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悪夢を振り払え〜あなたを魔王にはさせません!〜  作者: ねこおう
第4部 クズ達のレクイエム編(タイトル変更)
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362話 英雄達?の敗走

 リサヴィが宿屋を出ると、昨日絡んできたクズ冒険者(二号)達が待ち構えていた。


「昨日はよくも恥をかかせてくれたな!」

「危うく牢屋にぶち込まれるところだったぞ!」

「こりゃ責任を取ってもらわねえとな!」

「「「「……」」」」


 彼らの自業自得なのだが、もちろん彼らはそんな事を微塵も思っていなかった。

 悪いのは全て自分達以外だと考える者達なのだ。

 彼らは焦っていた。

 彼らはベルダを解放した冒険者達になりきっておいしい思いをしようと考えなしにポールアックスなどの装備を一式揃えたものの、おいしい思いをするどころか装備一式の費用回収すら出来ないでいたからだ。

 それは当然の事だった。

 何せ彼らと同じ考えに至ったクズ冒険者達が至る所にいるのだ。

 そんな者達が多数いれば皆最初から偽者と疑ってかかる。

「証拠にポールアックスの腕前を見せてくれ」と言われればそこでジ・エンド。

 持っているだけの偽物だとすぐにバレる。

 それでも彼らはなんとしてでも投資分を回収しようと躍起になっていたのだ。



「おい、神官!昨日のお詫びに俺らのパーティに入れ!」

「「だな!」」

「嫌ですっ」


 勧誘されたアリスは考える様子を全く見せずに即答する。

 

「「「ざけんな!!」」」


 アリスが何か言おうとしたがその前にヴィヴィが一歩前に出た。

 

「なんだ棺桶持ち!てめえ、英雄の俺らに逆らう気か!?」


 そう言って大剣持ちのクズ冒険者が大剣の柄に手をかける。

 それに倣うようにポールアックスを担いだクズ冒険者が睨みをきかせながらポールアックスを倒さないようにと慎重に扱いながら軽く叩く。

 その姿は表情とは裏腹にとても情けなかった。


「ぐふ。お前らがベルダを救ったという英雄だと言い張るなら……」

「なんだその言い草は!?」

「俺らはホンモンだって言ってんだろうが!」

「ぐふ。確かその冒険者三人のうち、一人は神官だったな」


 そう言ってヴィヴィがクズ冒険者達の最後の一人を見た。

 片手剣を装備したその冒険者はうっ、と唸ったのみで肯定も否定もしない。

 彼の返事を待たずにヴィヴィは続ける。


「ぐふ。既に神官がいるのだろう。勧誘はやめてもらおうか」

「ですねっ」


 クズ冒険者達はヴィヴィの言葉に一瞬返事に窮したが、クズ冒険者の名は伊達ではない。(本人達は名乗ってないが)

 すぐさま言い訳を思いつく。

 

