372話 乙女達の戦い
ベルダへと向かう街道を女性だけの四人組のパーティが歩いていた。
パーティ名をカレンという。
パーティ構成は、
女戦士のリーダー、長髪女戦士、女盗賊、女魔術士で全員Bランクである。
パーティで最初にフラインヘイダイの存在に気付いたのは女盗賊だった。
「あそこ!何か飛んでるわ!」
女盗賊の指差す方角の空に点が二つ。
それが徐々に大きくなっていく。
「こっちへ来るみたいね」
女魔術士がハッとした表情をした。
「まさか、あれはセユウで目撃されたというフラインヘイダイ!?」
女魔術士の言葉にメンバーが顔色を変える。
「なんですって!?アレが噂の変態オートマタなのっ!?」
リーダーが嫌悪感を隠さずに言う。
フラインヘイダイはガールズハンターと並んで女性冒険者が対戦したくない(見たくもない)魔物(オートマタ含む)の上位にランキングされている。
女盗賊がセユウギルドの掲示板に貼ってあったフラインヘイダイの姿を思い出しながら頷いて言った。
「……どうやらそうみたいね。姿がセユウで見たものにそっくりよ」
「どこに姿を消したかと思えばベルダに来ていたのね」
そこで女盗賊は首を傾げる。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「セユウの情報では目だけあるのと耳だけあるタイプが報告されていたはずだけど、耳だけの奴はいないわ」
目を凝らして見るが、女盗賊以外はまだ詳細がわからない。
女戦士のリーダーが疑問を口にする。
「私にはまだよくわからないわ。セユウで目撃されたものとは別物という事?」
「わからないけど、あそこを飛んでるのは目だけと口だけ、よ」
「と言うことは少なくともあの変態が三体はいるって事ね」
「目だけが別物なら四体って事になるけどね」
「考えたくもないわ!」
フラインヘイダイは飛行するため遠距離攻撃の手段がないと倒すのは厳しい。
彼女達は何事もなく過ぎ去ってくれる事を祈っていたが、その願いは却下された。
女盗賊の表情が険しくなって叫んだ。
「!!あいつら!わたし達に向かってくるわよ!」
「……いい度胸じゃない!私達カレンに戦いを挑もうなんてね!」
「返り討ちにしてあげるわ。いいわね、みんな!」
「「「ええ!!」」」
女魔術士がすぐさま攻撃呪文を唱え始める。
先制攻撃は女魔術士だった。
「ライトニングボルト!」
女魔術士の放った電撃は真っ直ぐにフラインヘイダイに向かっていく。
命中を確信するもフラインヘイダイは直前でスルリとかわした。
「な!?」
「動きが速いわよ!みんな気をつけて!シールド!」
「わかったわ!」
リーダーの言葉に女魔術士は気を取り直してシールドの魔法を唱え始める。
その間に女盗賊が弓を構え、矢を放った。
しかし、これも回避された。
弓の腕に自信のあった女盗賊はショックを受ける。
「嘘でしょ!?」
「しっかりして!あいつらを地上に落とさないと私達は攻撃できないわ!」
「わかってるわ!」
女魔術士はシールドの呪文を唱え終わり、再び遠距離攻撃魔法を唱えようとしたところで目だけフラインヘイダイと目が合った。
直後、目だけフラインヘイダイの目がいやらしい目つきに変わった。
「ひっ……」
女魔術士は背筋がぞっとした。
口だけフラインヘイダイがカタコトで言った。
「オタカラ、ダッシュ、カイシ」
それを合図に二体のフラインヘイダイがカレンに襲いかかってきた。
「私達を舐めきってるわね!」
「後悔させてやるわ!」
彼女達、カレンは皆Bランク冒険者である。
なんちゃってBランクではなく、ランクに合った実力の持ち主だった。
しかし、彼女達はフラインヘイダイに後悔させる事は出来なかった。
最初に狙われたは女魔術士だった。
女魔術士は呪文詠唱中に目だけフラインヘイダイに捕まり宙高く持ち上げられ、他の三人と切り離された。
呪文を中断され、孤立状態になった女魔術士は再び呪文を唱える暇を与えられず、目だけフラインヘイダイと一対一の接近戦を余儀なくされる。
