365話 プライドの提案
道中にCランクパーティがリサヴィにベルダが魔物に包囲されることになったときの経緯を話していた。
「きっかけを作った魔物討伐だが、その時に全滅したパーティは自分達の意志で出かけたんじゃなかったんだ」
「えっ?それはどういうことですっ?」
「あのクズ達に街の外へ無理矢理連れていかれたんだ!彼らは俺達と同じでプライドと敵対していたからな!一緒に出かけるわけがないんだ!」
「後でその事を知って嫌な予感がしたんだ。ギルドの依頼も受けていなかったしな。それでやっぱり不安が的中した。あのクズ共だけが帰ってきた!それで帰ってきた時、奴らは笑いながらこう言いやがったんだ!『止めたのに勝手に魔物に突っ込んでいって死にやがった』ってな。そんな言葉誰が信じるものか!」
「ぐふ。押し付け、いや、三途の川渡しをやられたな」
「ヴィヴィ?それはなんだ?」
「ぐふ。クズ達が使う技だ。簡単に言えば気に入らない奴を魔物に殺させる技だそうだ」
「間違いないぜ!あいつらはそれをやりやがったんだ!」
「その件があってから奴らに逆らう奴はいなくなった。俺達も奴らに敵対していたので嫌がらせを受けてまともに依頼が受けられなくなったんだ」
悔しそうにそう言ったのはモモの手紙を渡した女性の夫である冒険者だ。
「気づいたか知らないが、さっきもお前達が来るまでクズ達に絡まれていたんだ」
Cランクパーティの一人が自嘲気味に言った。
「あのままだったら俺達も三途の川渡し、だったか、をされてたかもしれない」
「あのっ、ギルドの人達は注意しないんですかっ?」
アリスの問いにCランクパーティのメンバーが次々に言葉を吐き捨てる。
「あいつらはやり口が巧妙なんだよ!」
「ああ、規則の抜け穴を突いて来やがる!規則に反していないからギルドも強く言えねえんだ!」
「あいつらクズ行為だけはAランクだぜ!」
「そっ、そうですかっ」
彼らはアリスの表情がヒクつく様子を見て冷静さを取り戻す。
「悪い。ちょっと熱くなった」
「いえっ」
「それでもベルダ鉱山に向かった冒険者達が帰ってくるまでの辛抱だと思ってたんだ。彼らが帰ってくれば奴らも大人しくなるってな。だが、いつまで経っても帰ってこないし、奴らは続々と数を増していきやがる!」
「そんな時にお前たちが来てくれたんだリサヴィ」
「ぐふ。他力本願か」
ヴィヴィが冷めた声で言った。
その言葉に彼らは再び熱くなる。
「そんな事はわかってる!百も承知だ!」
「情けない事は自覚してるさ!冒険者の先輩の俺達がいう言葉じゃないのはわかってる!だが、俺達じゃあ力も!数も足りないんだ!」
「それをお前達は来ただけで、たったそれだけでクズ共をギルドから追い払った!」
「だが、追い払うだけじゃダメだ!頼む!プライドのリーダーを!さっき威張り散らしていた奴を“今までやってきた”ように葬ってくれ!奴さえいなくなればプライドは勝手に瓦解する!」
そう言ったのは盗賊だ。
彼はクズ達が陰で呼んでいるリサヴィの二つ名”死神パーティ“を知っていたようだが、他のメンバーは知らなかったようで首を傾げる。
「おいっ、そりゃどう言う意味だ?」
「それはな……」
サラは盗賊がパーティ仲間に説明するのを遮り、不機嫌な表情で言った。
「私達は今までも”そんな事“はやっていません」
「す、すまんっ。つい……」
どうやら盗賊は“こんな誰の目があるかわからないところで話すな”とサラに言われたと思った。
「とにかく頼む!ベルダをクズ共から救ってくれ」
ヴィヴィが面倒臭そうに言った。
「ぐふ。やりたければ勝手にやれ。私達は正義の味方ではない。巻き込むな」
最弱クラスとされる魔装士に言われて彼らは一瞬、むっ、としたものの、圧倒的な力でクズ冒険者を倒したのを目の前で見ているので言い返せなかった。
「そ、そうだよな。すまない……」
そこで盗賊がはっ、とした表情をした。
「そういうことか!」
「どうした?」
「ヴィヴィは、いや、リサヴィは俺達に迷惑がかからないように気をつかったんだ!」
「ぐふ?」
ヴィヴィは全く身に覚えがなく首を傾げる。
そんなヴィヴィにお構いなしに彼の仲間達も彼が曲解した結論に達する。
