383話 クズの利用法
リオは珍しく、不機嫌そうな表情をしていた。
「そんなに残念でしたか?彼らのこと」
サラのいう“彼ら”とは先程、あほ面晒して逃げ出したクズ集団プライドの残党の事だ。
サラの問いにリオが頷いた。
「二十九人もいればいろいろ捗りそうだったのに」
「捗るって……彼らに何をさせる気だったんですか?」
「ラグナだよ」
「ラグナ、ですか?」
「うん。ラグナ使いのグエンが言ってたでしょ。絶望の中でラグナに目覚めたって」
「確かにそんな事を言っていましたね」
「でも僕はその絶望とやらを味わった事がない。これまでいろんな強敵、と言われる魔物と戦って来たけどダメだった。だからグエンと同じ境地になるという前提にすら辿り着かなかった」
「ぐふ、なるほどな。それで奴らを絶望させてラグナに目覚めるところを見ようとしたわけだな」
ヴィヴィの言葉にリオは頷く。
「死ぬ寸前まで追い詰めればきっと絶望するでしょ?一人ぐらいラグナに目覚めるかもしれない。目覚める者がいたら僕がラグナに目覚めるヒントになるかも、と思ったんだ」
「は?あなた何を……」
「ぐふ。いい考えだ」
「流石ですっ、リオさんっ」
「え?ちょっと……」
サラはリオの考えに納得した二人を見て、自分の考えがおかしいのかと不安になった。
(いえ!私はおかしくなわ!彼らがおかしいのよ!!)
サラが葛藤しているうちにヴィヴィがリオの作戦の問題点を指摘する。
「ぐふ。だが、お前は大事な事を忘れている」
「ん?大事な事?」
「ヴィヴィさんっ、それは何ですかっ?」
「ぐふ。奴らはクズだ。それも圧倒的に実力の劣るな」
「それはわかってるけど、クズじゃダメなのかな?」
「ぐふ。私の記憶ではグエンはこう言っていたぞ。“絶望の中で生にしがみつく”と」
「うん。あのクズ達も必死になるんじゃないかな」
「ぐふ。そしてこうも言っていたはずだ。“剣は折れても心は折れなかった”」
「あっ……」
「ぐふ。気づいたようだな。確かに奴らは必死に生にしがみつくだろう。しかし、奴らの場合は“剣は折れて……」
「ああっ、心もぼっきぼきっ、ことですねっ?」
ヴィヴィの後をアリスが引き継いだ。
「ぐふぐふ」
そうだと言わんばかりにヴィヴィが何度も頷く。
リオもヴィヴィの言葉を聞いて納得した。
「そうか。”クズじゃ、ダメなんだ”」
サラはリオのその言葉に危険なものを感じ、慌てて訂正する。
「リオ、クズじゃなくてもやってはダメです」
「何故?」
「な、何故って……」
サラはリオが冗談や嫌味でもなく、本当にわからない、というような表情をしたので言葉に詰まった。
「……人に迷惑をかけてはダメです」
「そうなんだ。まあ、あまり有効な気がしなくなったから別の方法を考えるよ」
サラはリオがあっさり断念した事に安堵しながらも釘を刺すのを忘れない。
「リオ、新しい方法が浮かんだら実行する前にまず相談してください」
「わかった」
リオはどうてもいいような返事をした。
サラはその返事に不安を抱いたが、強引に自分を納得させた。
商業ギルドに着くとすぐにウーミがやって来た。
「リサヴィの皆さん、よろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願いします」
そこでウーミがちょっと躊躇しながらサラに尋ねた。
「ところで、許可証の方はどうですか?ギルドから貰えましたか?」
「いえ」
その言葉を聞き、ウーミはほっとする。
「あ、すみません。もし貰っていたら僕の依頼を受ける必要はなかったと思ったら、ちょっとほっとしてしまいました」
「ぐふ。気にするな。許可証をもらっていたとしても私達だけなら徒歩だ。鉱山に着くのはこちらの方が早いだろう」
「そうですね。楽に移動できることを考えれば誘って貰えてよかったと思います」
「ですねっ」
「そ、そうですか。そう言って貰えると助かります」
そこへウーミと同じイルシ商会の者らしき人がウーミの側にやってきた。
リサヴィの面々に軽く会釈をした後、ウーミに何事か小声で話す。
リサヴィの面々はウーミの表情が困惑気味に変わったのを見ていい話ではないと気づく。
「……わかりました。私が直接話します」
「お願いします」
そう言ってその者はやって来た方向へ戻っていった。
「何か問題ですか?」
サラの問いにウーミが困ったように頭をかく。
「はあ。まあ、予想通りといいますか。僕達が鉱山に向かうのを知って便乗したいという方達が何人かいるようなんです。あっ、でも安心してください。約束通り、断って来ますから!あと、もうすぐ出発ですから馬車に乗って待っててください」
そう言ってウーミは走ってどこかへ消えた。
「では、私達は馬車の中で待っていましょう」
「ぐふ」
「はいっ」
「わかった」
ヴィヴィが歩きながらボソリと呟く。
「ぐふ。しかし、キチンと断れるのか。アイツは商人として甘いからな」
「そうですね。まあ、信じて待ちましょう」
それから暫くしてウーミが戻ってきた。
その表情は硬い。
「ぐふ。失敗か」
ヴィヴィの言葉にウーミは引き攣った笑みで否定する。
「いえいえ、ちゃんと断って来ましたよ!他の馬車を護衛する余裕はないと」
「では何故そんな顔をしてるのですか?」
「えっと、その、馬車の同行は断ったのですが、その代わり荷物を届けて欲しいと……」
「馬車にそんな余裕はあるのですか?」
ウーミがリサヴィに頭を下げる。
「すみませんが、こちらの馬車に荷物を置かせて貰えませんか?」
リサヴィが乗る場所は定員は六名なので二名分の空きがあるとはいえるが、ヴィヴィのリムーバルバインダーが結構大きいのでそこまでの余裕はない。
「まあ、この馬車はあなたのですし、私達に影響がなければいいですけど」
「ありがとうございます!」
こうしてウーミの商隊は他の商会の荷物まで運ぶことになったのであった。
ところで、
リサヴィにフラインヘイダイ討伐の共闘を持ちかけていたパーティ、カレンだが、彼女らは街道の魔物討伐に出掛けている。
リサヴィと同じ依頼を受けられない事もあるが、ギルドに行った際に他のパーティにこの依頼を一緒に受けないかと誘われたのだ。
彼女達はおだてに滅法弱かった。
相談を持ちかけられた冒険者達が好みのタイプだったこともある。
そういう訳でその誘いに快諾したのだ。
ヴィヴィ曰く、“黒歴史”にまた一ページが加えられるのかもしれない。
とはいえ、彼女らを誘ったのはクズ冒険者ではなかったことを付け加えておく。




