルバインダーを飛ばし、威嚇して足を止めさせたのだ。
「みんな落ち着け!!」
鉱山を守る兵士達が、彼らと商隊の間に割って入る。
集まって来た労働者達は兵士達に追い払われた。
「ありがとうございます」
ウーミが兵士達に礼を述べると兵士達がウーミに謝罪する。
「いや、こちらこそ済まない」
「いえ、状況は大体理解していましたので」
「それにしても早いな。救援隊はそんなに早く街に着いたのか?」
「いえ、僕達は救援隊とは無関係です。でも救援隊の方達とは途中でお会いしましたよ」
「そうなのか。無謀……いや、勇気があるな」
「護衛が頼りになりますので」
「そうか」
兵士達が護衛に目を向ける。
先程坑夫達を追い払った魔装士、若い戦士、フードを深く被った戦士へと視線を移し、その目が女神官、アリスのところで止まる。
「そこの神官、来たばかりで済まないが怪我人がいるんだ。手を貸してくれないか?」
「あっ、はいっ。いいですよっ。いいですよねっ、リオさんっ?」
「いいんじゃない」
若い戦士、リオはどうでもいいような返事をする。
その態度に兵士達がむっとした顔をしたが、口には出さなかった。
アリスがリオに確認するのを見て、とてもそうは見えないがリオがこのパーティのリーダーだと察したからだ。
下手に文句を言って機嫌を損ね、治療を拒否されては困る。
サラが口を開く。
「私も手伝います」
「何?お前も神官なのか?」
戦士姿のサラを見て当然の質問であった。
「はい」
「そうか。では頼む」
サラとアリスが兵士に連れられ怪我人達のところへ向かった。
兵士達はこの時、このパーティがリサヴィでフードを深く被った戦士風の女が鉄拳制裁のサラである事を知った。
残ったリオとヴィヴィは荷馬車の警護についた。
とはいえ、治療のお礼か、兵士も警備を手伝ってくれたので盗難は起こりそうもなかった。
「……しまった」
ぼんやりと立っていたリオがぼそりとつぶやいたのにヴィヴィは気づいた。
「ぐふ?どうかしたのか?」
「うん?ああ。僕、ラグナの事聞くのすっかり忘れていたよ。ほら、全裸戦士と全裸魔術士のいたパーティ……なんだっけかな」
「ぐふ。カレンだな」
「そうだった。彼女達とか途中で会った救援隊だっけ?彼らの中にもしかしたらラグナ使いがいたかもしれないと思って」
「ぐふ。そうか。だが、恐らくいなかっただろう」
「そうなんだ」
「ぐふ。カレンの中にラグナ使いがいればフラインヘイダイ戦で使っていたはずだ。救援隊もそうだ。もしいれば苦戦などしなかったと思うぞ」
「なるほど。確かにね……あ、そうだ」
「ぐふ?」
「もしかしたらこれから会う、なんとかが知ってるかもしれないよね。すごく長生きしてるんでしょ?」
「ぐふ。ユーフィだな。八十は超えると言う話だ。既に百歳を超えていると言う者もいるな」
「そうなんだ。楽しみだな」
言葉とは裏腹にリオの表情も声も全く楽しそうには見えなかった。
とはいえ、いつもの事だ。
重傷患者のいる部屋に向かう途中でアリスがサラに小声で話しかけて来た。
「こっちの方が重傷の人が多いんですよねっ」
サラはアリスが何故小声で話しかけて来るのか疑問に思いながらも頷く。
「そうですね。緊急を要する人から治していきましょう」
「はいっ。それでっサラさんっ」
「はい?」
「わたしっ、エリアヒールを使えるんですけどっ」
「え?エリアヒールですか?」
「はいっ。実は昨日授かった魔法がこれなんですっ。どうしましょうっ?」
ヒールが一人ずつかける必要があるのに対してエリアヒールは文字通り魔法効果範囲内にいるすべての者の傷を癒す。
しかも、効果はヒールより高く、集団戦闘に対して必須と言われる魔法だ。
サラはアリスが小声で話しかけて来た理由を察した。
アリスは授かったばかりの魔法を使いたいのだろう。
効果範囲と治療効果を確かめるにもちょうどいい機会である。
しかし、
「……やめておいた方がいいでしょう。大勢の前で使ったら、あなたを仲間に加えようと思う者達がこぞってやって来ますよ」
「そっ、そうですよねっ。わかりましたっ。使うのはやめますっ。わたしはリオさんの神官なんですからっ」
サラは平然とした顔で話していたが内心では驚いていた。
アリスが授かった魔法、エリアヒールをサラは授かっていない。
授かる魔法は人によって異なるとはいえ気持ちは複雑だった。
サラとアリスは重傷者の中でも更に危険な状態の患者を優先して治療した。
二人とも力をセーブしたがそれでも皆を驚かせるのに十分な力であった。