女魔術士は一般的な魔術士で接近戦は不得手だった。
目だけフラインヘイダイは三本指で女魔術士の服を掴むとその指先から何か溶液が分泌されて服を溶かしていく。
「ああっ、やだっ、何よっこれっ!?服が溶ける!?ええ!?杖も!?その杖は高かったのよ!!って、なんでシールドが効いてないのよ!?」
目だけフラインヘイダイの容赦ない攻撃で女魔術士は服を溶かされ、破かれていく。
ついでに魔道具の武器も。
口だけフラインヘイダイだが、女魔術士以外の三人を足止めするために接近戦を挑んで来た。
これはカレンにとっても倒すチャンスであった。
向こうから空中戦の利を捨てたのだ。
三人が口だけフラインヘイダイに攻撃を仕掛ける。
長年パーティを組んでいただけあって連携は見事であった。
口だけフラインヘイダイは両腕を武器に換装して戦っていたが、その両腕の武器を女盗賊と長髪女戦士に弾かれ、隙が生まれる。
そこへリーダーが飛び込み、魔道具でもある長剣による会心の一撃を放つ。
しかし、
「なっ!?私の魔法剣が弾かれた!?」
そう、口だけフラインヘイダイを斬り裂くかと思われた一撃は、刃が当たった場所が発光して、弾き返したのだ。
「バリアですって!?」
彼女達はフラインヘイダイの能力を全く知らなかった。
知らなさ過ぎたのだ。
その後、何度もチャンスは訪れたが、悉く弾き返され、全くダメージを与える事は出来なかった。
やがて、女魔術士から大きな悲鳴が聞こえた。
「や、やめなさい!言いつけるわよ!!」
女魔術士は誰に言いつける気なのか、パニクって意味不明な言葉を口走る。
リーダーの視界の隅に下着姿になった女魔術士の姿が映った。
「そんな脅しがオートマタにきくわけないでしょ!呪文を唱えなさい!」
しかし、パニック状態の女魔術士にリーダーの声は届かない。
「本当に言いつけるって……いやっー!!」
ついに女魔術士は抵抗虚しく、ぱんつを剥ぎ取られたのであった。
目だけフラインヘイダイは素っ裸でその場にうずくまる女魔術士を放置し、奪い取ったぱんつを掲げて自慢げにくるくる回しながら残る三人の前にやって来た。
フラインヘイダイ対冒険者の二対三の戦いが始まった。
とはいえ、三対一でも傷一つつけることができなかったのだ。
戦いは当然フラインヘイダイが有利に進める。
口だけフラインヘイダイは標的に長髪女戦士を選び、先ほど目だけフラインヘイダイがやったようにその戦士を孤立させてから鎧や服を溶かす。
「ええっ!?金属の鎧まで溶かすの!?や、やめて!このクソエロオートマタがっー!!」
長髪女戦士の奮闘も虚しく、彼女もまたぱんつのみにされた挙句、そのぱんつを奪われたのであった。
フラインヘイダイ達は勝ち誇るかのように奪い取ったぱんつを空に掲げてブンブンと振り回す。
リーダーと女盗賊が決死の覚悟を持ってフラインヘイダイと対峙する。
「どうやら私達がメインディッシュのようね!」
「そうみたいね!」
「この変態野郎!私達は死んでもやらせないわよ!」
「ええ!乙女の純情にかけてね!」
そんな彼女達の決意をフラインヘイダイは鼻で笑った、ように見えた。
それが事実であったかのようにフラインヘイダイ達は彼女らに目もくれず、新たにやって来る冒険者達に顔を向けた。
「……え?ちょ、ちょっと」
「まさかあんた達、私達は眼中にないって言うんじゃないでしょうね!?」
ぱんつを奪われなかったリーダーと女盗賊は複雑な心境でフラインヘイダイを睨むが、彼らは確かに彼女達の事は眼中にないようで手に入れたばかりのぱんつを振り回しながら新たな獲物に向かって行く。
「「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」」
リーダーと女盗賊は女のプライドを深く傷つけられた。
彼女達は皆内心、パーティの中で自分が一番美人だと思っていたのだ。
今、その順位をオートマタ如きに決定されたと思ったのだ。
彼女達が「戻ってきなさいよ!この変態野郎!」とその背中に怒鳴りつけるがフラインヘイダイは振り返ることもなかった。