「おいおい、見てわかんねえか?俺らは戦士二人に神官一人だ。つまり、これじゃ勇者は一人しか誕生しねえ。もう一人神官がいるだろうがよ」


 そう言った大剣持ちのクズ冒険者の顔は誇らしげだった。

 それに残り二人も続く。


「ぐふ。では勇者候補の腕を見せてもらおうか。それによっては考えなくもないぞ」

「ざけんな!何棺桶持ちごときが偉そうに言ってんだ!」

「てめえもだぞブス!」

「……」


 昨夜に続き、まだ何も言っていないサラがヴィヴィの巻き添いで被弾する。

 サラはムッとしたもののこの場はヴィヴィに任せて沈黙を保とうとしたが、ヴィヴィが便乗してきた。


「ぐふ。黙ってないで言い返したらどうだ。ブス」

「ヴィヴィ!?」

「なんだ、やっぱりブスか!」

「ぐふ。こいつはいつもアリエッタに嫉妬しているのだ」

「ヴィヴィさんっ。そんなことないですよっ」


 アリスはヴィヴィの意図を読んで名前の間違えを訂正しなかった。

 アリスは褒められて顔をほくほくさせて、サラにちょっと勝ち誇った顔を見せた。

 サラは言い返さない。

 心の中で、またアリスへのゲンコツのレベル上げないといけないわね、と思いながら。

 ちなみに全く会話に参加していないリオが何をしていたかと言えば何もしていなかった。

 話すらまともに聞いているようには見えず、ぼー、と空を眺めていた。

 サラをからかうことができて満足げな笑みを浮かべながら(と言っても仮面で見えないが)話を戻す。


「ぐふ。お前らは既に英雄で、更に勇者になるつもりなのだろう?その腕前を見せてくれ。まずはそこのポールアックス持ち、」


 ヴィヴィの言葉でポールアックス持ちの冒険者が固まる。


「と、思ったが楽しみは最後まで取っておくか。大剣持ち、お前から見せてくれ」

「ざ、ざけんな!!何が楽しみだ!!」


 そう言いながらもほっとした表情を見せるポールアックス持ちのクズ冒険者。

 指名された大剣持ちのクズ冒険者だが、こちらもメイン武器ではなかったのだろう、顔を真っ赤にして怒鳴りながら言い訳する。


「お、俺らの剣技は見せもんじゃねえんだよ!!」

「ぐふ?もう十分見世物になっているぞ」

「な、なに!?」


 ヴィヴィの指摘で彼らが辺りを見回すと、住民や冒険者達が立ち止まり、このやり取りを見学していた。

 クズ冒険者達は顔を真っ赤にしてヴィヴィを睨みつける。


「て、てめえら!俺らが誰だかわかってねえようだな!!」

「もう許さんからな!棺桶持ち!!それにブス!!」


 またもサラはヴィヴィの巻き添いで被弾した。

 彼は先程から顔を隠したサラに敵意剥き出しだった。

 過去に顔を隠した女性に酷い目にでも遭ったのかもしれないが、リサヴィの誰も興味がなかったのでその事を尋ねなかった。


「……おいおい、マジかよ?」

「あいつらよくやるぜ」 

「……ありゃ終わったな」


 見学者、いや、野次馬達の中からボソボソとそんな声が聞こえた。

 クズ冒険者達はその声を聞き、自分達がクズ集団(本人達はそう思っていないが)“プライド”のメンバーだと知っている者達が、目の前の生意気な冒険者達にこれから起こる悲惨な最期を想像しているのだと思った。

 クズ冒険者達は自分達がプライドのメンバーだと言うとベルダを解放した冒険者達ではないとバレてしまうので今まで黙っていたが、もう騙し通すのは無理と判断して正体を明かし、プライドの力を利用する事にしたのだ。

 プライドの名で脅し、生意気な棺桶持ちとブス、その他ガキ一名をボコって女神官を手に入れるつもりであった。


「もう遊びはやめだ!よく聞け!俺らはなっ!プラ……」


 話しているクズ冒険者の耳に野次馬の話し声が聞こえた。

 

「あいつら、知らねーんじゃないか」

「自分達が絡んでる相手が死神パーティだって事をよ」

「だな」


「イ……ドいいいいいい!?」


 クズ冒険者達は改めて目の前のパーティを見た。

 そのパーティ構成は、噂に聞くリサヴィそのものであった。

 彼らは先行投資回収とアリスの美しさで頭がいっぱいで指摘されるまで全く気づかなかったのだった。

 彼らの傲慢な態度が一瞬で消滅した。

 意地の悪いことには定評のあるヴィヴィは、彼らが自分達の事をリサヴィだと気づき動揺しているのを知りながら何事もないように話を続ける。


「ぐふ?どうした?何か言いかけていただろう?プラ、なんだ?よく聞こえなかったぞ」


 クズ冒険者の一人が万が一にかけてヴィヴィに確認する。

 

「そ、その前によ、お前ら、その、あれか?死神、じゃなくてリサヴィ、とか言わねえよな?」


「ぐふ。だったらどうする?」

「わたし達はっリサヴィですよっ」


 アリスのトドメの一撃で彼らの顔が真っ青になる。


「へ、へへ……」


 クズ冒険者達の態度が完全に卑屈モードへと移行する。

 クズ冒険者達が卑屈な笑みで今までの事を誤魔化そうとするが、意地が悪いことには定評のあるヴィヴィは責め続ける。


「ぐふ。『へへ』ではわからんぞ。もしかしてお前らのクズ集団のプラ、かイドかは知らんがそこでは通じるのか?」


 ヴィヴィの言葉を聞き、クズ冒険者達はリサヴィがプライドの事を知っていると気づき、焦り出す。

 “気に入らない“冒険者(自分達を含む場合はクズ冒険者とは呼ばない)を葬っているというリサヴィの噂を知っている彼らは自分達の行為に腹を立てて自分達だけでなく、プライドまで標的にされる事を恐れたのだ。

 もしも、そんな事になればプライドのリーダーからどんな罰を受けるかわからない。

 つい最近、リーダーに逆らったパーティが全員殺されたばかりだった。

 それに彼らは今までのクズ冒険者同様、プライドだけは異常に高いのだ。

 公衆の面前で恥をかかされたままでは終われなかった。

 それらの理由からなんとか自分達の体面を保とうと必死だった。

 クズ冒険者達が卑屈な笑みを浮かべながら言った。


「ま、まあなんだ。今回はお互い不幸な行き違いがあったって事でよ、手打ちにしようぜ!」

「それがお互いのためだぜ!」

「だな!」

「「「「……」」」」

「な、なあ、わかんだろ?」

「な、なんとか言ってくれよ。『わかった』とかよ」

「お、おうっ、それで全て解決だ!」


 サラは彼らの身勝手な言い分に呆れた顔(フードで隠れて見えていないが)をしながら言った。


「全くわかりません」

「んだとブス!!」


 そのクズ冒険者が顔を隠した女性に酷い目に遭ったのは間違いないだろう。

 脊髄反射の如く、考える素振りもなくサラを怒鳴りつけた。

 それに他のクズ冒険者達が悲鳴を上げる。


「バ、バカ!お前、正気か!?」

「こいつらがホンモンのリサヴィならそいつは鉄拳制裁だぞ!」

「ああっ!!」

「……その二つ名で呼ぶのはやめなさい」


 クズ冒険者達は、サラの冷やかな声を聞き、根拠のないプライドが吹っ飛んだ。

 恥も外聞もなく「ひいっー!!」と悲鳴を上げて逃げ出した。

 その様子を見ていた周りから笑いと歓声が起こった。

 それは彼ら、と言うよりも彼らが属しているプライドがそれだけ嫌われているという証であった。



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