374話 フラインヘイダイの弱点
カレンのメンバーは邪魔者のクズ達がいなくなったのでいつでも参戦できる状態であった。
しかし、リサヴィとの連携をした事がないので戦いに加わるタイミングを掴みかねていた。
そんな中でヴィヴィの動きが鈍くなってきた。
流石のヴィヴィもリムーバルバインダーをこれほど長く精密に操作する事はなかったので疲労が蓄積して来たのだ。
リオがヴィヴィに声をかける。
「ヴィヴィ、代わろうか?」
「リオさんっ!?」
そばにいたアリスが驚きの声を上げる。
フラインヘイダイは男に対しては非情だ。
参戦するという事はどちらかが死ぬ(破壊)するまで終わらないだろう。
「ぐふ!」
リオはその声を了承と判断して剣を抜き、口だけフラインヘイダイに向かっていく。
口だけフラインヘイダイがリオの参戦に気づき、口を歪める。
「テキ、ハイジョ!」
右手の刀がリオを襲う。
リオはそれを剣で受け流し、一撃を入れるが全くの無傷ですぐ様反撃が来る。
それをリオは難なく避けた。
フラインヘイダイの攻撃はリオに全く当たらないが、優勢なのはフラインヘイダイであった。
リオの攻撃は何度もヒットするが、リオの剣は魔道具ではない、強化魔法もかけられていないただの剣である。
マナタイトと鉄の合金で出来ているフラインヘイダイの体に傷ひとつつける事も出来ず、悉く跳ね返される。
リオが関節部を狙うとリアクティブバリアが発動して防がれた。
ヴィヴィは少し離れて休息しつつもリオの要求があればいつでもリムーバルバインダーから魔法の武器を取り出せるように準備する。
そんな時だった。
「エンチャント!」
その声と共にリオの剣に魔法の光が宿る。
全裸女魔術士がリオの武器に強化魔法をかけたのだ。
リオとフラインヘイダイの戦いも割って入って戦闘に加わるのが難しいので援護に回ることにしたのだった。
リオが魔法で強化された剣でフラインヘイダイに攻撃をすると関節以外のところに命中してもリアクティブバリアが発生するようになった。
それはリオの剣でも魔法で強化すればダメージを与えることが出来る証でもあった。
「シ、シブトイ!」
フラインヘイダイが人間臭く愚痴を吐く。
パンツをかぶって怒り狂っている姿はとても滑稽であった。
リオは戦いの中で気になっている事があった。
ぱんつである。
フラインヘイダイは頭を狙うとわざわざ剣で受ける。
剣が間に合わない時には腕で攻撃を受けた。
その行動はリオの剣が魔法で強化される前からだ。
強化されてからは明らかに頭を守るような行動が目につくようになった。
頭が弱点である可能性もあったが、リオはあの頭は飾りだと思っていた。
根拠はない。
ただのカンである。
となるとフラインヘイダイが守っているのは頭ではなく、ぱんつということになる。
リオはそれを確かめるため、フラインヘイダイの攻撃をジャンプして避けた時に左手の剣を捨てて手を伸ばし、フラインヘイダイが被ったパンツを掴み取った。
魔法のかかっていない剣と同じく、ダメージはないと判断されたのか、リアクティブバリアは発生しなかった。
「ノ、ノー!オタカラ!!」
口だけフラインヘイダイが悲鳴を上げるのと同時に女性の叫び声が聞こえた。
「わたしのぱんつ!」
「「捨てちまえ!」」
ぱんつを奪われた長髪女戦士と奪われなかった女冒険者達がほぼ同時に叫んだのだ。
「捨てちまえ!」の叫びには嫉妬、妬み、嫉み、ともかくいろんな負の感情が含まれていた。
その声に従ったのか、それとも最初から決めていたのか、リオは奪ったぱんつを片手で握りしめて丸めると躊躇せず崖下へと投げ捨てた。
口だけフライングヘイダイが再び悲鳴を上げる。
「オタカラ!!シミツキパンツ!シミパン!オタカラッー!!」
その叫びを聞いてそのぱんつの持ち主の長髪女戦士が顔を真っ赤にして叫んだ。
「し、失礼ね!染みなんてついてないわよ!!」
口だけフラインヘイダイはリオやヴィヴィには目もくれず、落下するぱんつを追いかけていった。
その様子を横目で見ていたサラは目だけフラインヘイダイの隙をつき、頭に被った勝負ぱんつを奪うと同じく崖下へ向かって放り投げた。
目だけフラインヘイダイが涙目になりながら勝負ぱんつを追いかけて行った。
ぱんつを握り締めたフラインヘイダイ達が崖下から姿を現した。
それをカレンの面々は待ち構えていた。
女盗賊が放った矢が口だけフラインヘイダイに命中し、全裸女魔術士のライトニングボルトが目だけフラインヘイダイに命中した。
どちらのフラインヘイダイもリアクティブバリアは発生せず、魔法強化された矢、そしてライトニングボルトを受けたフライヘイダイ達の体には傷が出来ていていた。
「バリアが発生しないわ!」
「ぐふ、マナ切れをおこしたな」
二体ともカレン、リサヴィと連戦した事でマナを消費し過ぎたのだろう。
「やれるわ!」
「ええ!ぶっ壊してやるわ!」
「リサヴィ!ここからは私達が引き受けるわ!」
「どうぞ」
「ぐふ。任せた」
「そうなんだ」
カレンのメンバーはやる気満々であったが、フラインヘイダイはそうではなかった。
二体ともぱんつを握りしめながら高く上昇し、冒険者達と距離をとった。
「卑怯者!降りて来なさい!」
近接武器しか持たないリーダーが悔しそうに叫ぶ。
女盗賊が矢を放ち、全裸女魔術士も再びライトニングボルトを放つ。
しかし、悉く避けられた。
フラインヘイダイ達の両肩は怒りに震えており、それぞれがサラとヴィヴィを指差し、口だけフラインヘイダイが言った。
「オマエラ、オタカラ、トル!ゼッタイ!ゼッタイダ!!」
口だけフラインヘイダイがそう叫ぶとぱんつを振り回しながら去っていった。
その後を目だけフラインヘイダイが同じく勝負ぱんつを振り回しながら去っていった。
「あっ!こらっ!逃げるな!!」
「「ぱんつ返せっー!!」」
しかし、フラインヘイダイが戻って来ることもぱんつを返すこともなかった。
こうして街道に平穏が戻ったのだった。
サラはフラインヘイダイが去って行った方角を見ながらため息をつく。
「しかし、面倒な事になりましたね」
「ぐふ。まさかフラインヘイダイに狙われるとはな」
アリスがサラとヴィヴィに満面の笑みで言った。
「これでお二人もわたしの仲間ですねっ」
二人の鉄拳が同時にアリスを襲った。
「痛いですっ」
リオがどうでもいいような口調で言った。
「別に大丈夫じゃないかな」
「リオさんっ、それはっ、わたし達を守ってくれるってことですねっ!?」
「ん?」
リオが首を傾げる。
「あれっ?違うんですかっ?」
「ぱんつ履かなきゃいいだけ……」
リオの頭が不意に下を向いた。
リオはサラにどつかれと気づく。
「僕……」
「そんなことはしません」
「ぐふ。エロ神官どもはともかく私は無理だな」
「ヴィヴィ!」
「ヴィヴィさんっ!わたしだってっ、サラさんと違って即断はでき……痛いですっ」




