38話 インターミッション その1(サラ視点)
新規の方、この第2部から読み始めても大丈夫、のはずです。
私はサラ。
神殿都市ムルトにあるジュアス教団第二神殿所属の二級神官よ。
第二神殿の神官長であり、十年前の魔族侵攻を食い止めた六英雄の一人であるナナル様との会談で私はもっと強くなりたい、とうっかり口を滑らせた……いえ、直訴したおかげでナナル様から直々に地獄の特訓、ではなく指導を受けることができ、とても強くなった。
ナナル様によれば既にAランク冒険者に匹敵する力を持っていると言われているけど、ナナル様には今だ足元にも及ばないので今いち実感が湧かない。
そんな私は以前から悪夢にうなされていたんだけど、それが未来予知である可能があるとわかったの。
何体もの魔王が出現し、世界を破壊してく悪夢。
その魔王達を統べる、魔王の中の魔王が私に向かって「裏切り者」と呼んだ。
夢の中の私はその魔王を知っていた。
かつて勇者と呼ばれ共に世界を救うために戦った大切な仲間。
それが魔王となって世界を滅ぼす側に回っている。
私に言わせれば彼の方が裏切り者なのに、「裏切り者」と呼ばれた時、私の心は酷く痛んだ。
それが事実であるかのように。
そして魔王が手にした魔剣を私に振り下ろすところで目覚めたの。
ちなみに勇者にはどうやってなるかというと、
神官が六大神に勇者候補の名を告げ、その中から選ばれた者に勇者の力を与えると言われているわ。
ただ、神官であれば誰の声でも神に届くというわけではなく、高位の神官が告げた名のみが神に届くと言われているわ。
だから、冒険者は強力な力を持つ神官の仲間を欲するのよ。
自分が勇者に選ばれるためにね。
私が今後どう行動すべきか悩んでいる時に駆け出し冒険者のリオが第二神殿にやって来た。
夢で見た魔王は青年の姿をしていたから気づかなかったけど、その夜再び見た未来予知で確信した。
リオがあの魔王!
やがて世界を滅ぼす、私を「裏切り者」と言った魔王だと。
私はその事をナナル様に相談して、彼と共に旅に出る決意をしたわ。
私が彼を裏切らなければ魔王になる事はない。
仮に今、彼を殺したとしても他にも魔王は出現するのだ。
彼は魔王になる前は勇者だった。
魔王に唯一対抗出来る勇者を失うわけにはいかない。
こうして私はリオと共に旅に出ることを決意したわ。
ただ、ここで問題が一つあったの。
私がナナル様から直接指導を受けてとても強いのは周知の事実となっていたわ(陰で”鉄拳制裁のサラ“なんてとんでもない二つ名で呼ぶ者もいるけどね!)
それに自分で言うのもなんだけど美人で結構モテるのよ。
だから、冒険者からの勧誘を頻繁に受けていた。もちろん全部お断りしていたけど。
その私が一目で駆け出し冒険者とわかる彼の誘いに乗るのを周囲の人達は納得しないはず。
そこでナナル様から表向きの任務を頂いて、それを行うには高ランク冒険者の力が必要ということにしたの。
幸いにも彼が一緒に行動していたパーティ、ウィンドは全員Bランクの冒険者だったので条件をバッチリ満たしていたし。
それで周囲の者達も一応納得したみたい。
ともかく、私はリオと一緒に旅をする事になったわ。
最初の目的はリオが神殿都市ムルトまで一緒に来たパーティ、ウィンドと合流すること。
彼はこの街まで一緒に来たパーティに神官勧誘の指示を受けて一人残っていたの。
正直、彼が神官を勧誘できたとは思えない。
私が彼と旅に出ることを決意したのだって、未来予知で見たからでそうでなければ、承諾することは絶対になかったわ。
神官勧誘は建前で、本当はリオをムルトに置いていくつもりだったんじゃないかとさえ疑ったわ。
リオと旅を始めて彼の事がだんだんわかって来たわ。
彼は人として色々と欠落していた。
まず、無感情。
表情は変わるんだけど、明らかに作り物とわかる。
こういう時はこういう表情をするんだ、という知識で変えてるみたい。
更に、記憶喪失、色盲、感覚鈍麻、味覚音痴、とわかる範囲でもこれだけの欠陥を抱えていたわ。
これらの原因は彼の過去の出来事が関係あると思っている。
彼の村は金色のガルザヘッサと呼ばれる魔物に襲われ彼を残して全滅したらしい。
そのショックが影響していると思うけどそれを確かめるには彼の過去を知る人物に会うしかない。
そして一番重要な彼の力だけど、見た目通り駆け出し冒険者の力しかなかったわ。
魔王どころか勇者の片鱗さえ見えない。
私は未来予知で見た人物はリオじゃなかったのかもと疑い始めていた。
そんなときに彼女と出会う。
彼女の名はヴィヴィ。
彼女の冒険者クラスはカルハン魔法王国で生まれた魔装士だ。
一般的に冒険者内で知られる魔装士は荷物運び専門と考えている者が多い。
そのため、正式なクラス名ではなく、“荷物持ち”や“棺桶持ち”と蔑称で呼ばれる事が多い。
しかし、彼女はそれらの魔装士とは明らかに一線を画していた。
その例が魔装士の特徴とも言える、両肩に装備した大きな盾、リムーバルバインダーの操作技術だ。
これは高度な空間認識能力が必要とされ、カルハンにさえ、自由自在に扱える者はほとんどいないという。
しかし、彼女はこれを自由自在に操り、リオの窮地を救ったのだ。
ちなみに彼女は魔装士の標準装備である仮面を常に身につけており、そのふっくらした魔装着により外見で女性であることはわからない。
あと、私と同等の美女だと本人が言ったことを付け加えておくわ。
そうそう、これで思い出したけど、リオには美的感覚もなかったわね。
私に「美人?」なんて聞いたのよ!!
……こほん。
ヴィヴィは私達に同行を求めてきたわ。
リムーバルバインダーを自由自在に操るとはいえ、後衛職がたった一人で旅してるなんて明らかにおかしい。
それにリオに向ける視線が私の心を不安にさせた。
ヴィヴィも私と同じでリオに何か目的があって近づいた気がしたのよ。
だから私は同行に反対したんだけど、何も考えていないリオはあっさりOKして、三人で旅をする事になったわ。
まあ、リオが方向音痴で森を抜けられないという理由もあったから拒否できない状況ではあったんだけど……。
依頼をこなす中でリオは状態異常耐性が強いことがわかったわ。
それだけでなく、回復魔法ヒールまでレジストして無効化してしまった。
レジストは本来、自分に害を及ぼすものにしか働かないと思っていたからこの時は驚いたわ。
やはり、リオは他とは違うモノを持っていると。
今は神官の冒険者が少ないらしく、私の神官服(と容姿)が目立って勧誘がしつこいので戦士姿に変え、フードを深く被って旅することにしたわ。
ヴィヴィには自意識過剰と言われたけど無視無視。
その後も三人で依頼をこなしながらも旅を続け、ウィンドと待ち合わせの街に到着したのよ。
次話より本編が始まります。
リオを監視するサラの前にそれを邪魔する大きな壁が立ち塞がることになります(笑)。
ご期待ください。




