363話 クズ退治専門パーティ
依頼掲示板に街道沿いの魔物討伐依頼書が貼られた。
その報酬は通常より少し高く設定されていた。
それを知った冒険者達がギルドに我先にと集まってきた。
だが、彼らは依頼を受ける気配を全く見せず、ギルドにやって来た冒険者達に品定めするかのようなイヤらしい視線を送るのみだった。
もうお気づきであろうが、彼らは自ら進んで依頼を受けるためにギルドにやって来たのではない。
彼らはクズ冒険者達で、”コバンザメ“、“ごっつあんです”などのクズスキル?を行う冒険者達を探しにきたのである!
ちなみにそのほとんどがクズ集団、プライドのメンバーであった。
真面目に依頼を受けようとやって来た冒険者達はその意図の気づき、やる気を削がれ、Uターンする者が続出した。
そこで、彼らクズ冒険者達は重い腰を上げ、自ら討伐に出向くことにした、
なんて事はもちろんなく、実力がありそうなパーティがうっかりやって来たら積極的に声をかけ始めたのだった。
そんな事をするのでまともな冒険者はますますギルドに寄り付かなくなり、マナッド・レインの影響も収まったこともあり、ベルダから去って行く者が続出した。
そしてついにベルダギルドはクズ冒険者達の溜まり場と化し、完全にその機能を失ってしまったのである!
かつてはクズの巣窟とまで呼ばれたマルコをベルダが超えた瞬間でもあった。
ベルダギルドのギルマスはこの新記録樹立を知り、小躍りして喜んだ、
わけはなく、頭を抱えていた。
ベルダ鉱山魔物襲来の報を受けたとき、冒険者ギルドからも救援に向かわせることにした。
募集するとすぐさま正義感あふれるBランク以上の冒険者達が立候補し、騎士団と旅立っていった。
その姿を見てギルマスはベルダギルドを誇らしく思ったものだった。
しかし、その思いに浸る時間は長くは続かなかった。
彼らが去った後、依頼を真面目にこなす気のないクズ冒険者達が幅を利かせるようになったからだ。
そして、このクズ冒険者達が愚行を犯してベルダの街に危機をもたらす。
クズ集団、プライドをまとめるBランククズパーティがマナッド・レインの影響で魔物が強化されているという事を知った上で、魔物退治に出かけて行き、多数の死者を出した挙句に魔物を引き連れて逃げ帰って来たのだ。
それでもベルダ鉱山の魔物討伐を終えて騎士団や冒険者達が帰ってくるまでの辛抱だと思っていた。
ギルマスの誤算はベルダ鉱山の魔物討伐が長引き、今だに戻る目処すら立っていない事だ。
ギルマスはベルダ鉱山での戦闘が均衡状態を保てているのは、惜しみなく実力のある冒険者達を送ったからだと自分に言い聞かせてなんとか心を落ち着かせた。
そして先日、ようやくベルダが魔物の包囲から解放され、これからだと思ったらこのあり様である。
「……これはもう彼らに頼るしかないな」
ギルマスはクズ退治専門家がベルダに来ていると知り、ずっとギルドに来るのを待っていたが一向にやって来る気配がないので痺れを切らして自ら呼び出す事にした。
ギルマスは手配した高級料理店にやって来た彼らが席につくなり単刀直入に言った。
「俺のギルドでも間引いてくれ」
「ちょっと何を言っているのか分かりません」
クズ退治専門家?リサヴィのサラは即答した。
ベルダのギルマスが一息ついて言った。
「お前達が各地でやっている事をここベルダでもやってくれと言っているだけだ」
サラがリサヴィのメンバーに目を向けるとリオは黙々と料理を食べており、アリスもそれに続く。
ヴィヴィは仮面で表情は全く見えず何を考えているのかわからない。
(結局、また私が対応するのね)
「ですから何を言っているのかさっぱりわかりません」
ギルマスが小さく頷いた。
「……そういう事か」
「はい?」
「では確認だが、お前達が行く先々でクズ冒険者が死ぬ。それは否定しようのない事実だな?」
「……まあ、それはそうですが私達は何もしていません」
「ならそういう事でかわまわん。まずは旅人の安全確保のため街道沿いの魔物討伐を引き受けてくれ。そして偶然でも必然でも構わんからお前達に寄生しようと寄ってきたクズ共を抹殺、ではなく、そのっ、ともかくだ、なんとかしてきてくれ!」
「「「「……」」」」
「もちろん、タダでとは言わん!聞けばお前達は六英雄の一人であるユーフィのところへ向かうためにベルダ鉱山の坑道を通りたいのだろう?」
「ええ」
「特別許可証を発行してやる」
