386話 救援隊の帰還
救援隊がベルダに帰還した。
早馬で前もって帰還を知った住民達が彼らを大歓声で迎える。
彼らが運ぶ討伐した魔物の中にハンドレッドアイズがいるのを見て大きな響めきも起こった。
しかし、彼らはその歓声に素直に応える事が出来なかった。
余りにも被害が大きかったからだ。
そんな彼らの神経を逆撫でする者達が現れた。
クズ冒険者達である。
その多くはプライドとは無関係の新たにフットベルダからやって来た者達であった。
彼らは先のベルダ解放時、商隊の列に加わって美味しい思いをしたクズ冒険者達の話を耳にしており、自分達もおこぼれに預かろうと隊に加わり我が物顔で観衆に手を振ったのだ。
だが、これは大きな間違いであった。
ベルダ鉱山救援隊は多数の死者を出している。
帰還した者達の中には仲間を失った者達も多くおり、クズ冒険者達のクズ行為を許せるはずがなかったのである。
惨劇の始まりは帰還したある冒険者が近くで観衆に手を振っていたクズ冒険者を注意した事だった。
そのクズ冒険者が笑い飛ばしたのを見て彼はキレた。
怒りに任せてそのクズ冒険者を斬り殺したのだ。
それを皮切りにあちこちでクズ達の悲鳴が響き渡る。
歓声が一気に悲鳴に変わった。
街では決闘以外での殺傷は許されていないが、今回はベルダ鉱山救援の功績とその戦いで仲間を失った彼らの心情を思い遣って罪を問わない事になった。
帰還した冒険者達はこの惨劇を引き起こすキッカケを作ったクズ冒険者達をクズ集団プライドのメンバーだと思っており、プライドとの直接対決が避けられないものになったと考えていた。
そこで有力なパーティが密かに集まり、プライド壊滅の相談を始めようとしていた。
情報収集のためその場にベルダに残っていた知り合いの冒険者達を呼んだのだが、彼らの話を聞いて肩透かしを食らうことになった。
「決意に水を差して悪いんだがプライドはもうないぞ」
「何?それはどういう意味だ?」
「もう壊滅したって事だ」
「なに!?壊滅しただと!?」
「ああ。クズ集団プライドを作ったクズとそのパーティ他主だった奴らはリサヴィが始末した」
「リサヴィが!?」
「おいおい、“表向きは”魔物に殺された、だろ」
「ああ、そうだった。奴らはデバグ・デッドとフラインヘイダイにやられたって事になってる」
リサヴィは真実を語っているのだが、悲しい事に誰も信じていなかった。
その信じていない者達が更に他の者達にさも本当のことのように話すので益々真実は遠のいていった。
それはともかく、その話を聞いても帰還した冒険者達はまだ半信半疑であった。
「だが、あくまでも頭を潰しただけだろ。まだクズ共は五十人以上は残っているだろ。数は脅威だぞ」
「慌てんなって。話は最後まで聞けって」
「ああ、悪い。続けてくれ」
「おう。プライド残党だが、約半数はそれを知ってベルダから逃げ出した。残りの奴らはリサヴィに媚を売って再起を図ろうとしたんだが、見事に失敗してその場から逃走。それを公衆の面前でやったもんだから完全に終わった」
「ありゃ見ものだったな!」
「ああ!マジで笑わせてもらったぜ!何が“リサヴィ団”だ!」
ベルダに残っていた冒険者達がその時の光景を思い出しながら腹を抱えて笑う。
それでやっと帰還した冒険者達もプライドが壊滅した事を信じた。
「くっそ。俺もそれ見たかったぜ!」
「それでそいつらは逃げた後どうなった?」
彼らの一人が笑いを収めて質問に答える。
「そいつらのほとんどはリサヴィを恐れてベルダから逃げ出したぜ」
「……そういうことだったのか」
そう呟いたのはリサヴィに「プライドに狙われるぞ」と警告した冒険者だった。
「どうした?」
「いや、帰還途中にリサヴィと会って重傷人の治療をしてもらっただろ?」
「ああ」
「それであのときリサヴィに『治療しろ』とか『パーティ入れ』とか喚いていたクズ達がいたよな」
「ああ。リッキー……いや、その、サラが勇者と思っている戦士にボコられた奴らな」
「そう、それ。俺、その後、リサヴィに警告したんだ。『そいつらはプライドのメンバーだから気をつけろ』ってな。だが、彼らはすごい余裕の顔してたんだ。それが不思議だったんだが、その時には既にプライドを潰してたからだったんだな、って思ってな」
「そういう事か」
「はははっ。確かに既に潰した集団をバックに脅しても通じるわけがないな」
「リサヴィも意地が悪いな。あのクズ達のことを陰でこっそり笑ってたに違いないぜ!」
「はははっ滑稽だな!」
「今頃奴ら、プライドがなくなってることを知って脅えてるだろうな」
「言った事も後悔してるぜ」
「いや、それどころじゃないんじゃないか。あいつらCランクの、それも大した腕もないのにプライドの名を使って散々威張り散らしてたからな。もう今までの“礼”をもらってんじゃないか」
「それはあるな!」
「おう!あるある!俺だって見つけたら今までの礼をタップリしてやるからな!」
皆が笑うなか、ふとある事に気付いた者がいた。
「……ちょっと待て。て事はだ、帰還した時に隊に加わって来たクズ共はプライドじゃなかったのか?」
「ああ。アイツらか。違うぞ。ほとんどはプライドとは無関係のヘッドベルダからやって来たクズ達だ」
「おいおい、そりゃあ、プライドがいなくなった代わりにヘッドベルダのクズが補充されたってことかよ!?」
「まあ、そうなるな。だが、そいつらも“あの惨劇”で数を減らした」
「フットベルダへ逆戻りした者達もいるみたいだぞ」
「……それで今度はプライド残党が戻って来たりしないだろうな」
「はははっ、なんの冗談だよ。笑えないぞ」
「いや、今、お前笑っただろ?」
「それよりだ!今の話はありえるぞ!なんせプライドを壊滅させたリサヴィはこのベルダを離れているんだからな」
「でもよ、ユーフィのところとの往復だろ?すぐ戻ってくるだろうし、流石にないだろ?」
「いや、そうとも限らないぞ。奴らのほとんどはベルダ所属のはずだ。ベルダをホームにしてる者だって多かった。遅かれ早かれ奴らは戻って来るぞ」
皆が深刻な表情になる中で、あるパーティのリーダーが立ち上がった。
「なら俺達のやる事は決まったな。今後、プライドのようなクズ集団をベルダに作らせないようにすることだ」
「だな。リサヴィが俺達の代わりにベルダの大掃除をしてくれたんだ。これからはベルダ所属の俺達の仕事だ!」
「おう!」とその場にいた冒険者達が叫んだ。




