371話 フラインヘイダイ、再び
街道を進むリサヴィとCランクパーティ、そしてCランククズパーティ。
「……ぐふ。嫌な奴にあった」
ヴィヴィが突然、ボソリと呟いた。
「えっ!?もしかしてサラさんのストーカーの……」
「ぐふ。どちらかと言えばお前のストーカーだ」
「えっ!?」
ヴィヴィが指差す先は上空だった。
そこに小さな点のようなものが見えた。
それも二つ。
「ぐふ。……フラインヘイダイだ」
「にっ、逃げましょうっ!」
「おいおい!ちょっと待てよ!」
そう言って反対したのは勝手に仲間だと言ってついて来たCランククズパーティのリーダーだった。
「フラインヘイダイは魔術士ギルドが高く買いとってくれるんだぞ!」
そう言ったCランククズパーティのリーダーの鼻の下は伸びきっていた。
フラインヘイダイが女だけを襲い、服をひん剥く事を知っているとその顔が証明していた。
恐らくサラとアリスが裸にひん剥かれる姿を妄想したに違いない。
「「「「……」」」」
リーダーに他のクズ冒険者達も続く。
「それにあんなクズオートマタを放っておけんだろ!」
「「だな!」」
クズといえば彼らもクズのはずだが、そんな事は微塵も思っていないようだった。
ちなみに彼らも鼻の下を思いっきり伸ばしており、全く説得力はなかった。
ヴィヴィは彼らを無視してパーティメンバーに詳細を話し始める。
「……ぐふ。どちらも前回のものと違うな。一体は口だけ、もう一体は目だけだな」
「えっ!?目だけっ!?じゃ、じゃあ、それはセユウで発見されたフラインヘイダイっ!?」
「ぐふ。どうかな。そのタイプが一体だけとは限らんぞ」
「……ぐふ。どうやら何者かと戦闘に入ったようだな」
「そうなんだ」
「……この先で戦っているんですね」
「よし!助けに行くぞ!」
「「「おう!」」」
Cランククズパーティだけが威勢よく声を上げ、腕を振り上げた。
しかし、それに反して彼らの足は全く動かない。
リサヴィが動くまで動く気は無いのだろう。
そのクズ加減に皆が呆れる。
Cランククズパーティは自分達の行動を棚の上に放り投げてリサヴィに文句を言い出す。
「まさかビビってんのかよっ!?」
「そんなわけないよな?天下のリサヴィ様がよ、オートマタごときにビビるわけないよな?」
Cランククズパーティはリサヴィを挑発するが、誰も乗ってこない。
しかし、彼らは諦めない。
口を出すだけならタダだからだ。
「安心しろ!お前達の力は本物だ。俺達が保証するぜ!」
「「「おうっ!」」」
クズ冒険者達の保証を受け、リサヴィは自信を持ってフラインヘイダイのもとへ向かった、
なんて事はなかった。
彼らクズの保証などなんの価値もないのだ。
その辺に落ちている小石の方がまだ価値があった。
完全無視されたCランククズパーティだが尚も食い下がる。
「おいおい、リ、の兄貴!Bランクのクズリーダーを瞬殺したあんたならフラインヘイダイなんて楽勝だぜ!」
「……」
リオは自分のことだと思っていないので無反応だった。
「おうっ!棺桶持ちの兄貴もな!自信を持てって!」
「……」
ヴィヴィは蔑称で呼ばれている事もあるが、クズの言う事なので無反応だった。
「それに鉄拳せ……、サ、サラの姉御もいるんだ!絶対負けっこねえぜ!」
サラは言葉を発したクズ冒険者をひと睨みしただけで無言だった。
「な、なあ、お前もそう思うよな!アリエッタ!」
「誰がよっ!」
アリスがぷっと顔を膨らまして馴れ馴れしいクズ冒険者を睨みつけるが、効果は全くなかった。
それでもクズ冒険者達は諦めない。
「なあっ、誰か襲われてんだろ?早く助けに行けよ!」
「それで正義の味方って言えんのかよ!?」
あまりにしつこいのでヴィヴィが面倒くさそうに言った。
「ぐふ。うるさい奴らだな。そんなに助けたいならお前らだけで行け」
「「「「ざけんなっー!」」」」
Cランククズ冒険者達はいつもの調子で、もはや条件反射で逆らう相手を怒鳴りつけて睨みつけたが、それがヴィヴィだと気づき、慌てて取り繕う。
「あ、いや、違うんだ!棺桶持ちの兄貴!」
「お、おうっ、い、今のは襲われてる相手が、そうっ、襲われてる相手がかわいそうだと思ってよ、つい、な?」
「な、なあ、わかんだろ?」
「ぐふ。さっぱりだ」
「「「「な……」」」」
彼らのやりとりを今まで黙って聞いていたCランクパーティが口を出す。
「いい加減にしろ!そもそも俺達はお前達を仲間だと思ってないんだ。口出ししてくんな!」
CランククズパーティはすぐさまCランクパーティを怒鳴りつける。
「うるせえ!」
「俺らもお前らなんて仲間だと思ってねえ!」
「おうっ!俺達はあくまでもリサヴィについてんだからな!」
「金魚のフンは黙ってろ!」
「「「「金魚のフンはお前らだ!!」」」」
「「「「ざけんな!!」」」」
CランクパーティとCランククズパーティが言い合いをしている所でリオがぼそりと言った。
「行こう」
リオの声に最初に反応したのはクズ冒険者だった。
「流石だぜ!リ、リの兄貴!」
「おうっ!今回の獲物は大量だぜ!」
「「だな!」」
Cランククズパーティはもうフラインヘイダイを倒した気で騒ぎ出す。
ちなみに倒すのは彼らではなく、リサヴィである。
「ええっ!?リオさんっ行くんですかっ!?」
アリスが表情と口調で気が進まない事を示す。
「街道の魔物討伐が依頼だからね」
「ぐふ」
「そうですね」
「はっ、はいっ、そうでしたっ」
リサヴィを先頭にCランクパーティ、そしてその後に威勢だけいいCランククズパーティが続いた。