「……そうか!今の流れだと俺らが殺しを依頼したようになる!」
「ちょ、ちょっと……」
「そういう事だ!あくまでもリサヴィ独自の判断でやったという事にしたいんだ!」
盗賊が自信満々に断言する。
「あのっ、何か勘違いしてませんかっ」
「ぐふ……」
しかし、彼らの結論は彼らの中で真実へと昇華しており、修正不可能な域にまで達していた。
「わかったぜ、リサヴィ!」
「ああ、俺達は黙ってお前達のやる事を見守るだけだ!」
「「だな!!」」
Cランクパーティが曲解していることは明らかだったが、訂正する努力が無駄になりそうなのでサラ達は話自体を聞かなかった事にする。
ちなみのリオは言葉通り全く今までの話を聞いていなかったが。
サラがやや疲れた表情で言った。
「今は依頼に集中しましょう。余計な事を考えながらでは大怪我をしますよ」
「「「ああ!!」」」
元気いっぱいに返事したCランクパーティであった。
しばらくして後から複数の走ってくる足音が聞こえて来た。
いうまでもなく、Bランククズパーティと二組のCランククズパーティだ。
ちなみにヴィヴィにのされたCクズパーティのメンバーの顔には例外なくヴィヴィにやられた怪我だけでなく、殴られた痕があった。
彼らはリサヴィ達を追い越すと再び前を塞いだ。
サラがうんざりしながら言った。
「あなた達もしつこいですね」
「まあ、落ち着けって。さっきのことは水に流してやる」
Bランククズパーティのリーダーが明らかに何か企んでいるとわかる笑みを浮かべながら上から目線でまるでリサヴィに落ち度があったかのような口振りで言った。
「「「「……」」」」
「お前らも街道沿いの魔物討伐依頼を受けたんだよな?いや、わかってるから返事はいらねえぜ!」
「……それで?」
「さっきはお前らが突然襲って来たから話せなかったがよ、俺様達もその依頼を受けてんだ」
「……そうですか」
最初に殴りかかって来たのは向こうであるが、クズには何を言っても無駄だとわかっているのでサラは投げやりに返事する。
「おうっ。そこでだ。俺様達はお前達と一緒に組んでやる事にした」
「感謝しろよ!」
「だな!」
「うむ」
Bランククズパーティのメンバーがリーダーに続く。
更にその後にヴィヴィにぶっ飛ばされなかったCランククズパーティが「だな!」と続く。
ヴィヴィにのされたCランククズパーティはヴィヴィと顔を合わせようとはせず、「だな!」と叫んだ。
彼らはヴィヴィに負けた罰で治療してもらえず、その姿はとても痛々しかったが、ここにいる者達の誰も同情しなかった。
「必要ありません」
サラがBランククズパーティのリーダーの提案を拒否するが、もちろん、Bランククズパーティのリーダーの耳は拒否の言葉を受け付けない。
「よしっ!この魔物討伐隊のリーダーはBランク冒険者である俺様がとる!文句はねえな!いや、言わせねえ!」
「既に言ってますが、というかこのセリフ……」
「はいっ、前にもありましたっ」
「ぐふ。どこかにクズの教科書でもあるのでないか?」
「何ごちゃごちゃ言ってやがる!いいか、この討伐に関しては魔物は倒した者の、そのパーティのものじゃねえ!みんなで協力すんだからな!よって依頼完了後に俺様が貢献度に合わせて分配する!わかったな!」
「「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」」
クズパーティからのみ賛同する声が聞こえる。
「リサヴィもわかったな!それと……ってちょ、ちょ待てよ!」
Bランククズパーティのリーダーの演説に飽きたのか、リオが街道を塞ぐクズパーティ側へではなく、街道から外れて山林へ入っていく。
リサヴィのメンバーは疑問を口にする事なくリオの後に続く。
Cランクパーティはリオの奇行が理解出来なかったが慌てて後を追う。
「おいっこらっ!てめえら!どこいきやがる!!」
背後からの怒鳴り声にサラが面倒臭そうに答えた。
「あなた達のルールに従う気はありません。やりたければあなた達だけでやってください」
「サラ、てめえ!言いやがったな!後悔すんなよ!!」
クズパーティは直ぐ様リサヴィ達の後を追った。




