367話 返り討ち
リサヴィとCランクパーティが去っていく姿を見て、Bランククズパーティのリーダーは自分達に屈したと思い、満足げな笑みを浮かべる。
「だが、まだまだこんなもんじゃ済まさねえぞリサヴィ!俺様をコケにしたんだからな!ーーお前らはここに残って素材回収を続けろ!終わったら先に街に戻ってろ!間違ってもネコババすんじゃねえぞ!数はきっちり覚えてるからな!」
「「「へい!」」」
「よしっ、残りは俺様について来い!あいつらは詰めが甘いからな!また俺様達が止め刺してやらねえとな!!」
「「「「「「「おうっ!」」」」」」」
その後、彼らから「ガハハ」と笑いが起こった。
その場に残ったCランククズパーティはデバグ・デッドに殺された冒険者がいたパーティだ。
彼らの中に仲間の死を惜しむ者はいなかった。
とは言え、無関心でもなかった。
死体からちゃっかり金目のものを回収していたのだ。
彼らは魔物を解体しながら雑談をしていた。
「へへっ、これでカカアの奴を見返してやれるぜ!」
「なんだ、どうした?」
「うちのカカアがよ、俺の事をよ、“クズ”呼ばわりしやがったんだ!」
そう言わせた原因は彼自身にある。
始まりは彼がベルダの街を解放した冒険者のマネをしようとポールアックスを買ったことだった。
彼らを演じて女にモテようと使えもしないポールアックスを持ち歩いていたところを嫁に見られたのだ。
無駄金を使った上にその目的を知られてそう呼ばれたのだった。
ちなみにそのポールアックスは売り払ってもう手元にはない。
このクズ冒険者の方が悪いのは明らかだが彼の仲間は百パーセント彼の味方だった。
「おいおい、そんな奴、とっと別れろよ」
「ははっ、そう言うなよ。あれで可愛いとこあるんだからよ。今回の稼ぎを見せてよ、“二度と俺の事をクズと呼ぶんじゃねえぜ!”って言ってやるんだ!」
彼の妻が他の者が倒した魔物を横取りして手に入れた金だと知っても彼の事を「クズ」呼ばわりしないかは甚だ疑問ではあるが、彼自身は全く疑問に思わなかったし、彼のパーティもそう思わなかったようだ。
「おうっ、言ってやれ言ってやれ!」
だが、彼がその言葉を嫁に言うことはなかった。
彼らは背後から新たな魔物が足音を忍ばせて近づいて来ていることに気づかなかった。
それらはリオ達が気づいていて放置した魔物であった。
リオは彼らクズ冒険者達が倒すと思って先に進んだのだが、Bランククズパーティのリーダーをはじめ、誰もその存在に気づいていなかったようだ。
死が目の前に迫る中、その場に残ったクズ冒険者達は無駄話をしながらウォルーの解体を続けるのだった。
サラはすぐにクズ冒険者達が追って来たのに気づいた。
「リオ、ちょっと待ってください」
「ん?」
やって来たクズ冒険者達の中で、Bランククズパーティのリーダーが横柄な態度で言った。
「おう、俺様達を待っているとは感心だな。俺様の提案に乗る気になったのか?今なら考え直してやってもいいぞ。ただし、一度拒否したんだ。取り分が下がることは覚悟しとけよ」
サラはBランククズパーティのリーダーの戯言を聞き流し、疑問を口にする。
「来るのがやけに早かったですが、魔物は倒したのですか?」
「何言ってやがる。お前らの前で全部止めを刺してやっただろうが」
サラが首を横に振る。
「そうではありません。気づかなかったのですか?あの場にはまだ魔物が隠れていたでしょう?」
その言葉でCランクパーティはあの場でのリオとサラの会話を思い出した。
しかし、サラの言葉を聞いてBランククズパーティのリーダーは豪快に笑いだす。
「ガハハハっ!サラ、そんなすぐバレる嘘をつくな。なあ?」
Bランククズパーティのリーダーは彼のパーティに目を向けると、皆も「ガハハハ」と笑い出した。
そして盗賊がバカにするような目をサラに向けて言った。
「そんな魔物なんていねえよ。いたら俺が気づいてるぜ!」
そう言った盗賊の顔は誇らしげだった。
Bランク冒険者である彼は自分に絶対の自信を持っていたのだ。
「しかし……」
サラが尚も何か言おうとしたが、ヴィヴィが割り込んで来た。
「ぐふ。放っておけ」
「ヴィヴィ?」
「ぐふ。あの場に何人かクズを残して来たようだ。そいつらが対処するだろう」
ヴィヴィの言葉に「誰がクズだ!」と喚き立てるCランククズパーティだったが、ヴィヴィが顔を向けると口を閉じ、顔を背けた。
リオが言った。
「先に進もう」
「リオ、あなたまで……」
と言っ後でサラは興味ない事には全く無関心のリオらしい発言だと思い直す。
リオはBランククズパーティのリーダーの神経を逆撫でする言葉を付け加えた。
「戻してもクズの死体が増えるだけだよ」
リオにしては珍しく親切で言ったつもりであったが、誰もリオに感謝しなかった。
逆にクズ冒険者全員が殺気立つ。
まあ、「クズ」と言われて「心配してくれてありがとうな!」と言う者がいるとも思えなかったが。
Bランククズパーティのリーダーがリオを怒鳴った。
「てめえ!!そのクズに俺様も入ってると言いてえのか!?あん!?」
「クズだろ」とリサヴィとCランクパーティは思ったが口にはしなかった。
リサヴィは言うまでもないと思い、Cランクパーティは後が怖かったからである。
リオはBランククズパーティのリーダーを見て首を傾げただけでその問いには答えず、歩みを再開した。
(リッキーキラー!!てめえは終わったぞ!俺様をバカにして生きてベルダに帰れると思うな!!)
