370話 獲物の所有権の行方
Cランククズパーティはリサヴィ達が倒したガルザヘッサの素材を担いでいた。
魔物の素材で一番価値があるのはプリミティブだがその位置は決まっておらず、毎回ランダムである。
そのため、素材回収でもっとも時間がかかる部位であった。
今回、彼らは運良く短時間で探し当て、ほくほく顔であった。
彼らのリーダーはCランクパーティの視線を感じ、勝ち誇った顔を向けて言った。
「これはよ、俺達が止めを刺したんだ。俺らのモンだから分けてやらねえぞ!」
クズスキル?“ごっつあんです”で奪い取ったにも拘らず、彼らの顔はなんか誇らしげだった。
「ふざけんな!何が止めを刺しただ!俺達が倒した死体を剣で突いただけだろうが!」
「おいおい、言いがかりをつけて人のもんを横取りする気か?」
Cランククズパーティのリーダー嘲笑いながら言った。
「お前らクズだな!」
「「「「なんだと!?」」」」
その言葉を聞いて、Cランクパーティは怒りで顔を真っ赤にしたが、リサヴィはリオを除いてコケそうになった。
「クズのお前らがクズと言うのか」と。
彼らCランクパーティは簡単には引き下がれなかった。
彼らにも生活があるのだ。
ウォルーはまだ許せたが、命をかけて倒したガルザヘッサを横取りされる事はどうしても許せなかった。
そこへCランククズパーティが痛い言葉を発する。
「大体よ、なんで今言うんだ?あの場で言えよ」
「「「だな!」」」
「くっ……」
Cランククズパーティの言う通りではあった。
だが、その時にはまだBランククズパーティのリーダーが健在で文句を言う度胸がなかったのだ。
その後、Bランククズパーティのリーダーがリオに瞬殺されたのを見て、今までの鬱憤がスカッと晴れて素材回収の事をすっかり忘れていたのだった。
Cランククズパーティが続ける。
「俺らから掠め取ろうとするよりよ、戻って素材漁りして来たらどうだ?まだ俺らが止めを刺した獲物が残ってるかもしれんぞ」
「「「「ふざけるな!」」」」
Cランククズパーティは顔を真っ赤にして怒っているCランクパーティを嘲笑う。
「まだプライドのクズどもがいるかもしれねえけどよ、今のように威勢よく『俺らのもんだ!』と言えば譲ってくれるかも知れねえぜ?」
Cランククズパーティの面々が「がははは!」と笑う。
「「「「クズはお前らもだろうが!!」」」」
CランクパーティはCランククズパーティにそう怒鳴るのが精一杯であった。
恐らく、Bランククズパーティのリーダーはパーティメンバーの神官の回復魔法で動けるようになっているはずで、リオに負けた八つ当たりをされる可能性が高い。
リオはBランククズパーティのリーダーをあっさり倒したが、Bランククズパーティは皆Bランクでそれに見合った実力を持っている。
平均的なCランク冒険者の強さしか持たない彼らでは敵わない。
Cランクパーティのリーダーがリサヴィに助けを求める。
「なあ!リサヴィはそれでいいのか!?お前達の方が多く倒してるんだぞ!」
その言葉を聞き、ガハハ笑いをしていたCランククズパーティが笑いを止め、先ほどまでとは打って変わって焦った表情をしながらリサヴィの表情を窺う。
リオをはじめ、誰も返事しないので仕方なくサラが代表して答える。
「よくはありません。しかし、それより優先する事があるでしょう」
サラは街道の安全確保の事を言ったつもりだったが、言葉足らずで正しく伝わらなかった。
またも最初に曲解したのはCランクパーティの盗賊だった。
「……そうだな。リーダー、今は我慢しろ」
「なっ!?お前はいいのかよ!?」
「いい訳ないだろ。だが、今のサラの言葉を聞いただろ。リサヴィはこのままクズ達の好きにさせないって」
「は?……あなた一体……」
サラが困惑した表情を見せる中で、次々と盗賊の曲解がCランクパーティに広がっていく。
「ああ、今は怒りを溜めている状態なんだな。そして一気に爆発させる気に違いない」
「そ、そうか。さっきのリオは怒りが中途半端だったからクズリーダーの野郎を半殺しで済ませたってわけだな!」
「その通りだ」
(何が「その通りだ」よ!勝手に決めつけないで!)
サラはそう思いつつも彼らの曲解を正すのが面倒になり否定しない。
その考えで彼らCランクパーティの怒りは収まったようだった。
だが、今度はその話を聞いていたCランククズパーティが不安に駆られた。
先程までCランクパーティに向けていた傲慢な態度とは打って変わって卑屈な笑みをリサヴィに向ける。
「な、仲間になった俺らに酷え事しねえよな?」
「ったりめえだろ!な、リ、の兄貴!」
「……」
「な、なあ、サラの姉御」
「誰が姉御ですか」
サラは呼び方を否定するだけで質問には答えない。
それが更にCランククズパーティの危機感を増大させる。
「お、おい、冗談だよな?な、なあ、棺桶持ちの兄、兄貴?」
「……」
「なあ、お前からもなんとか言ってやってくれよ、アリエッタ!」
「……」
アリスは心の中でプンプン怒っていた。
(なんでわたしだけっ馴れ馴れしいのよっ!?あなた達の味方みたいな言い方しないでっ!大体っ、誰よっアリエッタってっ!?)
リサヴィの誰からも明確な答えが返ってこなかった事でCランククズパーティはCランクパーティの考えが正しいと思い込む。
Cランククズパーティが卑屈な笑みをリサヴィからCランクパーティに向けた。
「ま、まあ、なんだ。分け前については帰ってから話し合おうぜ!」
「おう!」
「「だな!」」
Cランククズパーティの声だけが響いた。
Cランクパーティは感心してしまった。
リサヴィは何も言わずともCランククズパーティの考えを変えてしまったと。
実際には彼らの曲解をCランククズパーティが信じた結果なのだが、その事に全く気づいていなかった。




