375話 友情の危機
Cランクパーティは、全滅したCランククズパーティのように本能のままに行動する事はなかったが、女性の裸に興味がないわけではない。
それが美女なら尚更だ。
戦闘が終わった事もあり、未だに全裸でいる女魔術士と長髪女戦士につい目がいってしまう。
そんな姿を見て、アリスが冷やかな声で言った。
「奥さんに言いつけますよっ」
アリスは依頼の手紙を渡した女性の夫の冒険者に言ったのだが、Cランクパーティ全員がビクッと反応した。
実は彼らは全員結婚していたのだった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!今、俺達、微妙なところなんだ!」
「微妙なとこ見えたんだ」
リオの言葉に反応して女冒険者達がその冒険者を睨みつける。
「そ、そんなこと言ってないだろ!」
「そうなんだ」
「リオ、お前、ワザと言ってるんじゃないだろうな!?」
「どうだろう?」
「いや、そこは『どうだろう?』じゃないだろ!」
「それでっ、やっぱり浮気がバレたんですかっ?」
「やっぱりってなんだよ!?」
「冒険者の離婚の原因は夫の浮気がナンバーワンだって聞いてますっ」
「違う!俺は違うぞ!」
「じゃあ何ですかっ?」
アリスだけでなく、何故か女性陣全員の注目を浴びて焦りまくるその冒険者。
「その、ほら、ベルダってクズ冒険者が急増しただろ?」
「さあっ?今のベルダしか知らないのでっ」
「あ、ああ。来たばっかだったな。前はこんなんじゃなかったんだ。あのクズリーダーがプライドなんてクズ集団を作ってから急激に悪化したんだ」
「そうなんですねっ」
「うちの嫁もさ、俺の嫁だって事でアイツらに何度か嫌がらせを受けてな。そんな時にさ、クズの巣窟だったマルコからクズ冒険者が減って居心地が良くなったって話を聞いたみたいで、マルコに帰りたいって言い出してるんだ」
「ああ、離婚するんですねっ」
「しないからっ!」
そこでCランクパーティの魔術士がその冒険者の援護をする。
「だ、大体、裸でいる方も悪いだろ。それじゃあ『見てください』と言ってるようなもんだぞ!」
彼はまるで自分が責められているかのように必死であった。
「そ、そうだ!そんな格好してる方も悪い!」
彼らの抗議に全裸女魔術士が反論する。
「好きで裸でいるんじゃないわよ!あの変態オートマタに服を溶かされたのよ!」
「そうよ!」
全裸女魔術士に全裸長髪女戦士が同意する。
「それにしたって着替えくらい持ってるだろ!?」
「そうだぜ!戦闘も終わったってのになんでまだ裸なんだよ!?」
「シールドの効果が切れるまで服を着れないのよ!」
フラインヘイダイとの再戦前に防御魔法のシールドをかけたのだが、その効果がまだ切れていないのだ。
シールドは融通がきかなく、張った後で服を着るのは難しい。
無理に着ようとするとシールドが過剰反応して破いてしまう事もあるのだ。
「そ、そうか。それは悪かった。俺は裸の状態で防御魔法かけたことなかったからわからなかったんだ」
「私達だって初めてよ!今知ったのよ!そうと知ってれば服着てから使ったわよ!!」
アリスが首を傾げながら尋ねる。
「なんで服着てから来なかったのですっ?救援に来てくれたのはわかりますけどっ、私達他人ですよっ」
「リーダーが急かして服着る時間をくれなかったのよ!」
そう言って全裸女魔術士がぱんつを奪われなかったリーダーを睨むと、彼女はすっとその視線を逸らしてその理由を述べた。
「フラインヘイダイに逃げられるでしょ」
「せめて下着くらい着けさせてくれてもよかったんじゃないの!?」
そこへぱんつを奪われなかった女盗賊が口を開く。
「リュックから下着出してどれ履くか選んでる間に日が暮れる」
「暮れないわよ!」
「そんな時に選ぶわけないでしょ!」
全裸女魔術士に続いて全裸長髪女戦士が叫ぶ。
「今、結論が出たわね。そんな時にぱんつなんか呑気に履いてる場合じゃないって」
「「……」」
もちろん、リーダーの言葉に全裸女魔術士と全裸長髪女戦士は納得しなかった。
そうこうするうちに全裸女魔術士のシールドの効果が消えた。
「着替える間、壁になって」
「「……」」
「ねえ?」
「「……」」
ぱんつを奪われなかった者達は非協力的だった。
ぱんつを奪われた側は素っ裸にされたショックを受けつつもどこか勝ち誇った表情をしている(被害妄想補正あり)のが気に食わなかったのだ。
リーダーが冷めた口調で言った。
「今更隠す必要ないでしょ。ここにいる男達にはじっくり見られてるんだから」
「「「「じ、じっくりは見てないぞ!!」」」」
Cランクパーティの叫び声が見事にハモった。
「混浴温泉でも見られたことあるでしょ」
「温泉で裸は普通でしょ!」
「大体、見せる相手もいないのに勝負ぱんつなんか履いてるから狙われるのよ!」
ひん剥かれなかった女盗賊の言葉に勝負ぱんつを履いていた全裸女魔術士が顔を真っ赤にする。
「な、なんですって!?」
女盗賊にリーダーが同意する。
「そうね。勝負する相手がいないから変態オートマタが勝負してくれたんじゃないの?」
「なっ!?」
「あ、それだわ、きっと。それで口だけの奴は臭いフェチね」
女盗賊が間髪入れずにリーダーに同意し、長髪女戦士を挑発する。
「なななな、なんですって!?」
顔を真っ赤にして全裸女魔術士と全裸長髪女戦士が二人を睨む。
その後すぐ全裸長髪女戦士が何か思いついたらしく、リーダーと女盗賊に冷ややかな視線を向けて言った。
「あなた達、見苦しいわよ。あー、ヤダヤダ。モテない女って」
「「な……」」
「そうよっ、その通り!よく言ったわ!」
涙目になっていた全裸女魔術士が笑みを浮かべる。
「ふ、ふざけたこと言うんじゃないわよ!」
「そ、そうよ!変態オートマタに好かれるよりマシよ!マシ!」
「あーあー、負け猫の鳴き声が聞こえるわ〜」
「ね〜」
「「もう許さないわ!」」
「「それはこっちのセリフよ!」」
友情で結ばれていたはずのパーティ、カレンの絆は切れる寸前であった。