「特別許可証ですか?」
「そうだ。許可証があれば好きな時に向かえるぞ。もちろん、道中に魔物が現れるだろうがお前達の力なら問題ないだろう」
ここで初めてヴィヴィが反応した。
「ぐふ。私達に利点があるように聞こえるが、クズだけでなく、膠着状態のベルダ鉱山の魔物も私達に片付けさせようとしているのではないのか?」
「否定はせん。だが、このまま待っていてもいつ通れるようになるかわからんぞ」
「「「「……」」」」
結局、リサヴィは依頼を受ける事にした。
一応断っておくと街道沿いの魔物討伐を、である。
その翌日。
リサヴィはベルダに来て初めてベルダギルドにやってきた。
クズ集団プライドが存在することを知り、ギルドに向かえば彼らと遭遇することは疑いようもないので今までは避けていたのだ。
ただでさえクズ冒険者との遭遇率が高い(サラとアリスのクズコレクター能力?)のに、わざわざ自分達からクズ達の中へ飛び込む気にはならなかったのである。
ギルドに入って来た冒険者達にギルドで待機していたクズ冒険者達やギルド職員達の視線が集まる。
彼らがリサヴィだと知る者達の反応は様々であった。
リサヴィが死神パーティと呼ばれていることはクズ冒険者達の間で有名だった。
初級クズ冒険者達はリサヴィに殺されると恐怖してコソコソとギルドから逃げ出した。
反対にリサヴィがギルマスの言った通りやって来たのを見てギルド職員達の瞳に希望の光が灯った。
特に受付嬢はここ最近、クズ冒険者達の相手しかしていなかった。
それも依頼とは関係ない無駄話やセクハラ行為である。
そのため、カウンターに立つ事が苦行と化して転職を考える者もいたのだった。
「「「いらっしゃいませ!リサヴィの皆さん!!」」」
カウンターから受付嬢が久し振りに心からの笑顔を見せてリサヴィに挨拶をした。
その声でリサヴィだと知らずに品定めしていた初級クズパーティの体が硬直し、それが解けると彼らもまた顔を真っ青にしてギルドから逃げるように出て行った。
こうしてリサヴィはギルドにやって来ただけでほとんどのクズ冒険者をギルドから追い払ったのであった!
ギルドに残ったのはクズ冒険者達に絡まれていたまともな冒険者達と上級クズ冒険者達だけとなった。
上級クズ冒険者達は根拠のない自信に満ち溢れた顔で舌なめずりをしながらリサヴィの挙動を見守っていた。
まともな冒険者達はリサヴィがやって来た事でクズ冒険者達から解放され、ほっとしていた。
彼らはリサヴィの表の噂しか知らないのか、羨望の眼差しを向ける。
「だいぶ空気がよくなりましたね」
「ぐふ。クズ臭を放つ奴らが出て行ったからな。……全員ではないが」
「そうなんだ」
アリスがはっとした顔をして言った。
「これはもう依頼達成ではっ?」
「そんなわけないでしょう。ギルマスに討伐依頼を受けると約束していますから」
「ぐふ。そもそも“そっち”の依頼は受けていない」
「そっ、そうでしたねっ」
リオは自分達に向けられている視線に気づいていないのか、何事もないかように依頼掲示板へ真っ直ぐと向かう。
そしてギルマスに言われた通り、街道沿いの魔物討伐の依頼書を剥が、
さず、別の依頼書に手を伸ばしたのでサラが慌ててその手を掴んで本来受ける予定の依頼書へ方向修正する。
「今日はこっちです」
「そうだった」
リサヴィがカウンターで依頼の受付処理をしていると近づいて来るパーティがあった。
「リサヴィ!」
「ん?」
リオ達が振り返ると一組のパーティが立っていた。
「先日は妻が大したもてなしもせずにすまなかった」
そのパーティの一人がモモの依頼で手紙を渡した女性の夫だった。
「いえ、気にしないでください。私達は依頼を実行しただけですから」
これで話は終わりのはずであったが、向こうはまだ何か言いたそうだった。
「他に何か?」
「ああ、その依頼だが、俺達も同行させてもらえないか?」
そのパーティのリーダーはリオ達と同じ依頼書を手にしていた。
そう、この依頼は複数のパーティへの依頼であった。
「勝手にすれば」
珍しくサラが答える前にリオが返事したが、投げやりな答えに彼らは困惑する。
仕方なくサラが補足する。
「一緒に受けるのは構いませんが、私達は皆協調性がありませんのでそういうものは期待しないで下さい」
「ああ。助かるぜ!」
こうしてリサヴィはCランクパーティと一緒に依頼をする事になった。