Bランククズパーティのリーダーがリオの抹殺を決めた瞬間であった。
リサヴィとCランクパーティ(とそのちょっと後をついてくるクズパーティ)はしばらく街道を進んだところでリオが再び山林へ入って行った。
それにサラ達が続き、さっきの事もあり警戒心を高めてCランクパーティが続く。
リオ達の前に姿を現したのはガルザヘッサだった。
「十分注意してください!」
サラの声が戦闘の開始の合図となった。
今回、Cランクパーティは先のウォルー戦とは違い、怪我を負った。
しかし、サラ達の助けもあり、死者を出す事なくガルザヘッサの討伐に成功した。
戦闘が終わると見るや、再び見学を決め込んでいたBランククズパーティとCランククズパーティが一斉に動き出す。
「とったどっー!」
「とったどっー!」
「とったどっー!」
「とったどっー!」
「とったどっー!」
クズ冒険者達が自分の獲物だとアピールする声が響く中、ぼうー、としていたリオに近づく者がいた。
Bランククズパーティのリーダーだ。
それに気づいた者はリオの側に倒れているガルザヘッサに向かっていると思った。
だが、彼の狙いは違った。
リオの暗殺だ。
いや、抹殺だ。
彼は戦闘が終わり油断している今がチャンスと見て行動を開始した。
彼はリオにバカにされたことが許せなかった。
理由はそれだけではなかった。
サラとアリスがCランクパーティの傷を治しているのを見て、自分のパーティの神官より優れていると知った。
それで彼もまた他のクズ冒険者達と同じでサラ、そしてついでにアリスが欲しくなったのだ。
彼にとって力が全てだった。
力さえ示せば誰でもついてくる。
そう信じて疑っていなかった。
実際、今、彼に従っている神官は彼の力を認めてパーティに入ったのだ。
Bランククズパーティのリーダーはリオを倒してしまえばサラとアリスは黙って自分に従うはずだと本気で考えていた。
残るヴィヴィだが、仲間に加わるならそれでよし、逆らうなら自分がこの手で殺す、そう考えていた。
その時には仲間になったサラもいるので余裕だと。
Bランクパーティのメンバーはリーダーの動きに気づいており、その勝利を確信していた。
「リーダーはあらゆる技を持っているからな」
「おう、あらゆる、な」
彼らは曖昧な表現をしたが、要するに姑息な手段、卑怯な技の事だ。
Bランククズパーティのリーダーがリオの背後から斬りかかった。
完全な不意打ちだった。
Bランク相当の力、プラス不意打ちにより勝利を確信するBランククズパーティのリーダーだったが、リオはその攻撃をあっさりと回避する。
そして振り返り向きざまにいつの間にか手にした短剣で、Bランククズパーティのリーダーの右肩の付け根に突き刺しそのまま下へ裂く。
その腕がだらん、と力なく下がり、剣を落として悲鳴を上げるBランククズパーティのリーダーをよそにリオは彼の右足に蹴りを入れて膝の関節を砕いた。
Bランククズパーティのリーダーがその場に尻餅をつきがら「いでええ!!」と再び悲鳴を上げた。
Bランククズパーティのリーダーを擁護するなら彼の不意打ちは完璧であった。
盗賊のスキル、インシャドウに近い動きをして気配を消していたのだ。
今の奇襲はBランク冒険者でも致命傷を避けられなかっただろう。
少なくとも無傷では済まなかったはずだ。
それをリオはかわしただけでなく、反撃に転じて一瞬にしてBランク冒険者を戦闘不能にしたのだった。




