366話 ごっつあんです!
山林に入ってすぐに魔物が現れた。
ウォルーの群れだ。
放置していれば街道にまでやって来て旅人を襲った可能性が高い。
「……あれ?」
リオはウォルーの姿を見て首を傾げる。
リオの表情は変化していなかったし、口調もいつもと変わらないが、サラにはガッカリしているように思えた。
「どうしました?」
「思っていたのと違った」
「そうですか。しかし、このまま放ってはおけませんので片付けましょう」
「わかった」
「俺達もやるぞ!」
サラとリオの会話にCランクパーティが入ってきた。
「わかりました。ベルダの冒険者には不要なアドバイスとは思いますが、まだマナッド・レインの影響が残っている個体がいるかもしれませんので油断しないでください」
「「「「おう!」」」
そこへリサヴィ達の後を追って来たクズパーティが茶々を入れてくる。
「おうおう!ザコウォルーだからって油断すんなよ!」
「「「「「「「「「「「だな!」」」」」」」」」」」
「「「「……」」」」
クズパーティ誰も戦闘態勢をとっておらず、見学を決め込むようだった。
「すっごく嫌な感じしますっ」
「放っておきましょう。あなたも油断しないで」
「はいっ」
リサヴィは言うまでもなく、Cランクパーティもランクに見合った実力の持ち主で苦戦する事なく格下のウォルーを葬って行く。
結局、一人も怪我を出さずに戦いは終了した。
そして素材回収をはじめようとした時だった。
戦闘に全く参加せず、離れたところで談笑していたBランククズパーティのリーダーが動いた。
Bランククズパーティのリーダーが既に死んでいたウォルーに駆け寄ると剣を突き刺し、その剣を振り上げて叫んだ。
「とったどっー!」
クズスキル?“ごっつあんです”の発動である。
それを皮切りにクズ冒険者達が一斉に動き出し、ウォルーの死体に手当たり次第に一撃を加えると「とったどっー!」と“ごっつあんです”を発動し、自分の獲物だとアピールする。
リサヴィ達がその様子に呆気に取られているとBランククズパーティのリーダーが勝ち誇った顔で言った。
「お前らが言った通り俺様達だけで配分するぜ!止めは全部俺様達がしたから全部俺様達のモンだ!!」
「「「「……」」」」
サラが達が呆れている間もBランククズパーティのクズリーダーは言葉を続ける。
「な?俺様が最初に提案した通り、俺様に配分を任せておけば、お前達の分だってあったんだぞ」
「全部俺達の獲物だ!」
「「おうっ!!」」
あまりのクズさ加減にCランクパーティのリーダーが思わず呟いた。
「……汚すぎる」
「なんか言ったか!」
「……」
「Cランク風情が俺様に逆らうんじゃねえ!」
Bランククズパーティのリーダーだけでなく、他のメンバーもCランクパーティを睨みつける。
その威圧に彼らは思わず後退りする。
「!!」
突然、リオが「後ろに下がれ」という合図をメンバーに送った。
それは仲間の心配をしたというよりは“やってくる”獲物を横取りされたくないという意味合いが強かった。
そしてそれが現れた。
その魔物の姿を見てアリスが思わず叫ぶ。
「えっ!?デバグ・デッド!?」
デバグ・デッドはCランクの魔物である。
外見は猿に近いが、その長い尻尾はいわゆるジャバラ剣のような姿をしており、実際自身の意思でぴんっ、とさせて刃形態にする事が出来る。
その強度も十分で魔法のかかっていない普通の武器なら容易に弾き返す。
中には冒険者の戦い方を見て覚えたのか、ジャバラ尻尾を手に持って剣として戦うものもおり、剣豪と呼んでもおかしくないほどの剣技を身に付けたデバグ・デッドがいたとの記録も残っている。
更にデバグ・デッドには特殊な能力が備わっていた。
それは後述するが、バウ・バッウと同じく度々Bランクにすべきと議論されている魔物であり、マナッド・レインの影響が完全に消えているかも不明なこともあり油断できない相手であった。
「こいつ、デバグ・デッドっていうんだ」
リオはデバグ・デッドと対峙しながらアリスに確認する。
「はいっ。Cランクの魔物ですが、ベルダ周辺に現れるなんて聞いた事ありませんっ」
「そうなんだ」
リオはそう呟くとデバグ・デッドに向かっていった。
「キキっ!」
デバグ・デッドは数的不利にも拘らず、逃げる事なく、猿のような鳴き声を発してリオに襲い掛かった。
リオは剣を振るう直前、頭上から殺気を感じ、攻撃を中止して横へ飛んだ。
すると直前までリオがいた場所に上から何かが落ちて来て地面に突き刺さる。
