379話 そしてまた濡れ衣を着せられる
リオはピクリとも動かなくなったデバグ・デッドを観察しながらアリスに尋ねる。
「聞き忘れてたんだけど、こいつの弱点は?」
「えっ?あ、はいっ、デバグ・デッドはとても生命力が強くて死に難いので全身を燃やすかっ、これでもかってくらい斬り刻むかっ、今っ、リオさんがやったようにプリミティブを抜き取るのが有効だと言われていますっ」
「そうなんだ。じゃあ、これ正解だったんだ」
「はいっ、流石わたしのリオさんですっ!って、きゃっ、わたしのだなんてはしたないですっ」
「そうなんだ」
そこへ一度目の戦いを見ているCランクパーティの一人が不安を口にした。
「なあ、そいつ、本当に死んだのか?」
「リオ、念の為、厄介な尻尾は斬り落としておいてください」
「わかった」
リオがサラの指示に従いデバグ・デッドの尻尾を斬り落とす。
それで安心したのか、斬り落としたジャバラ尻尾を観察しているリオのもとにCランクパーティが近づいて来て疑問を口にする。
「おい、リオ」
「ん?」
「さっきのはなんだ?」
「ああ、ナックが言ってたんだけど男には三本目の腕があって……」
「誰がそんな下ネタの話聞いた!?」
「ん?」
「プリミティブを短剣で突き出した事だ!偶然か?その、プリミティブの位置を知ってたのか?」
「どうだろう?」
「いや、そこは『どうだろう』じゃないだろ」
「なんとなく?」
「リオ、私に聞かれても困ります」
リオに目を向けられたサラがため息をついて言った。
そこへ長髪女戦士が割り込んで来た。
「ねえ、ちょっとその剣見せてくれない?」
長髪女戦士は興味津々の表情でリオが腰に下げている剣を見ていた。
彼女はフラインヘイダイによって鎧や服だけでなく、主武器の魔法剣もダメにされて、今は予備の普通の剣を装備していた。
リオの剣が魔法剣と互角に渡り合っているように見え、彼女はフラインヘイダイ戦の時から興味を持っていたのだった。
しかし、リオは自分の剣ではなく、観察していたデバグ・デッドの尻尾を彼女に差し出した。
「そっちじゃないわよ!あなたが腰に下げてる二本の剣の方よ!」
「そうなんだ」
「てか……あなたさっきからワザとやってる?」
「ん?」
「それがリオさんなんですっ!」
リオの代わりに答えたアリスの顔はなんか誇らしげだった。
「あ、そう……」
リオが腰の剣を長髪女戦士に渡すと彼女だけでなく、残りのカレンのメンバー、そしてCランクパーティも見にやって来た。
女魔術士が剣を観察しながら興味深げな表情をしながら言った。
「……やっぱり魔道具じゃないわね。でも普通の剣とも違う気がするわ」
「どう違うの?」
長髪女戦士の問いに女魔術士は少し困った顔をしながら答えた。
「上手く言えないんだけど魔法の乗りが良かったのよ」
「フラインヘイダイ戦でエンチャントを使った時のこと?」
「ええ。感覚的になんだけど、あの時の攻撃力はリーダーの魔法剣より上だったと思うわ」
「本当!?」
「絶対とは言わないけど。剣の製法が関係しているのかしら?そっちは専門じゃないからよくわからないけど」
「この剣はどこで手に入れたの!?」
長髪女戦士がリオに迫るとアリスがさっとその間に割って入る。
「させませんっ」
「……あなた、なんか鬱陶しいわね」
「そんな事ないですよっ」
「リオ、それでどうなの!?」
長髪女戦士の問いをリーダーが引き継ぐ。
彼女らの問いにリオは淡々と答える。
「セユウだよ。フォロっていう鍛冶屋から買ったんだ」
「フォロ?……聞いた事ないわね……」
「俺達も知らないな」
女魔術士の話から彼女らは有名な鍛治師が手掛けたものと思っていたのだが、カレン、Cランクパーティ共にその名に聞き覚えがなく首を傾げる。
長髪女戦士はリオに聞くのは無駄だと思ったのか助けを求めるようにサラに見た。
サラは困った表情をして言った。
「私は名前を覚えていませんが、その名前は間違っている可能性があります。リオは名前も、名前を覚えるのが苦手なので」
「そ、そう」
長髪女戦士の視線に気づき、ヴィヴィとアリスも首を横に振った。
サラが補足する。
「しかし、セユウの街の中央広場で買ったのは間違いありません」
「そうなんだ」
「リオ、あなたに言ったんじゃありません」
「あ、ありがとう。今度寄ったとき探してみるわ」
リサヴィ達はベルダに戻って来た。
ギルドに向かうとリサヴィがやって来たとき逃げ出したプライドのメンバーが戻っており、彼らのリーダーの帰還を待ちわびていた。
入って来たリサヴィの姿を認め、期待を込めて彼らと一緒に依頼を受けたはずのプライドのリーダー達の姿を探すが、その姿はなかった。
彼らの心に不安が広がる。
そこにCランクパーティが懐から黒いカードを取り出して掲げた。
「お前らのクズリーダー達は死んだぞ!」
それらがリーダー達の冒険者カードだと察し、プライドのメンバーは恐怖に震えた。
そこでまたもCランクパーティの盗賊が余計なひと言を放った。
「お前らのリーダーはリオに瞬殺されたぜ!」
盗賊の放った“瞬殺”の言葉をプライドのメンバーは言葉通りに受け取った。
彼らの誰かが叫んだ。
「リ、リサヴィの野郎!ついにやりやがった!」
その声の主にリサヴィの視線が集中する。
瞬間、
「ひゃああっー!!」
その者はみっともない悲鳴を上げてギルドから逃げ出した。
それを皮切りに次々とプライドのメンバーがギルドから逃げ出した。
「……なに?あれ?」
カレンのメンバーが首を傾げる中でサラが冷めた声で言った。
「知りません」
サラの態度とは対照的にCランクパーティのメンバーがガッツポーズを決める。
そんな中でサラが盗賊を睨んだ。
「あなた、本当にいい加減にしなさい」
「ひっ!?」
「あなたの妄想に大迷惑ですっ」
「ぐふ。奴らはリオがクズリーダーを殺したと受け取ったぞ」
盗賊はリサヴィの怒りを買い、顔を真っ青にするとその場に正座し、頭を地に擦り付けるようにして謝った。
「す、すまない!悪気はなかったんだ!嬉しくてついっ」
「……ギルドには“正しく”説明してください」
「も、もちろんだっ!」
「ぐふ。もう手遅れかもしれんがな」
「……」




