352話 混成商隊結成
ベルダへ出発の朝。
リサヴィとリトルフラワーが集合場所へ向かうと馬車が八台並んでいた。
うち二台が質素なのでこの馬車が護衛用のようだ。
サラ達が聞いていた数より多い事を疑問に思っているとウーミが手を振りながらやって来た。
「おはようございます!リサヴィの皆さん!リトルフラワーの皆さん!護衛よろしくお願いします!」
満面の笑みを浮かべたウーミにサラが挨拶しながら尋ねる。
「ええ、よろしくお願いします。ところであれ全部そうなのですか?馬車は合計四台と聞いていたのですが……」
「あ、はい、そうなんですが実は……」
「それは私から説明させてください」
そう言って会話に割り込んできた者も商人風の男だった。
「実は私共もベルダへ向かうところだったのですが、昨夜またマナッド・レインが降ったらしくてですね、それを知った私共の雇った護衛が依頼を強引にキャンセルして出て行ってしまいましてね……」
「はあ」
「そんな時にウーミ殿があのリサヴィとサキュ……リトルフラワーに護衛を依頼した事を知りましてですね、その、申し訳ありませんが、私共もその商隊に混ぜて頂けないかとご相談に伺ったところです」
「はあ」
「「是非お願いします!」」
「はあ……ん?」
サラが声が一つ多いなと思ったら説明していた商人のやや後方にいた男が一緒に頭を下げていた。
サラはリリスに肩を突かれて彼女が指差す方向を見るといつの間にか馬車が十二台に増えていた。
サラが唖然としている間にリリスが尋ねる。
「後ろのあなたもですの?」
「は、はいっ。私共には護衛がいるのですが、マナッド・レインの影響が残っている魔物を相手にするのは厳しくてですね……」
「そうですか。しかしですわね、私達はウーミさんの商隊の護衛の依頼を受けたのです。他の商隊の護衛をお受けする事は出来ませんわ」
しかし、商人達は必死に食い下がって来た。
「ウーミ殿は皆さんが納得されれば構わないと。ああ、もちろん、報酬はウーミ殿と同じ額をお支払い致します!」
「私共もです!なんなら倍支払っても構いません!ですので是非私共の護衛を!」
「ちょ、ちょっと!?」
その言葉にウーミが慌てる。
「ウーミさん、安心して下さい。私達は一度受けた依頼を放り投げたりはしませんわ」
「あ、ありがとうございますリリスさん」
リリスの冷めた目を受けて倍出すと言った商人が焦り出す。
「す、すみません!べ、別にウーミ殿から護衛を奪うつもりではなかったのです!そのっ、私共の商会は既にマナッド・レインで強化された魔物に商隊が襲われておりましてっ、期日通りに品物を送り届ける事が出来ず違約金を払っている状態でしてっ、もうこれ以上の失敗は本当にマズイのですっ!それでついっ、本当に申し訳ありません!」
護衛を横取りされようとしたウーミ本人が彼に助け舟を出す。
「あの、僕がいうのもなんなんですけど、余力があるようでしたらお願いできませんか?同じ商人だけに苦しみがわかるんです。信用は本当に大事なんです」
「ウーミ殿……」
「ぐふ。お前は甘いな。商人とはこいつのように他人を蹴落としてでも生き残りを第一に考えるものだと思っていたがな」
抜け駆けしようとした商人が「うっ」と唸った。
ウーミは苦笑いをする。
「あ、ははは。まあ、それも一理あるんですけど、聞けば今のベルダは品不足に陥って相当困っているようなのです。多く運べるに越した事はないですから」
サラがリオを見た。
「リオ、どうしますか?」
「ん?いいんじゃない」
リオはあっさり答えた。
「「ありがとうございます!」」
「本当にいいのですか?護衛は嫌がっていたでしょう?大変になりますよ」
「いいよ」
「では、リオがそう言うな……」
「護衛するのはサラ達だし」
次の瞬間、サラの鉄拳がリオを襲った。
リトルフラワーにも依存はなく、ここに混成商隊が結成されたのだった。
その商隊の様子をじっと見つめる者達がいた。
その大半が先のトーナメントでAグループだった冒険者達だった。
つまり、クズ冒険者達である。
彼らは何度断られようとリサヴィと一緒に護衛の依頼を受ける事を諦めてはいなかったのである。
いや、今やその標的はリサヴィだけではなかった。
Bグループでリトルフラワーが優勝したことを知り、彼女らの力をも利用しようと考えていたのだ。
彼らと一緒に護衛依頼を受ける事が出来れば勝ち組確定、安心してコバンザメができる、更に言えば獲物の横取りクズスキル?である“ごっつぁんです”もやり放題だと思っていた。
彼らの恥知らずは底無しであった。
彼らクズ冒険者達は商隊の規模が大きくなったことで護衛が不足するだろうと考えた。
「チャンスは今だ!」
彼らはゾロゾロと商隊の前にやって来ると護衛に立候補してきたのだった。
もちろん、彼らは真面目に護衛をやる気などナッシングであった。
しかし、持ち前の分厚い面の皮を利用して真面目な顔で言った。
「追加で護衛が必要なんじゃねえか?よしっ、俺らに任せろ!」
「いやいや俺らだ!俺らに任せろ!な!?」
その冒険者達はサラやアリスだけでなく、リトルフラワーの面々にもキメ顔をする。
当然、皆がスルー。
そんな事をしているうちに一組のパーティが強引に割って入って来た。
「待て待て!その護衛は俺達で決まってんだ!」
護衛に逃げられた商人がその冒険者達を見て「あっ!」と叫んだ。
その者達こそ商隊の護衛を勝手にキャンセルした者達だったのである!
彼らはリサヴィが商隊の護衛をすると知り、自分達の身勝手な行為を綺麗さっぱり忘れて何事もなかったかのように戻って来たのだった。
「その神経の図太さは尊敬に値するな!」
とその商人は感動し、
たわけはなく、彼らの辞書には“恥”という言葉は載っていないのかと呆れたのだった。
当然ながら、勝手に依頼をキャンセルした冒険者達をその商人が許すはずもない。
「今頃何しの来たのですか!?もうあなた達に用はありません!」
商人がキッパリと言ったが彼らはその言葉を笑い飛ばし、当然のように馬車に乗り込むと我が物顔で言った。
「おい、リサヴィ、お前らもこっちに乗れよ」
「「「「……」」」」
しかし、彼らの身勝手な行動はここまでだった。
その商人の商隊の誰かがギルドに連絡したらしく、ギルドの警備員がやって来て彼らを依頼無断キャンセルの疑いで連行して行った。
ギャーギャー騒ぐ彼らの声はすぐに聞こえなくなった。
結果をいうと、商隊は追加で護衛を雇う事はしなかった。
実力がリサヴィ達より贔屓目に見ても数段劣る、そしてなんと言っても彼らがコバンザメ目的なのは明らかだったからだ。
「ぐふ。本当にこいつら最近増えたのか?クズ根性が染み付いているようだが」
ヴィヴィはギルド職員の言った言葉を疑うのだった。