それはデバグ・デッドの尻尾だった。
デバグ・デッドは尻尾を立て、自分の頭を超えて頭上からリオに攻撃を仕掛けたのだった。
デバグ・デッドは尻尾の攻撃が空振りに終わり、「キキッ!」と鳴いて悔しがる。
デバグ・デッドは地面に突き刺さった尻尾を抜こうとしたが、その前にリオの剣がその額を貫いた。
剣を引き抜くとバタンと倒れた。
「意外にあっけない……ん?」
リオが首を傾げる中、二組のCランククズパーティが一斉にリオが倒したばかりのデバグ・デッドに向かって走り出した。
それはまるで死体に群がるハイエナのようであった。
そしてデバグ・デッドのところに一番乗りしたCランククズ冒険者がデバグ・デッドの体に剣を突き刺して叫ぶ。
「とった……」
宣言の途中でデバグ・デッドの尻尾が素早く動き、刃を形成すると一瞬でそのクズ冒険者の首を刎ねた。
リオに脳を破壊されて死んだと思われていたデバグ・デッドだが、まだ生きていたのだ。
これがデバグ・デッドの特殊能力だった。
デバグ・デッドはとにかく死に難いのだ。
頭は飾りだと言わんばかりに首を飛ばされても平気で生き続けたりもする。
ちなみにアンデッドではないので神聖魔法ターンアンデッドは効かない。
確実に殺すには体からプリミティブを抉り取る事だと言われている。
「ど〜……」
首を飛ばされたクズ冒険者だが、宙を舞いながらも最後まで言葉を続けた。
そして腕を上げた獲物の所有権をアピールするポーズを決めたままバタンと倒れた。
死して尚、獲物の所有権をアピールしたその姿はクズ冒険者として見事な最期といえよう。
しかし、Bランククズパーティのリーダーは彼の最期に感動しなかった。
大激怒だった。
「このクソがぁ!!」
Bランククズパーティのリーダーが起き上がったデバグ・デッドに迫ると手にした剣で尻尾で形成した刃を弾き、その頭を斬り落とした。
Bランククズパーティのリーダーはクズであるがその腕はBランク冒険者に相応しいものであった。
頭を斬り飛ばされてもデバグ・デッドはまだ死なない。
Bランククズパーティのリーダーに反撃を試みる。
「いい加減にくたばりやがれっー!!」
Bランククズパーティのリーダーがそう叫びながらデバグ・デッドの体を斬り刻む。
デバグ・デッドは四肢を斬り飛ばされ、更に胴体を切り刻まれてやっと死んだ。
Bランククズパーティのリーダーが地面に落ちたクズ冒険者の頭を睨む。
「止め刺しに来たテメエがトドメ刺されてどうする!この使えねえクズがあ!プライドの恥晒しがあ!!」
Bランククズパーティのリーダーがそのクズ冒険者の首を蹴り飛ばした。
それで気が晴れたのか、Bランククズパーティのリーダーは笑顔をリサヴィに向けた。
「見ての通りだ。お前らの詰めが甘いって事が今のでよ〜くわかっただろ!他の獲物も俺達がトドメを刺したってよ!それにこっちはお前らのせいで一人失ったんだ!文句は言わせねえ!」
流石クズ集団プライドのリーダーである。
部下の失態をもしっかり活用する。
そんな彼に彼のパーティをはじめ二組のCランククズパーティは痺れて憧れた。
Bランククズパーティのリーダーがリサヴィ達に誇らしげな表情を向けるのを見て、残りのクズ冒険者達もリサヴィ達に誇らしげな顔をするのだった。
仲間が一人死んだ事など全く気にしない、そもそもそんな奴など最初からいなかったかの様であった。
リサヴィとCランクパーティは勝手に死んだクズ冒険者の死の責任を押し付けられ怒り心頭であったが、リオだけは違った。
「先に進もう」
リオは倒した魔物に全く未練がないようで、無表情のまま言った。
「残したままにするのですか?」
サラの言葉にCランクパーティが同意する。
「そうだぞ!あいつらあんな事言ってるけど、ウォルーは俺達で全部倒したんだ!」
「デバグ・デッドにやられた奴だって自業自得だ!」
しかし、リオはCランクパーティの言葉を“聞き流し”、サラに答えた。
「後はあの人達に任せておけばいいんじゃない」
「そうですね」
「お、おいっ!?サラまで……わかった。リサヴィがそう言うなら俺達も従うぜ……」
リオだけでなく、サラをはじめ他のリサヴィのメンバーも倒した魔物に固執しないのを見て彼らは渋々従う。
しかし、彼らはリオとサラのやり取りを勘違いしていた。
サラは“隠れている”魔物をどうするか、という意味で尋ねたのだ。
リオもその質問に対しての回答をしたのだった。




